助動詞「つ」「ぬ」

文法 助動詞1

はじめに

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上記の項目を約10分で説明しています。以下の動画をご覧ください。動画はライブ感を重視したものになっています。

助動詞「つ」「ぬ」について

「つ」「ぬ」は完了の助動詞と呼ばれるものです。これは、「ある動作が出来上がった(確定した)ことを」を表したもので、確述や確認などと言われることもあります。ですが、学習する上では、「出来上がった」ことに注目して、「〜た」「〜てしまう」と訳す「完了」を表す助動詞と理解しておいたら結構です。
「つ」と「ぬ」の2つがありますが、もちろんそれらには使い分けがあります。また、「つ」も「ぬ」も一字の助動詞なので、活用すると見分けるのが難しくなります。ここで基本を学んで、多くの文章に触れながら「つ」「ぬ」の使い方に気づけるようになってほしいと思います。詳しくは「文法問題での出題のされ方」の項目でお話します。

接続・活用表・意味

まず、例文を使って「つ」「ぬ」という助動詞を理解していきます。

(例文)年ごろ思ひつること、果たしはべり。(長年思っていることを果たしました。)

「つ」も「ぬ」も完了の助動詞だということを最初に述べましたので、これは「思った/思っている」「果たしました/果たしています」とそれぞれ解釈すればいいわけです。私は文章に合うように「思っている」「果たしました」を選択しました。

接続を確認します。「つ(つる)」の直前はハ行四段活用動詞「思ふ」の連用形、「ぬ」の直前はラ行変格活用動詞「はべり」なので連用形か終止形か見分けがつきませんが、他の例文で「風吹きべし」(2つ後の板書を参照)とあるので、連用形と判断できます。「吹き」がハ行四段活用動詞の連用形だからです。以上から、「つ」「ぬ」の接続は連用形だと分かります。

「つ」「ぬ」の接続=連用形

活用の仕方は、「つ」が動詞の下二段活用、「ぬ」が動詞のナ行変格活用と同じです。よって、「つ」は下二段型、「ぬ」はナ変型の活用をする助動詞と言います。

「つ」「ぬ」の活用
 「つ」=下二段型 「ぬ」=ナ変型

改めて意味を確認します。「つ」「ぬ」は「ある動作が出来上がった(確定した)ことを」表す助動詞です。出来上がった瞬間に注目すれば、意味は「完了」となります。また、「つ」「ぬ」の後に推量の助動詞「む」や「べし」などがきた場合(「〜てむ」「〜なむ」「〜つべし」「〜ぬべし」)、「きっと〜だろう」と訳すことが多くなります。これは、「後にある動作が出来上がる」ことを表すので、完了とは言いにくいわけです。「それが確かに後に出来上がる(はずだという)ことを述べている」ということで、「確述」(または「確認」)と言われます。ただ、「確述」という日本語に馴染みが薄いので、一般的には「推量」の意味を強めていると考えて「強意」としています。説明が長くなりましたが、以上をまとめるとこのようになります。

「つ」「ぬ」の文法的意味
 「完了」(ーーた/ーーてしまう)
 「強意」(きっとーー/確かにーー)※後に「む」「べし」などの推量の助動詞を伴う事が多い

「つ」「ぬ」の意味の違い

助動詞「つ」と「ぬ」は、同じ「完了」「強意」を表す助動詞ですが、もちろん発生が異なります。一説には、「つ」の語源が「つ」だと言われています。これは「捨ててしまう」という意味で、「〜てしまう」という意味が助動詞として残ったと考えるわけです。また、「ぬ」の語源は「ぬ」で、「眼前から消え去ってしまう」という意味を持つ語です。これも「〜てしまう」という意味が助動詞として残ったと考えると、結果的にどちらも「完了」の意味を持つわけです。ただし、この語源から考えてみると、「つ」は「自分の意志で行っている」、「ぬ」は「自然に行われてしまう」という内容が、見えないけれども含まれると考えられます。ですので、「つ」は作為的・意志的な動詞につき、「ぬ」は自然の成り行きを表す動詞につくことになるのです。

