「東下り」『伊勢物語』解説・テスト対策 第1回

物語
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はじめに

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 今回は『伊勢物語』第九段です。多くの教科書が「東下り(あづま下り)」という題名で載せています。「伊勢物語」については第六段「芥川」の「はじめに」で説明していますので、詳細はそちらをご覧ください。以下は歌物語の一覧です。

今回は文章が長く、内容が大きく3つに分かれていますので、3回に分けて行います。

「東下り」予習・解説 第1回

では、始めましょう!することはいつも通り以下の3つです。

1本文を読む
2登場人物の確認
3内容を簡単に理解

本文を読む

  (むかし)(をとこ)ありけり。その(をとこ)()をえうなきものに(おも)ひなして、「(きやう)にはあらじ。(あづま)(かた)()むべき(くに)(もと)めに。」とて()きけり。もとより(とも)とする(ひと)一人(ひとり)二人(ふたり)して()きけり。(みち)()れる(ひと)もなくて、(まど)()きけり。()(かは)(くに)(やつ)(はし)といふ(ところ)にいたりぬ。そこを(やつ)(はし)といひけるは、(みづ)()(かは)()()()なれば、(はし)()(わた)せるによりてなむ、(やつ)(はし)といひける。その(さは)のほとりの()のかげに()りゐて、(かれ)(いひ)()ひけり。その(さは)かきつばたいとおもしろく()きたり。それを()て、ある(ひと)のいはく、「かきつばたといふ(いつ)()()()(かみ)()ゑて、(たび)(こころ)をよめ。」と()ひければ、よめる。
  (から)(ころも)きつつなれにしつましあればはるばるきぬる(たび)をしぞ(おも)
とよめりければ、みな(ひと)(かれ)(いひ)(うへ)(なみだ)()としてほとびにけり。

 何度も本文を読んでみて、内容を想像してみるのが予習の最も大事なことです。その際、意味調べなどしないことがポイントです。ただし、今回は3回に分けて行いますので、これはその1です。続きは第2回第3回をご覧ください。

登場人物の確認

 男 友(一人二人)

第1回は「男」が友人たちと自分の住むべき国を求めて東国へと向かう箇所です。他には誰もでてきません。

お話を簡単に理解

・「男」が自分の身を(都では)必要のない者だと感じて、友人たち一人二人とともに、都を出て東へ住むべき国を求めて出かける
・道中迷いながらも、三河の国(愛知県東部)八橋やつはしという場所にたどり着く
・「八橋」は蜘蛛の手のような川の形状に橋を8つ架けているからその名前になる
・川のほとりで木の陰に座って乾飯かれいひを食べる
・その沢に「かきつばた」が美しく咲いている
・ある人が「かきつばたの五字を句の上に据えて、旅の心を詠め」という
・和歌を詠む
・皆、感動して乾飯の上に涙を落とし、乾飯はふやけて食べやすくなる

今回は和歌の説明が大変ですが、文章の内容としては古文独特の単語もほとんどなく、初見である程度の内容がつかめそうです。多少の助動詞の知識が必要になりますが、それは徐々に分かっていけばよいでしょう。早く知りたい人は、
「京にはあらじ」の「じ」
「住むべき国」の「べき(「べし」)」
「八橋といふ所に至りぬ」の「ぬ」
「橋を八つ渡せる」の「る(「り」)」
「ほとびにけり」の「に(「ぬ」)」などをそれぞれ助動詞のページで学習してみてください。

理解しにくい箇所の解説を見る

以下の3箇所を詳しく解説していきます。

①昔、男ありけり。

「昔、男」は『伊勢物語』の特徴的な書き出しです「男」は「在原業平」がモデルであるということを知っていれば、「恋多き男の色恋沙汰の話」の可能性が高いと話の予想が立てやすくなり、本文を読むのが一段と早くなりますよ。今回は、都での生活がうまくいかずに、自暴自棄になっている「男」の話になっています。

以下は、②までの内容ですが、「お話を簡単に理解」の再掲です。

・「男」が自分の身を(都では)必要のない者だと感じて、友人たち一人二人とともに、都を出て東へ住むべき国を求めて出かける
・道中迷いながらも、三河の国(愛知県東部)八橋やつはしという場所にたどり着く
・「八橋」は蜘蛛の手のような川の形状に橋を8つ架けているからその名前になる
・川のほとりで木の陰に座って乾飯かれいひを食べる

