このページでは、学生時代に国語が苦手だった筆者が、この順番で学べば文章の内容が分かるようになり、一気に得意科目にできたという経験をもとに、25年以上の指導において実際に受講生に好評だった「これなら古文が理解できる!」という学ぶ手順を具体的に紹介していきます。読んでいくだけで、文章の内容が分かるようになります。
はじめに
今回は『伊勢物語』第六段です。多くの教科書が「芥川」という題名で載せています。多くの人がこの文章で初めて「伊勢物語」に触れるでしょうから、まずは、「伊勢物語」について、簡単に説明しておきましょう。
文学作品・文学史について
「伊勢物語」は、ジャンルとしては「歌物語」に位置づけされます。「歌物語」というのは、文字通りお話の中に「和歌」が含まれるものということですが、「作り物語」と異なるのは「和歌」を中心としてお話が作られていることが特徴だということです。つまり、前後の文章はすべて「和歌」のために存在すると言っても過言ではありません。そのため、作り物語以上に和歌の解釈が大切になります。
では、具体的に「伊勢物語」についてですが、実は作者も詳しい成立年代も分かっていません。平安時代に成立し、「竹取物語」よりはやや新しいのではないかと言われています。
文章は一つ一つのお話が短く、「昔、男〜」で始まることが多いのが特徴です。この「男」は在原業平がモデルであると考えられ、この男の人生を描いたような形をとっています。他の作品に「在五中将の日記」「在五が物語」などと書かれています。「在五」とは在原業平のことを指すので、在原業平がモデルだと言われるのです。在原業平は色男で有名なので、『伊勢物語』は色恋沙汰の話が多いと思っていたらよいでしょう。
読解には、それくらいの知識があれば大丈夫でしょう。「歌物語」と言われると、大きく3つの作品がありますので、ついでに見ておいてもらえればと思います。

「芥川」『伊勢物語』読解のコツ&現代語訳
古文を読解する5つのコツをお話しましょう。以下の順に確認していくと以前よりも飛躍的に古文が読めるようになるはずです。
何度も本文を読んでみて(できれば声に出して)、自分なりに文章の内容を想像してみます。特に初めて読むときは、分からない言葉があっても意味調べなどせずに読みます。分からない言葉がある中でも文章の中に「誰がいるか」「どのようなことを言っているか」「どのような行動をしているか」を考えていきます。

本文にどのような人物が出てきているか、確認します。紙で文章を読むときは、鉛筆などで▢をつけるとよりよいでしょう。
簡単でもよいので、誰かに「こんなお話」だと説明できる状態にします。ここでは、合っているかどうかは関係ありません。今の段階で、こんな話じゃないかなと考えられることが大切なのです。考えられたら、実際にこの項目をみてください。自分との違いを確認してみましょう。
古文を読んでいると、どうしても自力では分からない所がでてきます。ちなみに、教科書などでは注釈がありますが、注釈があるところは注釈で理解して構いません。それ以外のところで、多くの人が詰まるところがありますが、丁寧に解説しているので見てみてください。

step4とstep5は並行して行います。きっと、随分と読めるようになっているはずです。
本文を読む
何度も本文を読んでみて、自分なりに文章の内容を想像してみましょう。特に初めて読むときは、分からない言葉があっても意味調べなどせずに読みます。分からない言葉がある中でも文章の中に「誰がいるか」、「どのようなことを言っているか」、「どのような行動をしているか」を考えていきます。

昔、男ありけり。女のえ得まじかりけるを、年を経てよばひわたりけるを、からうじて盗み出でて、いと暗きに来けり。芥川といふ川を率て行きければ、草の上に置きたりける露を、「かれは何ぞ。」となむ男に問ひける。行く先多く、夜も更けにければ、鬼ある所とも知らで、神さへいといみじう鳴り、雨もいたう降りければ、あばらなる蔵に、女をば奥に押し入れて、男、弓・胡籙を負ひて戸口に居り。はや夜も明けなむと思ひつつ居たりけるに、鬼はや一口に食ひてけり。「あなや。」と言ひけれど、神鳴る騒ぎにえ聞かざりけり。やうやう夜も明けゆくに、見れば、率て来し女もなし。足ずりをして泣けどもかひなし。
白玉か何ぞと人の問ひしとき露と答へて消えなましものを(『伊勢物語』より)
文章を読むことができたら、下の「登場人物の確認」「内容を簡単に理解」を読んで、自分の理解と合っていたかを確認します。
登場人物の確認
- 男
- 女
基本的には「男」と「女」の二人です。「堀河の大臣」「太郎国経の大納言」という人物が、上記の文の後に出てきます。
お話を簡単に理解
- 男が簡単には自分のものにできそうにない女を長年求婚し続ける
- 男は女を家から連れ出す
- 芥川という川のほとりで、女は草の上に置く露を「何か」と尋ねる
- 夜になって雷も鳴り雨も強く降るので、女を蔵に入れて男は玄関を守る
- 蔵に鬼が出て、女を一口で食べてしまうが、男は雷の音で気づかない
- 夜が明けて蔵の中をのぞくと女はいなくなっており、男は嘆き悲しんで和歌を詠む
今回は物語なので人物の動きや展開を把握することが大事になります。ある程度古文が読めるようになっても、ところどころ訳しにくい場所がありますので、そのあたりは飛ばして全体的に内容が分かるという状態にしていきましょう。
理解しにくい箇所の解説を見る
本文を読んで自分で内容を考えていったときに、おそらく以下の箇所が理解しにくいと感じたでしょう。その部分を詳しく説明します。解説を読んで、理解ができたら改めて本文を解釈してみてください。
- 昔、男ありけり
- 女のえ得まじかりけるを
- 年を経てよばひわたりけるを
①昔、男ありけり

