はじめに
自己紹介はこちら
先生、今回の文章は「説話」ってあるんですけど、説話って何ですか。
「説話」というのは、「説く話」だから、人が語るくらいの短くて分かりやすいお話だと考えてもらったらいいよ。短い話の中にも作者の主張や教訓などが含まれることが多いので、そこは見逃さないようにしよう!
「絵仏師良秀」予習・読解編 第1回
今回は『宇治拾遺物語』という説話集に載っている話で、教科書には「絵仏師良秀」と題名がつけられていることが多いです。一般的には「えぶっしりょうしゅう」と読みます。これは一年生の初期に習う場合と二年生の初期に習う場合とがあります。この解説ではどちらにも対応していますが、一年生の初期の学習には「助動詞」の説明が難しいと思いますので、そのあたりは飛ばしてもらっても大丈夫です。ある程度、助動詞の知識がついてきた時に改めて見てください。では、始めましょう!
することは以下の3つです。
1本文を読む
2登場人物の確認
3お話を簡単に理解
本文を読む
電車やバスの中では難しいですが、自宅で読んでいる時はぜひ声に出して読んでみてください。そうすると、読みにくい箇所が分かると思います。何度も本文を読んでみて、内容を想像してみるのが予習の最も大事なことです。その際、意味調べなどしないことがポイントです。
良秀の行動や考えに注目して読んでみよう!
これも今は昔、絵仏師良秀といふありけり。家の隣より火出で来て、風おしおほひてせめければ、逃げ出でて大路へ出でにけり。人のかかする仏もおはしけり。また、衣着ぬ妻子なども、さながら内にありけり。それも知らず、ただ逃げ出でたるをことにして、向かひのつらに立てり。
見れば、すでに我が家に移りて、煙、炎、くゆりけるまで、おほかた、向かひのつらに立ちて眺めければ、「あさましきこと。」とて、人ども来とぶらひけれど、騒がず。「いかに」と人言ひければ、向かひに立ちて、家の焼くるを見て、うちうなづきて、時々笑ひけり。
ーーーー(ここから第2回)ーーーー
「あはれ、しつるせうとくかな。年ごろはわろくかきけるものかな。」と言ふときに、とぶらひに来たる者ども、「こはいかに、かくては立ちたまへるぞ。あさましきことかな。物のつきたまへるか。」と言ひければ、「なんでふ物のつくべきぞ。年ごろ不動尊の火炎をあしくかきけるなり。今見れば、かうこそ燃えけれと、心得つるなり。これこそ、せうとくよ。この道を立てて世にあらむには、仏だによくかきたてまつらば、百千の家も出で来なむ。わたうたちこそ、させる能もおはせねば、物をも惜しみたまへ。」と言ひて、あざ笑ひてこそ立てりけれ。
その後にや、良秀がよぢり不動とて、今に人々めであへり。
登場人物の確認
絵仏師良秀 (良秀を見舞う)人ども
人々(後の時代の人)
自宅が燃えた良秀が、周りの人々と話す形式を取っています。最後に出てくる「人々」は良秀が亡くなった後の時代の人です。
お話を簡単に理解
第一段落
・絵仏師良秀の家の隣から出火して、自分の家に燃え移りそうなので、大路へ逃げた
・家の中には制作中の仏の絵と妻子が残っているのもかかわらず、向かい側で立っている
第二段落
・自分の家が燃えているのを良秀が眺めていると、周囲の人が慰めてくれる
・良秀は慌てず騒がず、時々頷いては笑っている
ーーーー(ここから第2回)ーーーー
・良秀「今まで下手くそに絵を描いていたものだ」
・周囲の人は、良秀に正気を失ったかと言うが、良秀は反論する
・今まで火炎を背にする不動尊の絵を上手く描けていなかったが、この火事で描き方が分かった
・良秀は絵仏師の道で生計を立てるなら、仏の絵をうまく描けばよいと言う
・後の時代に、「良秀の描いた『よぢり不動』」と人々が称賛する
次に、理解しにくい箇所を解説していきます。
理解しにくい箇所の解説