②かきつばたいとおもしろく咲きたり

→(訳)かきつばたがとても美しく咲いていた

「かきつばた」はアヤメ科の植物です。水辺に生えて初夏に花をつけます。

「おもしろし」は重要単語です。漢字で書くと「面白し」ですが、分けて考えてみましょう。「面」は「顔」を表します。「つら」と読むときは現代語でも「顔」の意味ですね。「白し」は「明るい」というイメージを持っている語です。つまり、「見ていると顔が明るくなる」というのがもとの意味です。よって、(気持ちが)明るくなるようなものに対して用いられる形容詞だと分かります。

「面白し」(形・ク活)
 1見ていて心が晴れ晴れする  2趣深い

ここでは、花に用いられているので、「美しい」などと訳しておくとよいでしょう。

③《和歌》唐衣きつつなれにしつましあればはるばるきぬる旅をしぞ思ふ

→(歌訳)(唐衣を繰り返し着ているうちに着慣れ(てよれよれになってしまっ)たように)慣れ親しんだ妻が都にいるので、はるばる着てしまった旅をしみじみ思うことだ

この和歌は大変です。結論を先に言うと、「折り句」「枕詞」「序詞」「掛詞」「縁語」と様々な修辞技法が用いられています。これらを瞬時に理解するのは、たとえ大学受験生でもまず無理でしょう。そこで、どのような順番で考えていけばよいか、それをこの和歌で考えていきたいと思います。

まずは、修辞技法を一切考えずに、この和歌で言いたいこと(メインテーマ)を考えみましょう。この文章のテーマは「旅の心」ですから、四句めと五句めを見ると言いたいことは分かりそうです。「はるばる(遠くまで)やって来た旅を(しみじみ)思う」ということでしょう。この内容に合わせると、3句めは「(都には残してきた)妻がいるので」となり、さらに2句めの後半は「慣れ親しんだ」となるわけですから、この和歌で言いたいことの中心は「都には慣れ親しんだ妻がいるので、はるばる遠くまでやって来た旅をしみじみ思う」ということになるでしょう。最初の「唐衣きつつ」はまだ分からないので、いまのところは置いておきます。

次に、この和歌で使われている修辞技法をもとに、この和歌の内容を深めていきましょう。
1番めに、この和歌のテーマは「旅の心」でしたが、その前にある条件がつけられていました。それは「『かきつばた』の五字を句の上に据える」ということです。これは現代で言う「あいうえお作文」のようなもので、例えば「やきそば」を説明する時に「や」「き」「そ」「ば」それぞれで始めるわけです。「わらかい茹でたを鉄板で焼き」「れいな皿に盛り付け」「ースをかけて」「やく食べる」・・・うまくないですが(笑)、このような遊びをしたこともあるでしょう。「ば」は濁点を除いて「は」としてもかまいません。和歌ではこれを「折り句」と呼び、この和歌では、実際に「かきつはた」がそれぞれの語の頭にきていますね。

2番めは「唐衣からころも」に注目します。「唐衣」は唐風の着物という意味ですが、「着」にかかる枕詞まくらことばでもあります。「枕詞」とはある特定の語を導く五文字の言葉でしたね。「枕詞」は原則として訳す必要はないのですが、ここでは訳さないと「着」る対象が分からないので、残しておきましょう。ここでの「唐衣きつつ」が「なれにし」以降にどのようにつながっていくのか、それを次に考えます。

3番めは「掛詞」について考えます。先程も言いました通り、「唐衣きつつ」は「なれにし」にはうまくつながりません。それは、「なれ」が「慣れ親しむ」と考えているからです。実は「なれ」は掛詞で、「慣れ(馴れ)」と「れ(=着慣れ(てよれよれにな)る)」と言う意味が掛けられています。その2つをつなぎ合わせると、「唐衣を着慣れたように、(都には)慣れ親しんだ妻がいる」となるわけです。この和歌で最も言いたいこと(これを私は「メインテーマ」と呼んでいます)は、「(都には)慣れ親しんだ妻がいるので〜」でしたので、「唐衣きつつ」は、「なれ」を導くためのサブの働きをしているということになります。これを序詞じょことばと言い、メインテーマをより際立たせるための働きをしているということを知っておいてください。極論を言うと、訳さなくてもよいとも言えます。