「はじめに」でも書きましたが、「昔、男」は『伊勢物語』の特徴的な書き出しです。例えば古文の問題集や模擬試験を見た時に、この書き出しであれば『伊勢物語』ではないかと思えるかそうでないかで、他の人とは大きく差が開きます。さらに、「男」は「在原業平」がモデルであるということを知っていれば、「恋多き男の色恋沙汰の話」の可能性が高いと話の予想が立てやすくなり、本文を読むのが一段と早くなりますよ。
②女のえ得まじかりけるを
(訳)はこちら(タップで表示)
女で(あって)、(とても)自分の妻にできそうになかった女を

ポイントは2つ。一つは「同格の『の』」、もう一つは「え〜【打消】」です。
同格の「の」ですが、これは「の」の上の部分と下の部分が同じものを指すということを表すものです。例えば、「白き鳥の脚の赤きがあり」は「白き鳥」と「脚の赤き(鳥)」が同じ「鳥」を表しているということです。このとき、「赤き」は連体形ですが、形としてはやや不自然になっています。それは体言(名詞)が省略されているからです。なので、読むときには「脚の赤き」の後に「の」の手前にある名詞である「鳥」を補う必要が出てくるのです。そして、訳すときには「の」を「で」と置き換えて「白い鳥で、脚の赤い鳥がいる」とします。特にテストではこのように訳すことで、「私は同格の『の』を知っている」と出題者にアピールできるのです。ただ、美しい訳ではないので、気持ち悪いと思う人は「の」の前と後ろを入れ替えて「脚の赤い白い鳥」としてもかまいません。まとめると、②の文では「女で、『え得まじかりける』女を」と訳すことになります。「え得まじかりける」の訳は次に説明します。
次に「え〜【打消】」です。この「え」は、実は現代語にも残っていて、主に関西地方で使われる「ようせんわ」の「よう」です。ですが、さすがにテストでそんな訳もしにくいので、「〜できない」と不可能表現で訳します。「え」は呼応の副詞と呼ばれていて、必ず「打消」表現が後に出てきます。その多くが「ず」なのですが、今回は「まじ」と打消推量の助動詞になっています。この「まじ」もやや訳しにくいのですが、「え」に呼応して「〜できそうにない」と訳すとうまくいきます。また、「ける」は過去の助動詞「けり」連体形です。この連体形の後に「女」を補って訳します。最後に、「得」は「手に入れる」でもよいですが、もう少し文章にあった形にしてもよいかもしれません。
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③年を経てよばひわたりけるを
(訳)はこちら(タップで表示)
何年もの間求婚し続けていたが

ここは重要単語が2つ出てきます。「よばふ」と「わたる」です。
「よばふ」(動・ハ四)
1何度も呼ぶ
2言い寄る/求婚する
「よばふ」は現代語では「夜這う」ですが、もともとは「呼ばふ」です。「ふ」は奈良時代の助動詞で、反復・継続を表します。ですから、「何度も呼ぶ」が第一義になります。「男」が何を呼ぶのかを考えると、当然答えは「女」となり、「女」を呼ぶのは、自分のものにするため、つまり求婚するためと考えられるので、「求婚する」という意味が出てくるのです。ここでは、「求婚する」でいいと思います。
次に「わたる」です。もともとは「ある場所からある場所に移動する」という意味ですが、動詞に続くと以下の意味になります。
「――わたる」(動・ハ四)
ずっと――する
一面に――する
「年を経て」は「何年も経過して」という意味ですから、ここでは「何年もの間」くらいに解釈したらよいでしょう。「ける」は過去の助動詞、「を」は接続助詞で「〜が」と訳してみましょう。
以降の展開は、上の板書を見てください。女を連れ出した男は、日が暮れるまで逃げますが、夜には女をボロ家に入れて、玄関を守ります。夜も移動したらよいのですが、天気が荒れたので移動できなかったのです。ちなみに、この時に通った川が「芥川」で、その川が現在のどこなのかは分かっていません。お話の題名になっているのに、なにも分からない「芥川」なのでした(笑)。
《本文解釈と現代語訳》
では、本文を改めて解釈してみましょう。
昔、男ありけり。女のえ得まじかりけるを、年を経てよばひわたりけるを、からうじて盗み出でて、いと暗きに来けり。芥川といふ川を率て行きければ、草の上に置きたりける露を、「かれは何ぞ。」となむ男に問ひける。
(訳)はこちら(タップで表示)
昔、男がいた。女で(あって)、(とても)自分の妻にできそうになかった女を、何年もの間求婚し続けていたが、やっとのことで盗み出して、とても暗いときに逃げて来た。芥川という川(のほとり)を(女を)連れて行ったところ、草の上に降りていた夜露を、「あれは何ですか。」と(女は)男に尋ねた。
おわりに(テスト対策へ)
テスト対策へ
今回は、『伊勢物語』の「芥川」の前半部についてお話しました。一通り学習を終えたら、今度はテスト対策編もご覧ください。

お話の続き(第2回)について
この後和歌に行くまでに、男に背負われている女が草の上に置く露を見て「あれはなあに」と聞いています。深窓(しんそう)の女性(=箱入り娘)の世間知らずな様子に、思わずにっこりしてしまう「男」を想像してみるとより読解が深まりますね。「白玉か何ぞ」の和歌を中心にこのお話は作られています。その和歌を中心に展開される後半は会員限定記事(登録は無料)となります。続きの記事の閲覧を希望される人は下記の「会員限定記事の閲覧を希望する」をタップして会員登録を行ってください。
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