このページでは、学生時代に国語が苦手だった筆者が、この順番で学べば文章の内容が分かるようになり、一気に得意科目にできたという経験をもとに、25年以上の指導において実際に受講生に好評だった「これなら古文が理解できる!」という学ぶ手順を具体的に紹介していきます。読んでいくだけで、文章の内容が分かるようになります。また、テスト前に学習すると、これだけ覚えておいたらある程度の点数は取れるという「テスト対策」にも多くの分量を割いて説明します。
はじめに
今回は『伊勢物語』第九段の第3回です。多くの教科書が「東下り(あづま下り)」という題名で載せています。前回は都を失意の底で出た男が、東に向かい、「宇津の山」がある静岡まで来たところまでお話しました。第1回、第2回の内容は以下をタップしてご覧ください。


「東下り」読解のコツ 第3回
今回は「男」がさらに270キロほど東に進み、武蔵の国の隅田川(東京都)にたどり着きます。では、古文を読解する5つのコツをお話しましょう。以下の順に確認していくと以前よりも飛躍的に古文が読めるようになるはずです。
何度も本文を読んでみて(できれば声に出して)、自分なりに文章の内容を想像してみます。特に初めて読むときは、分からない言葉があっても意味調べなどせずに読みます。分からない言葉がある中でも文章の中に「誰がいるか」「どのようなことを言っているか」「どのような行動をしているか」を考えていきます。

本文にどのような人物が出てきているか、確認します。紙で文章を読むときは、鉛筆などで▢をつけるとよりよいでしょう。
簡単でもよいので、誰かに「こんなお話」だと説明できる状態にします。ここでは、合っているかどうかは関係ありません。今の段階で、こんな話じゃないかなと考えられることが大切なのです。考えられたら、実際にこの項目をみてください。自分との違いを確認してみましょう。
古文を読んでいると、どうしても自力では分からない所がでてきます。ちなみに、教科書などでは注釈がありますが、注釈があるところは注釈で理解して構いません。それ以外のところで、多くの人が詰まるところがありますが、丁寧に解説しているので見てみてください。

step4とstep5は並行して行います。きっと、随分と読めるようになっているはずです。
本文を読む

なほ行き行きて、武蔵の国と下総の国との中に、いと大きなる川あり。それをすみだ川といふ。その川のほとりに群れゐて思ひやれば、限りなく遠くも来にけるかなとわび合へるに、渡し守、「はや舟に乗れ。日も暮れぬ。」と言ふに、乗りて渡らむとするに、みな人ものわびしくて、京に思ふ人なきにしもあらず。さる折しも、白き鳥の、嘴と脚と赤き、鴫の大きさなる、水の上に遊びつつ魚を食ふ。京には見えぬ鳥なれば、みな人見知らず。渡し守に問ひければ、「これなむ都鳥。」と言ふを聞きて、
名にし負はばいざこと問はむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと
とよめりければ、舟こぞりて泣きにけり。(『伊勢物語』より)
何度も本文を読んでみて、内容を想像してみることが最も大事です。ただし、今回は3回に分けて行いますので、これはその3です。前の部分は第1回、第2回をタップしてご覧ください。
登場人物の確認
・男 ・友(一人二人) ・渡し守
第3回は男たち一行が隅田川を渡る話です。この川を渡ると、さらに京都が遠くなった気がするのでしょうか、男たちは川を渡ることをためらいます。その様子を渡し守がとがめるという内容です。
お話を簡単に理解
・さらに進んで、武蔵の国と下総の国を結ぶ「すみだ川」に到着する
・川のほとりで改めて遠くに来たことを嘆く
・「渡し守」が、日が暮れるので早く船に乗れと催促する
・京都に残してきた人のことを思って嘆きながらも一行は船に乗る
・そんなときに、くちばしと脚が赤く鴫くらいの大きさの白い鳥を見る
・「渡し守」はその鳥を「都鳥」だという
・「都鳥」に関する和歌を詠み、船で涙を流す
この箇所は展開もわかりやすく、意味をつかむのはあまり難しくないでしょうが、多少の文法事項はわかっていないと、例えば「日も暮れぬ」を「日も暮れない」と訳したり(正しくは「日も暮れてしまう」)、「京には見えぬ鳥」を「京では見えた鳥」と訳したり(正しくは「京都では見えない鳥」)してしまいます。打消の助動詞「ず」と完了の助動詞「ぬ」について、今一度確認しておいてください。
理解しにくい箇所の解説を見る
本文を読んで自分で内容を考えていったときに、おそらく以下の箇所が理解しにくいと感じたでしょう。今回はそれらの2箇所(+1)を詳しく解説していきます。解説を読んで、理解ができたら改めて本文を解釈してみてください。
⑨わびあへるに
⑩名にし負はばいざこと問はむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと
白き鳥の、はしと脚と赤き、鴫の大きさなる