4番目は「縁語」について考えます。「唐衣」はサブの役割ではありますが、よく見ると和歌の中に「衣服」を想像させる語がいくつもありますメインテーマとは異なるサブテーマを和歌の中に入れて言葉遊びをするのが「縁語」と言われるものです。この和歌では「唐衣」「着」「萎れ」「褄(衣の裾)」「張る」が「縁語」になっています。もちろん、「つま」「はる(ばる)」はメインテーマと異なる意味を含んでいるので、これも「掛詞」です。以上をまとめると、以下の板書のようになります。

以上の修辞技法を入れて訳をするのは至難の技ですが、なんとか訳すと以下のようになります。ただ、この時も助動詞の知識と助詞の知識が必要になるので、一応示しておきます。「なれにし」の「に」は完了の助動詞「ぬ」の連用形、「し」は過去の助動詞「き」の連体形です。「にき」「にけり」は「完了+過去」であることは、そろそろ覚えてしまいしょう。「つましあれば」の「し」、「旅をしぞ思ふ」の「し」はいずれも強意の副助詞といいます。語調を整えたり、前の語の意味を強めたりする働きをしますが、訳はしなくても問題ありません。

→(再掲)(唐衣を繰り返し着ているうちに着慣れ(てよれよれになってしまっ)たように)慣れ親しんだ妻が都にいるので、はるばる着てしまった旅をしみじみ思うことだ

みんな和歌を聞いて感動して涙を流し、その涙で乾飯がふやけるという、最後はやや茶化した感じで終わらせています。シリアスになりすぎないように工夫したのでしょうか。

テスト対策 第1回

「その1」は、「かきつばた」を題した歌を詠んで、乾飯かれいいがふやけるところまでです。

本文の確認

テスト直前でもすべきことの基本は、「本文を読むこと」です。
主人公は誰?なぜ京を出たの?どこにたどり着いたの?何を題にして歌を詠んだの?
そんなことを思い出しながら読んでみてください。
「テスト対策」はあえてふりがなをつけていません。不安な場合は、このページの上部「本文を読む」で確認してください。

 昔、男ありけり。その男、身をえうなきものに思ひなして、「京にはあらじ。東の方に住むべき国求めに。」とて行きけり。もとより友とする人一人二人して行きけり。道知れる人もなくて、惑ひ行きけり。三河の国、八橋といふ所にいたりぬ。そこを八橋といひけるは、水行く川の蜘蛛手なれば、橋を八つ渡せるによりてなむ、八橋といひける。その沢のほとりの木のかげに下りゐて、乾飯食ひけり。その沢にかきつばたいとおもしろく咲きたり。それを見て、ある人のいはく、「かきつばたといふ五文字を句の上に据ゑて、旅の心をよめ。」と言ひければ、よめる。
  唐衣きつつなれにしつましあればはるばるきぬる旅をしぞ思ふ
とよめりければ、みな人、乾飯の上に涙落としてほとびにけり。

読みで問われやすい語

「蜘蛛手」「乾飯」「五文字」です。「くもで」「かれいい」「いつもじ」ですが、これらは出題確率としてはそれほど高くありません。

あらすじの確認

・「男」が自分の身を(都では)必要のない者だと感じて、友人たち一人二人とともに、都を出て東へ住むべき国を求めて出かける
・道中迷いながらも、三河の国(愛知県東部)八橋やつはしという場所にたどり着く
・「八橋」は蜘蛛の手のような川の形状に橋を8つ架けているからその名前になる
・川のほとりで木の陰に座って乾飯かれいひを食べる
・その沢に「かきつばた」が美しく咲いている
・ある人が「かきつばたの五字を句の上に据えて、旅の心を詠め」という
・和歌を詠む
・皆、感動して乾飯の上に涙を落とし、乾飯はふやけて食べやすくなる

出題ポイント

以下の項目が何も見ずに訳すことができるか確認してください。

昔、男ありけり。

《出題ポイント!》
男は誰がモデルか
男はなぜ都を出たのか

「昔、男」は『伊勢物語』の特徴的な書き出しです「男」は「在原業平」がモデルであるということを知っていれば、「恋多き男の色恋沙汰の話」の可能性が高いと話の予想が立てやすくなり、本文を読むのが一段と早くなりますよ。今回は、都での生活がうまくいかずに、自暴自棄になっている「男」の話になっています。