以上をまとめるとこのようになります。

「つ」…主に人為的・作為的な動詞に接続する
「ぬ」…主に自然発生的・無作為的な動詞に接続する

ただし、この違いは徐々になくなっていき、鎌倉時代の後半には「つ」「ぬ」が随分といい加減に用いられていることも見受けられます。

文法問題での出題のされ方

完了の助動詞「ぬ」の終止形は、打消の助動詞「ず」の連体形と見間違えそうになることがあります。例えば以下の例文を見てください。

(例文1)
「はや船に乗れ。日も暮れ。」

この「ぬ」が完了の助動詞なのか、打消の助動詞なのかは、ぱっと見ただけではわかりません。例えば「書きぬ」であれば、「書き」がカ行四段活用の連用形なので、完了の助動詞だと分かりますが、直前の「暮れ」がラ行下二段活用動詞なので、未然形か連用形かの判断はできません。もちろん、「ぬ」が文末にあるので、終止形だから完了の助動詞「ぬ」と判断することができるのですが、それでも自身を持って言い切ることは難しいでしょう。このようなときはきちんと文章を読んで、「完了」か「打消」かを判断するほうがよいです。船を渡す人が乗る人に「早く船に乗れ」と言っている場面ですが、その理由が「日も暮れぬ」なわけです。そうすると、「日が暮れてしまうから早く船に乗れ」というのが自然流れですよね。そうすると、「暮れぬ」の「ぬ」は完了であると確信を持って言えるわけです。以上、1つ目は「ぬ」が「完了」の助動詞なのか「打消」の助動詞なのかを判断させる問題が出されやすいということの説明でした。

また、完了の助動詞「つ」も「ぬ」も一字の助動詞です。一字の助動詞は活用すると別の文字になってしまうので、文章の中に出てくると、一見分からないことがあります。例えば以下の例文を見てください。

(例文2)
・なきものに身をも人をも思ひつつ捨てし世をぞ更に捨てつる
・かぎりぞと思ひなりし世の中をかへすがへすもそむきぬるかな

青字のものが完了の助動詞「つ」または「ぬ」です。「捨てつる」や「そむきぬる」は活用が分かっていれば、まだ見分けはつきそうですが、「捨てし世」「思ひなりし世の中」は一瞬で判断するのは難しそうです。これは、両者とも直後が「し」になっていますが、この「し」はその後の「世」が名詞であることで、連体形の「し」だとわかります。連体形の「し」は過去の助動詞「き」だと気づくことができれば、それぞれが完了の助動詞「つ」「ぬ」の連用形だと分かるのですが、これを瞬時に分かるようになるには、多くの文章に触れる必要がありそうです。なので、文法問題ではこれらを出題してくるのです。ただ、これを見分ける方法として、次の項目で「公式」としていくつかを挙げてみようと思います。

公式

さきほどの(例文2)で、一字の助動詞の活用は見分けにくいという話をしましたが、以下のような形になっている場合は、完了の助動詞「つ」「ぬ」(直後に推量の助動詞が来る場合は主に「強意」)になります。ただし、接続が連用形の時に限ります。

  • き、けり、けむ
    (完了「つ」の連用形)
  • き、けり、けむ
    (完了「ぬ」の連用形)
  • む、まし
    (強意・完了「つ」の未然形)
  • む、まし
    (強意・完了「ぬ」の未然形)
  • べし(強意・完了「つ」の終止形)
  • べし(強意・完了「つ」の終止形)

以上で完了の助動詞「つ」「ぬ」の説明を終わります。完了の助動詞は文章の中でも非常によく使われる語なので、早く慣れていきましょう

練習問題

助動詞「つ」「ぬ」について理解ができたか、実際の問題を通して確認していきます。

接続・活用の問題

問一 次の括弧に、下に示した助動詞を、適当に活用させて入れなさい。
(例)濡らし( て )む。←〔つ〕
(1)取り(   )けり。←〔つ〕  
(2)のたまひ(   )ど、←〔つ〕
(3)いひ(   )こと。←〔つ〕  
(4)なり(   )こと。←〔ぬ〕
(5)浦を去り(   )!←〔ぬ〕  
(6)落ち(   )べし。←〔ぬ〕