一行は武蔵の国と下総の国を隔てる「すみだ川」(東京都)にたどり着きます。そこで、川のほとりに集まって、遥か遠くにまで来てしまったことを思い嘆きます。


これは現在の隅田川です。
⑨わびあへるに
(訳)はこちら
→(訳)みんな嘆いていると


まず、「わぶ」という重要古語を理解する必要があります。現代語では「侘しい」という形容詞で理解したほうが分かりやすいでしょう。「侘しい」は「寂しい、心細い、みすぼらしい」などの意味があります。それは古文の「わぶ」が「困惑、悲哀、失意」の意味を持っているからです。というわけで、「わぶ」の意味を以下に示します。
「わぶ」(動・ワ上二)
困る・嘆く・つらく思う
ここでは、「嘆く、つらく思う」がぴったりくるでしょうか。
次に「あへる」です。「あへ」は「合う」で、現代語でも「〜しあう」といいます。「みんな〜する」という意味でとっておくとよいでしょう。また、「あへ」はハ行四段活用の已然形(命令形)なので、「あへる」の「る」は存続(完了)の助動詞「り」の連体形だということもわかります。



男たちが感傷に浸っていると、船を渡す「渡し守」が早く船に乗るよう催促してきます。男たちは、さらに遠くに行くことを覚悟しますが、京都に残していた人がいると思うとみんなつらく思ってしまいます。
では、上記のあらすじを参考にしながら、本文を途中まで解釈してみましょう。
なほ行き行きて、武蔵の国と下総の国との中に、いと大きなる川あり。それをすみだ川といふ。その川のほとりに群れゐて思ひやれば、限りなく遠くも来にけるかなとわび合へるに、渡し守、「はや舟に乗れ。日も暮れぬ。」と言ふに、乗りて渡らむとするに、みな人ものわびしくて、京に思ふ人なきにしもあらず。
(訳)はこちら(タップで表示)
なおもどんどん進んで行って、武蔵の国と下総の国との間に、とても大きな川がある。それを隅田川という。その川のほとりに集まり座って(遠く離れた都に)思いを馳せると、限りなく遠くへ来てしまったものだなあ、と(皆で)嘆き合っていると、渡し守が、「早く舟に乗れ。日も暮れてしまう。」と言うので、(舟に)乗って(川を)渡ろうとするが、男たちは皆なんとなくつらくて、(というのも)京に思う人がいないわけではない。
白き鳥の、はしと脚と赤き、鴫の大きさなる
(訳)はこちら(タップで表示)
白い鳥で、くちばしと脚とが赤く、鴫くらいの大きさである鳥が
「白き鳥の」の「の」について解説しておきます。この「の」は同格の「の」と言われるものです。「白き鳥」と「はし(=くちばし)と脚と赤き、鴫の大きさなる(鳥)」が同じ「鳥」を表していることが分かればよいでしょう。



隅田川では、鳥が水上で遊びながら魚を食べています。京都では見ない鳥なので一行は誰もその鳥を知しません。渡し守に聞くと、「これが都鳥だ」といいます。
では、上記のあらすじを参考にしながら、本文を途中まで解釈してみましょう。
さる折しも、白き鳥の、嘴と脚と赤き、鴫の大きさなる、水の上に遊びつつ魚を食ふ。京には見えぬ鳥なれば、みな人見知らず。渡し守に問ひければ、「これなむ都鳥。」と言ふを聞きて、
(訳)はこちら(タップで表示)
ちょうどそのとき、白い鳥で、くちばしと脚とが赤く、鴫くらいの大きさである鳥が、水の上で遊びながら魚を食べている。京では見かけない鳥なので、男たちはだれも見知らない。渡し守に尋ねたところ、「これが都鳥だ。」と言うのを聞いて、
⑩《和歌》名にし負はばいざこと問はむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと
(歌訳)はこちら(タップで表示)
「都」という名を負っているならば、さあ尋ねよう。都鳥よ、私の想う人は元気にしているのかいないのか