かきつばたいとおもしろく咲きたり

《出題ポイント!》
「おもしろし」の意味

→(訳)かきつばたがとても美しく咲いていた

「かきつばた」はアヤメ科の植物です。水辺に生えて初夏に花をつけます。

「おもしろし」は重要単語です。漢字で書くと「面白し」ですが、分けて考えてみましょう。「面」は「顔」を表します。「つら」と読むときは現代語でも「顔」の意味ですね。「白し」は「明るい」というイメージを持っている語です。つまり、「見ていると顔が明るくなる」というのがもとの意味です。よって、(気持ちが)明るくなるようなものに対して用いられる形容詞だと分かります。
「面白し」「1見ていて心が晴れ晴れする、2趣深い」という意味ですが、ほとんどが2で訳すと意味が通じます。

ここでは、花に用いられているので、「美しい」などと訳しておくとよいでしょう。

《和歌》唐衣きつつなれにしつましあればはるばるきぬる旅をしぞ思ふ

《出題ポイント!》
様々な修辞技法を説明する

→(歌訳)(唐衣を繰り返し着ているうちに着慣れ(てよれよれになってしまっ)たように)慣れ親しんだ妻が都にいるので、はるばる着てしまった旅をしみじみ思うことだ

まずは、修辞技法を一切考えずに、この和歌で言いたいこと(メインテーマ)を考えみましょう。この文章のテーマは「旅の心」ですから、四句めと五句めを見ると言いたいことは分かりそうです。「はるばる(遠くまで)やって来た旅を(しみじみ)思う」ということでしょう。この内容に合わせると、3句めは「(都には残してきた)妻がいるので」となり、さらに2句めの後半は「慣れ親しんだ」となるわけですから、この和歌で言いたいことの中心は「都には慣れ親しんだ妻がいるので、はるばる遠くまでやって来た旅をしみじみ思う」ということになるでしょう。最初の「唐衣きつつ」はまだ分からないので、いまのところは置いておきます。

次に、この和歌で使われている修辞技法をもとに、この和歌の内容を深めていきましょう。
1番めに、この和歌のテーマは「旅の心」でしたが、その前にある条件がつけられていました。それは「『かきつばた』の五字を句の上に据える」ということです。和歌ではこれを「折り句」と呼び、この和歌では、実際に「かきつはた」がそれぞれの語の頭にきていますね。

2番めは「唐衣からころも」に注目します。「唐衣」は唐風の着物という意味ですが、「着」にかかる枕詞まくらことばでもあります「枕詞」とはある特定の語を導く五文字の言葉でしたね。「枕詞」は原則として訳す必要はないのですが、ここでは訳さないと「着」る対象が分からないので、残しておきましょう。ここでの「唐衣きつつ」が「なれにし」以降にどのようにつながっていくのか、それを次に考えます。

3番めは「掛詞」について考えます。先程も言いました通り、「唐衣きつつ」は「なれにし」にはうまくつながりません。それは、「なれ」が「慣れ親しむ」と考えているからです。実は「なれ」は掛詞で、「慣れ(馴れ)」と「れ(=着慣れ(てよれよれにな)る)」と言う意味が掛けられています。その2つをつなぎ合わせると、「唐衣を着慣れたように、(都には)慣れ親しんだ妻がいる」となるわけです。この和歌で最も言いたいこと(これを私は「メインテーマ」と呼んでいます)は、「(都には)慣れ親しんだ妻がいるので〜」でしたので、「唐衣きつつ」は、「なれ」を導くためのサブの働きをしているということになります。これを序詞じょことばと言い、メインテーマをより際立たせるための働きをしているということを知っておいてください。極論を言うと、訳さなくてもよいとも言えます。

4番目は「縁語」について考えます。「唐衣」はサブの役割ではありますが、よく見ると和歌の中に「衣服」を想像させる語がいくつもありますメインテーマとは異なるサブテーマを和歌の中に入れて言葉遊びをするのが「縁語」と言われるものです。この和歌では「唐衣」「着」「萎れ」「褄(衣の裾)」「張る」が「縁語」になっています。もちろん、「つま」「はる(ばる)」はメインテーマと異なる意味を含んでいるので、これも「掛詞」です。以上をまとめると、以下の板書のようになります。