以下の4箇所が分かれば、前半部の文章はほぼ理解できるはずです。
- 人のかかする仏もおはしけり
- 衣着ぬ妻子なども、さながら内にありけり
- 「あさましきこと。」とて、人ども来とぶらひけれど
- 「いかに」と人言ひければ
①までのあらすじです。
絵仏師良秀の家の隣が火事になりました。その火が風に乗って自分の家にまでやってきそうです。良秀は家から逃げ出しましたが……。
①人の描かする仏もおはしけり
→(訳)(家の中には)人が良秀に描かせた仏もいらっしゃった
まず、「おはす」の意味を確認します。
おはす
「おはす」(動・サ変)←「あり・行く・来」の尊敬語
=(尊)いらっしゃる
絵だといっても「仏」ですので、尊敬語が使われているわけです。
次に、「の」ですが、これは主格を表す格助詞で、「〜が」と訳します。そうすると、「人が(良秀に)描かせた」となるわけです。
「する」「けり」はそれぞれ助動詞で、使役の助動詞「す」の連体形で「〜(さ)せる」、「けり」は過去の助動詞「けり」の終止形です。
②衣着ぬ妻子なども、さながら内にありけり
→(訳)(外に出る)衣服を着ていない妻や子どもなどもそのまま家の中にいた
ここは、「ぬ」の意味が重要になります。「ぬ」は助動詞ですが、助動詞の「ぬ」には「打消」(〜ない)と「完了」(〜た/てしまう)の2つの意味があります。
「ぬ」の識別
1 未然形+ぬ=打消の助動詞「ず」の連体形(〜ない)
2 連用形+ぬ=完了の助動詞「ぬ」の終止形(〜た/〜てしまう)
文法的に考えると、まず「ぬ」の上に注目します。それが未然形なのか、連用形なのか考えるわけですが、今回は「着る」(カ行上一段活用)なので、未然形か連用形の違いがわかりません。ここが分からない人は、ぜひ動詞について改めて学習してください。次に、「ぬ」の下に注目します。そうすると、「妻子」という名詞(体言)が来ています。ということは「ぬ」は連体形で、この「ぬ」は打消だということが分かるのです。まあ、本当に服を着ていないわけではないでしょうから、外に出る服ではなかったということでしょうね。なお、打消の助動詞、完了の助動詞はそれぞれ確認しておいてください。
また、「さながら」はここでは「そのまま」と理解しておけばよいでしょう。
良秀は逃げたのをいいことに、向かい側に立っています。やがて火は自宅に移りますが、良秀は家が燃え尽きるまで眺めています。
③「あさましきこと」とて、人ども来とぶらひけれど、
→(訳)(火事で家が燃えてしまって)「あきれたことでしたね」と言って、人々が見舞いにやってきたけれど、
まずは「あさまし」の意味です。まずは「驚きあきれる」とおぼえておけばよいでしょう。
あさまし
「あさまし」(形・シク活)
=(意外なことに)驚きあきれる/
興ざめだ/情けない
次に「とぶらふ」も覚えましょう。ここでは漢字にすると「訪らふ」です。
とぶらふ
「とぶらふ」(訪らふ)(動・ハ四)
=見舞う、訪れる
「見舞う」が最も出てきます。つまり、人々は良秀に慰めの言葉をかけているわけです。家が燃えてしまったことに「あさましきこと」でしたね、と気の毒そうに言っている状態を表しているのでしょう。
良秀は、慰めの言葉をかけてもらっても、騒ぐことなく落ち着いています。
④「いかに」と人言ひければ
→(訳)(落ち着いている良秀を見て)「どうしたのか」と人々が言ったので
「いかに」は疑問詞全般を指します。英語でいう「5W1H」のすべてを担っているので、自分でどの意味になりそうかは、文章の流れから考えていく必要があります。ここでは”how”の意味で、「どう/どのように」が近そうですね。
良秀は、心配そうな周りの人から声をかけられても、ただ笑っているだけです。
それはなぜなのでしょうか。続きは第2回でお話しましょう!