これは前から一つずつ理解していく方がよいでしょう。
「名にし負はば」は「名前を背負っているならば」です。「し」が強意の副助詞で、意味を強めたり語調を整えたりする(訳さなくてもよい)ものだと分かれば、あとは「名」がどのような名なのか考えると理解できそうです。前の渡し守の言葉から「都鳥という名」と分かります。その名前を負っているなら「お前にたずねたい」と最初の2句で言っているのです。「いざ」は「さあ」と訳します。また、「む」は意志の助動詞「む」の終止形ですので、この和歌は二句切れです。
後ろの3句は「ありやなしや」の解釈ができれば全体が分かりそうです。「や」が疑問を表しているので直訳は「いるのかいないのか」ですが、この和歌の少し手前に「京に思ふ人なきにしもあらず」とあったので、この和歌は京都に残してきた想い人への歌だと考えられます。よって、「ありやなしや」は「元気にしているのかいないのか」などと解釈できればよいでしょう。
では、⑩の和歌から最後に本文の終わりまで解釈してみましょう。
名にし負はばいざこと問はむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと
とよめりければ、舟こぞりて泣きにけり。
(訳)はこちら(タップで表示)
「都」という名を負っているならば、さあ尋ねよう。都鳥よ、私の想う人は元気にしているのかいないのか
と詠んだので、舟の中の人はそろって泣いてしまった。
大きな川に橋など渡せることのできない時代、船に乗るということは、自分ではもう戻れないということを表すのでしょうね。心情的にもより遠くに行く感じがします。そんな彼らは都に思いを馳せながら、涙を流して先に進んでいくのでしょう。今なら新幹線を使うと3時間程度(乗り換え含めて)の距離ですが、当時の人は何日もかけて行き来するのでしょうね。普段京都にいる人達にとって、東京や千葉というのは今の私達には考えられないほど遠い場所なのだと思います。
これで「東下り」の文章読解は終わりになります。『伊勢物語』は短くて面白いお話が他にもたくさんあるので、ぜひ読んでみてほしいと思います。
↑タップして詳細を確認
テスト対策 第3回
「第3回」は静岡県から東京の隅田川まで移動した一行が、遠くまできたことを嘆く場面です。
では、今回の「東下り」において、テストに出そうな内容にできるだけ絞ってお話します。テスト対策は次のような流れで行うとよいでしょう。このサイトは下記の流れで解説をしています。
テスト直前でもすべきことの基本は、「本文を読むこと」です。これまで学習した内容をしっかり思い出しながら読みましょう。
古文の問一は「よみ」の問題であることが多いですね。出題されるものは決まっているので、ここで落とさないように、しっかり確認しておくことです。
「どのような話」か、簡単に説明できる状態にしましょう。
ここでのメインになります。古文はどうしても「知識」を問う必要があるので、問われる箇所は決まってきます。それならば、「よく問われる」出題ポイントに絞って学習すれば、大きな失点は防げそうですね。このサイトでは「よく問われる」箇所のみを説明していますので、じっくり読んでみてください。
いわゆる「文学史」の問題です。テスト対策としては、それほど大きな点数にはならないので、時間がない場合は飛ばしてもよいかもしれません。
本文読解の一問一答を解答し、古典文法の問題を解答します。古典文法の問題は必ず出題されます。それは、直接「動詞の活用」や「助動詞の意味」を問うような問題だけでなく、現代語訳や解釈の問題などでも出題されます。必ず問題を解いて、できるようになっておきましょう。このサイトは文法事項の説明も充実しているので、詳しく知りたいときは、ぜひそれぞれの項目に進んで学習してみてください。
本文の確認
「渡し守」と一行とのやりとりについて、「都鳥」を見た一行の思いを考えながら読んでみましょう。
「テスト対策」はあえてふりがなをつけていません。不安な場合は、このページの上部「本文を読む」で確認してください。