【解答】問一(1)て(2)つれ(3)つる(4)ぬる(5)ね(6)ぬ

【解説】 
(1)取り(   )けり。←〔つ〕
 直後が「けり」なので連用形。「つ」の連用形は「て」
(2)のたまひ(   )ど、←〔つ〕
 直後が「ど」なので已然形。「つ」の已然形は「つれ」
(3)いひ(   )こと。←〔つ〕
 直後が「こと」なので連体形。「つ」の連体形は「つる」
(4)なり(   )こと。←〔ぬ〕
 直後が「こと」なので連体形。「ぬ」の連体形は「ぬる」
(5)浦を去り(   )!←〔ぬ〕
 直後が「!」なので命令形。「ぬ」の命令形は「ね」
(6)落ち(   )べし。←〔ぬ〕
 直後が「べし」なので終止形。「ぬ」の終止形は「ぬ」

文の中から「つ」「ぬ」を見つけ出す問題

問二 各文中の、助動詞「つ」「ぬ」を抜き出し、活用形を書きなさい。ただし、一つとは限らない。
(1)翁の申さむことは、聞き給ひてむや。  
(2)暮れぬれば、参りぬ。 
(3)いみじう、久しうもなりにけるかな。  
(4)うぐいすの、鳴きつる枝を、折りてけるかな。

【解答】
問二(1)「て」未然形(2)「ぬれ」已然形・「ぬ」終止形(3)「に」連用形(4)「つる」連体形・「て」連用形

【解説】
「つ」「ぬ」を見つけ出すのは、まず直前の動詞が連用形になっているかを確認すること、あとは、「公式」で確認した形になってるかを確認することの2点です。
(1)翁の申さむことは、聞き給ひてむや。
「聞き給ひてむや」の「て」が完了の助動詞「つ」です。「給ひ」がハ行四段活用の連用形かつ公式の「てむ」の形になっていることに気がつくと答えられます。「て」の直後は「む」なので、未然形です。
(2)暮れぬれば、参りぬ。
答えは2つあります。1つめは「暮れぬれば」の「ぬれ」が完了の助動詞「ぬ」です。「ぬれ」は見分けやすいですね。直後が「ば」であること、活用の仕方の両方で考えるとこの「ぬれ」は已然形です。2つめは「参りぬ」の「ぬ」です。「ぬ」の直前の「参り」はマ行四段活用の連用形なので、この「ぬ」は完了の助動詞です。文末ですし、活用の仕方で考えてもこれは終止形ですね。
(3)いみじう、久しうもなりにけるかな。
「なりにけるかな」の「に」が完了の助動詞「ぬ」です。「なり」がラ行四段活用の連用形かつ公式の「にけり」の形であることから判断できます。「に」の直後は「ける(けり)」なので連用形です。
(4)うぐいすの、鳴きつる枝を、折りてけるかな。
これも答えが2つあります。1つめは、「鳴きつる」の「つる」が完了の助動詞「つ」です。これは活用の仕方で連体形だとわかります。2つめは、「折りてけるかな」の「て」です。「て」の直前の「折り」がラ行四段活用の連用形かつ公式の「てけり」の形であることから完了の助動詞「つ」だとわかります。「けり」の直前なので連用形です。

おわりに

今回は完了・強意の助動詞「つ」「ぬ」を学びました。意外と公式が役に立つので、覚えておくと便利です。文章読解の解説で「公式」についてはあまり言及しないので、ここできちんと覚えておくと、なぜこれが完了の助動詞になるのだろうという疑問を持たずにすみます。次回は存続の助動詞「たり」「り」です。これも「完了の助動詞」と言われますが、「つ」「ぬ」との違いを理解していきましょう。

これまでの内容を動画で確認したい方は以下をご覧ください。

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