テスト対策 第1回
本文の確認
テスト直前でもすべきことの基本は、「本文を読むこと」です。これまで学習した内容をしっかり思い出しながら読みましょう。「テスト対策」はあえてふりがなをつけていません。不安な場合は、このページの上部「本文を読む」で確認してください。
これも今は昔、絵仏師良秀といふありけり。家の隣より火出で来て、風おしおほひてせめければ、逃げ出でて大路へ出でにけり。人のかかする仏もおはしけり。また、衣着ぬ妻子なども、さながら内にありけり。それも知らず、ただ逃げ出でたるをことにして、向かひのつらに立てり。
見れば、すでに我が家に移りて、煙、炎、くゆりけるまで、おほかた、向かひのつらに立ちて眺めければ、「あさましきこと。」とて、人ども来とぶらひけれど、騒がず。「いかに。」と人言ひければ、向かひに立ちて、家の焼くるを見て、うちうなづきて、時々笑ひけり。
これらの単語の意味は分かっているかな?
「おはす」「あさまし」「とぶらふ」「いかに」
あらすじの確認
第一段落
・絵仏師良秀の家の隣から出火して、自分の家に燃え移りそうなので、大路へ逃げた
・家の中には制作中の仏の絵と妻子が残っているのもかかわらず、向かい側で立っている
第二段落
・自分の家が燃えているのを良秀が眺めていると、周囲の人が慰めてくれる
・良秀は慌てず騒がず、時々頷いては笑っている
出題ポイント
以下の4項目を、何も見ずに訳すことができるか確認してください。
- 人の描かする仏もおはしけり
- 衣着ぬ妻子など
- 「あさましきこと」とて、人ども来とぶらひけれど、
- 「いかに」と人言ひければ
人の描かする仏もおはしけり
《出題ポイント!》
「人の描かする仏」の解釈
「おはしけり」の意味
→(訳)(家の中には)人が良秀に描かせた仏もいらっしゃった
「人の描かする」の「の」ですが、これは主格を表す格助詞で、「〜が」と訳します。そうすると、「人が(良秀に)描かせた(仏)」となるわけです。「する」は、使役の助動詞「す」の連体形で「〜(さ)せる」
次に、「おはす」の意味を確認します。「おはす」(動・サ変)は「あり・行く・来」の尊敬語で、「いらっしゃる」という意味です。絵だといっても「仏」ですので、尊敬語が使われているわけですね。また、「けり」は過去の助動詞「けり」の終止形で、「〜た」と訳します。よって、「おはしけり」は「いらっしゃった」と訳せばよいわけです。
衣着ぬ妻子などもさながら内にありけり
《出題ポイント!》
「衣」「妻子」のよみ
「衣着ぬ妻子」の解釈
「さながら」の意味
→(訳)(外に出る)衣服を着ていない妻や子どもなどもそのまま家の中にいた
「衣」は「きぬ」、「妻子」は「めこ」と読みます。「妻」を「め」と読むのはこれからよく出てきますから、今回で覚えてしまいましょう。
「衣着ぬ妻子」の解釈です。「ぬ」は助動詞ですが、ここでは打消の助動詞「ず」の連体形です。「衣着ぬ妻子」の「ぬ」を文法的に考えるときに、まず「ぬ」の上に注目します。それが未然形なのか、連用形なのか考えるわけですが、今回は「着る」(カ行上一段活用)なので、未然形か連用形かの違いがわかりません。ですので、次に「ぬ」の下に注目します。そうすると、「妻子」という名詞(体言)が来ています。ということは「ぬ」は連体形で、この「ぬ」は打消だということが分かるのです。
また、「さながら」はここでは「そのまま」と理解しておけばよいでしょう。
「あさましきこと」とて、人ども来とぶらひけれど、
《出題ポイント!》
「あさましきこと」の解釈
「とぶらふ」の意味
なぜ「人ども」は「あさましきこと」と言っているのか
→(訳)(火事で家が燃えてしまって)「あきれたことでしたね」と言って、人々が見舞いにやってきたけれど、