なほ行き行きて、武蔵の国と下総の国との中に、いと大きなる川あり。それをすみだ川といふ。その川のほとりに群れゐて思ひやれば、限りなく遠くも来にけるかなとわび合へるに、渡し守、「はや舟に乗れ。日も暮れぬ。」と言ふに、乗りて渡らむとするに、みな人ものわびしくて、京に思ふ人なきにしもあらず。さる折しも、白き鳥の、嘴と脚と赤き、鴫の大きさなる、水の上に遊びつつ魚を食ふ。京には見えぬ鳥なれば、みな人見知らず。渡し守に問ひければ、「これなむ都鳥。」と言ふを聞きて、
名にし負はばいざこと問はむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと
とよめりければ、舟こぞりて泣きにけり。
読みで問われやすい語
青線部の読みができるようになっておきましょう。
- 武蔵の国と下総の国との中に、いと大きなる川あり。
- 嘴と脚と赤き、鴫の大きさなる
解答(タップで表示)
「武蔵」は「むさし」、「下総」は「しもつふさ」、「嘴」は「はし」、「鴫」は「しぎ」ですが、これらは出題確率としてはそれほど高くありません。「武蔵」「下総」は地名なので、場所も分かるようにしてくださいね。
あらすじの確認
・さらに進んで、武蔵の国と下総の国を結ぶ「すみだ川」に到着する
・川のほとりで改めて遠くに来たことを嘆く
・「渡し守」が、日が暮れるので早く船に乗れと催促する
・京都に残してきた人のことを思って嘆きながらも一行は船に乗る
・そんなときに、くちばしと脚が赤く鴫くらいの大きさの白い鳥を見る
・「渡し守」はその鳥を「都鳥」だという
・「都鳥」に関する和歌を詠み、船で涙を流す
出題ポイント
以下の項目が何も見ずに訳すことができるか確認してください。
・わびあへるに
・日も暮れぬ
・白き鳥の、はしと脚と赤き、鴫の大きさなる
・名にし負はばいざこと問はむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと
わびあへるに
(訳)はこちら(タップで表示)
みんな嘆いていると
全体の訳出と主語の確認
「わぶ」は「困惑、悲哀、失意」の意味を持っている語で、「困る、嘆く、つらく思う」などと訳します。ここでは、「嘆く、つらく思う」がぴったりくるでしょうか。次に「あへる」です。「あへ」は「合う」で、現代語でも「〜しあう」といいます。「みんな〜する」という意味でとっておくとよいでしょう。また、「あへ」はハ行四段活用の已然形(命令形)なので、「あへる」の「る」は存続(完了)の助動詞「り」の連体形だということもわかります。
日も暮れぬ
(訳)はこちら(タップで表示)
→(訳)日も暮れてしまう
「ぬ」の意味
ここでは、「ぬ」の働きが問題になります。単純化すると、「日も暮れた」のか「日も暮れない」のかどちらかです。これは「ぬ」の識別という知識が必要になります。こちらで詳しく説明していますので、こちらは結論だけですが、「ぬ」は完了の助動詞の終止形です。
白き鳥の、はしと脚と赤き、鴫の大きさなる
(訳)はこちら(タップで表示)
→(訳)白い鳥で、くちばしと脚とが赤く、鴫くらいの大きさである鳥が
・「白き鳥の」にある「の」の働き
・全体の訳出
「白き鳥の」の「の」について解説しておきます。この「の」は同格の「の」と言われるものです。「白き鳥」と「はし(=くちばし)と脚と赤き、鴫の大きさなる(鳥)」が同じ「鳥」を表していることが分かればよいでしょう。
《和歌》名にし負はばいざこと問はむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと
(訳)はこちら(タップで表示)
→(歌訳)「都」という名を負っているならば、さあ尋ねよう。都鳥よ、私の想う人は元気にしているのかいないのか
・何という「名」を負っているのか
・句切れの位置
・「ありやなしやと」の意味
これは前から一つずつ理解していく方がよいでしょう。
「名にし負はば」は「名前を背負っているならば」です。「し」が強意の副助詞で、意味を強めたり語調を整えたりする(訳さなくてもよい)ものだと分かれば、あとは「名」がどのような名なのか考えると理解できそうです。前の渡し守の言葉から「都鳥という名」と分かります。その名前を負っているなら「お前にたずねたい」と最初の2句で言っているのです。「いざ」は「さあ」と訳します。また、「む」は意志の助動詞「む」の終止形ですので、この和歌は二句切れです。
後ろの3句は「ありやなしや」の解釈ができれば全体が分かりそうです。「や」が疑問を表しているので直訳は「いるのかいないのか」ですが、この和歌の少し手前に「京に思ふ人なきにしもあらず」とあったので、この和歌は京都に残してきた想い人への歌だと考えられます。よって、「ありやなしや」は「元気にしているのかいないのか」などと解釈できればよいでしょう。
大きな川に橋など渡せることのできない時代、船に乗るということは、自分ではもう戻れないということを表すのでしょうね。心情的にもより遠くに行く感じがします。そんな彼らは都に思いを馳せながら、涙を流して先に進んでいくのでしょう。
文学作品・文学史の確認
「伊勢物語」は、十世紀(平安時代中期)に成立した、ジャンルとしては「歌物語」に位置づけされます。詳細は第1回に示していますので、以下をタップしてご覧ください。
練習問題(文法問題)
文法の確認
今回も助動詞です。「打消」「過去」「完了」の助動詞に絞って確認していきます。
↑詳細をタップして確認
【問題】(文章3)から、「打消」「過去」「完了」の助動詞を指定の数だけ抜き出し、その文法的意味と活用形を書きなさい。
(文章3)「ず」3「けり」4「ぬ」3「り」2
なほゆきゆきて、武蔵の国と下つ総の国との中にいと大きなる河あり。それをすみだ河といふ。その河のほとりに群れゐて、思ひやれば、限りなく遠くも来にけるかな、とわびあへるに、渡し守、「はや船に乗れ。日も暮れぬ。」と言ふに、乗りて渡らむとするに、みな人ものわびしくて、京に思ふ人なきにしもあらず。さる折しも、白き鳥の、嘴と脚と赤き、鴫の大きさなる、水の上に遊びつつ魚を食ふ。京には見えぬ鳥なれば、みな人見知らず。渡し守に問ひければ、「これなむ都鳥。」と言ふを聞きて、
名にし負はばいざこと問はむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと
と詠めりければ、船こぞりて泣きにけり。
解答は以下のとおりです。
【解答】はこちら(タップで表示)
(文章3)
なほゆきゆきて、武蔵の国と下つ総の国との中にいと大きなる河あり。それをすみだ河といふ。その河のほとりに群れゐて、思ひやれば、限りなく遠くも来に(完了・用)ける(過去・体)かな、とわびあへる(存続・体)に、渡し守、「はや船に乗れ。日も暮れぬ(完了・終)。」と言ふに、乗りて渡らむとするに、みな人ものわびしくて、京に思ふ人なきにしもあらず(打消・終)。さる折しも、白き鳥の、嘴と脚と赤き、鴫の大きさなる、水の上に遊びつつ魚を食ふ。京には見えぬ(打消・体)鳥なれば、みな人見知らず(打消・終)。渡し守に問ひけれ(過去・已)ば、「これなむ都鳥。」と言ふを聞きて、
名にし負はばいざこと問はむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと
と詠めり(完了・用)けれ(過去・已)ば、船こぞりて泣きに(完了・用)けり(過去・終)。
おわりに
全3回に渡ってお話してきた「東下り」もこれでおしまいです。長かったですが、「男」が都を出ることになったのも結局は自分の行動が原因なので、仕方がない部分があったのかもしれません。都に居づらくなったのは、入内させる娘を奪って逃げたことも大きな要因でしょう。この話は「芥川」に見えますね。とはいえ、辛く苦しい状況になった時、人はどのように考えるのか、今も昔も変わらないのではないかと思わせる文章でした。では、また次回お会いしましょう。
コメント