まずは「あさまし」の意味です。まずは「驚きあきれる」と覚えておけばよいでしょう。そうすると、「あさましきこと」は、「驚きあきれたこと」となりますが、相手に語りかけていることを考えれば、「家が燃えてしまって、驚きあきれたことでしたね」くらいに解釈した方がよいわけです。
次に「とぶらふ」も覚えましょう。ここでは漢字にすると「訪らふ」です。 「とぶらふ」は「見舞う、訪れる」という意味ですが、「見舞う」をぜひ覚えておきましょう。この場面では、人々は良秀に慰めの言葉をかけているわけです。
「いかに」と人言ひければ
《出題ポイント!》
「いかに」の意味
人はなぜ「いかに」と問うたか
→(訳)(落ち着いている良秀を見て)「どうしたのか」と人々が言ったので
「いかに」は疑問詞全般を指します。英語でいう「5W1H」のすべてを担っているので、自分でどの意味になりそうかは、文章の流れから考えていく必要があります。ここでは”how”の意味で、「どう/どのように」が近そうですね。少し意訳して「どうしたのか」とすれば、文章の内容に合いそうです。
では、なぜ「いかに」と問うたのか。それは、良秀が通常と違う態度だったからです。普通なら慌てふためく場面で、良秀は落ち着いています。
文法の確認
今回は第1回で動詞・形容詞の確認、第2回で助動詞の確認をします。あまり多くは出題せず、よく出るものに絞っています。動詞の活用の種類の見分け方、形容詞の細かい説明については、以下をご覧ください。
本文中の青太字の活用の種類と活用形を答えなさい。なお、⑦⑧は形容詞、他は動詞である。
これも今は昔、絵仏師良秀といふ①ありけり。家の隣より火②出できて、風おしおほひてせめければ、逃げ出でて、大路へ③出でにけり。人の書かする仏も④おはしけり。また、衣⑤着ぬ妻子なども、さながら内にありけり。それも知らず、ただ逃げ出でたるをことにして、向かひのつらに⑥立てり。
見れば、すでにわが家に移りて、煙、炎くゆりけるまで、おほかた、向かひのつらに立ちて、眺めければ、「⑦あさましきこと。」とて、人ども来とぶらひけれど、騒がず。「いかに。」と人言ひければ、向かひに立ちて、家の焼くるを見て、うちうなづきて、ときどき笑ひけり。「あはれ、しつるせうとくかな。年ごろは⑧わろく書きけるものかな。」と言ふ時に、とぶらひに来たる者ども、「こはいかに、かくては立ち給へるぞ。あさましきことかな。物のつき給へるか。」と言ひければ、「なんでふ、物のつくべきぞ。年ごろ、不動尊の火炎を悪しく書きけるなり。今見れば、かうこそ燃えけれと、⑨心得つるなり。これこそ、せうとくよ。この道を立てて、世にあらむには、仏だによく書き奉らば、百千の家も、出で来なむ。わ党たちこそ、させる能もおはせねば、物をも惜しみ給へ。」と言ひて、あざ笑ひてこそ立てりけれ。そののちにや、良秀がよぢり不動とて、今に人々⑩めで合へり。
解答は以下のとおりです。
①ラ行変格活用。連用形
②カ行変格活用・連用形
③ダ行下二段活用・連用形
④サ行変格活用・連用形
⑤カ行上一段活用・未然形
⑥タ行四段活用・已然形(命令形)
⑦シク活用・連体形
⑧ク活用・連用形
⑨ア行下二段活用・連用形
⑩ダ行下二段活用・連用形
おわりに
今回は「絵仏師良秀」でした。このお話は高校で古文を学習すると必ずといっていいほど学びます。しかも、割と1年生の初期に学ぶのですが、1年生の初期に学ぶにはやや内容が難しいのではないかと個人的には思っています。せめて助動詞をある程度(打消・受身・使役・過去・完了)身につけてから読みたいですね。理想は1年生の後半か、2年生の初期だと思っていますがいかがでしょうか。いずれにせよ、1項目ずつ丁寧に理解していってください。読めるようになるはずです。では、また次回お会いしましょう。
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