以上の修辞技法を入れて訳をするのは至難の技ですが、なんとか訳すと以下のようになります。

→(再掲)(唐衣を繰り返し着ているうちに着慣れ(てよれよれになってしまっ)たように)慣れ親しんだ妻が都にいるので、はるばる着てしまった旅をしみじみ思うことだ

「つましあれば」の「し」、「旅をしぞ思ふ」の「し」はいずれも強意の副助詞といいます。語調を整えたり、前の語の意味を強めたりする働きをしますが、訳はしなくても問題ありません。

文学作品・文学史の確認

「伊勢物語」は、十世紀(平安時代中期)に成立した、ジャンルとしては「歌物語」に位置づけされます。「歌物語」というのは、文字通りお話の中に「和歌」が含まれるものということですが、「作り物語」と異なるのは「和歌」を中心としてお話が作られていることが特徴だということです。

 文章は一つ一つのお話が短く、「昔、男〜」で始まることが多いのが特徴です。この「男」は在原業平がモデルであると考えられ、この男の人生を描いたような形をとっています。他の作品に「在五中将の日記」「在五が物語」などと書かれています。「在五」とは在原業平のことを指すので、在原業平がモデルだと言われるのです。在原業平は色男で有名なので、『伊勢物語』は色恋沙汰の話が多いと思っていたらよいでしょう。ついでに、「歌物語」をまとめたものを以下に示します。

文法の確認

みんな和歌を聞いて感動して涙を流し、その涙で乾飯がふやけるという、最後はやや茶化した感じで終わらせています。シリアスになりすぎないように工夫したのでしょうか。

今回は助動詞の確認です。助動詞は語数も多く、様々な意味を持つので習得に時間がかかりますが、順番にやっていけば必ず身につくので、頑張って進めていきましょう。学習の方法がわからない人は、下のリンクから移動して、上から順番に見ていってください。

今回は「打消」「過去」「完了」の助動詞に絞って確認していきます。

問(文章1)から、「打消」「過去」「完了」の助動詞を指定の数だけ抜き出し、その文法的意味と活用形を書きなさい。 

(文章1)「き」1「けり」10「ぬ」4「たり」1「り」4 

 昔、男ありけり。その男、身を要なきものに思ひなして、京にはあらじ、あづまの方に住むべき国求めにとてゆきけり。もとより友とする人、一人二人して行きけり。道知れる人もなくて、まどひ行きけり。三河の国八橋といふ所に至りぬ。そこを八橋といひけるは、水ゆく河の蜘蛛手なれば、橋を八つ渡せるによりてなむ、八橋といひける。その沢のほとりの木の陰に下りゐて、乾飯食ひけり。その沢にかきつばたいとおもしろく咲きたり。それを見て、ある人のいはく、「かきつばた、といふ五文字を句の上にすゑて、旅の心を詠め。」と言ひければ、詠める。 
  から衣きつつなれにしつましあればはるばるきぬる旅をしぞ思ふ 
と詠めりければ、みな人、乾飯の上に涙落として、ほとびにけり。 

解答は以下のとおりです。活用形は省略形で記しています。

(文章1)昔、男ありけり(過去・終)。その男、身を要なきものに思ひなして、京にはあらじ、あづまの方に住むべき国求めにとてゆきけり(過去・終)。もとより友とする人、一人二人して行きけり(過去・終)。道知れ(存続・体)人もなくて、まどひ行きけり(過去・終)。三河の国八橋といふ所に至り(完了・終)。そこを八橋といひける(過去・体)は、水ゆく河の蜘蛛手なれば、橋を八つ渡せ(存続・体)によりてなむ、八橋といひける(過去・体)。その沢のほとりの木の陰に下りゐて、乾飯食ひけり(過去・終)。その沢にかきつばたいとおもしろく咲きたり(存続・終)。それを見て、ある人のいはく、「かきつばた、といふ五文字を句の上にすゑて、旅の心を詠め。」と言ひけれ(過去・已)ば、詠め(完了・体)。 
  から衣きつつなれ(完了・用)(過去・体)つましあればはるばるきぬる(完了・体)旅をしぞ思ふ 
と詠め(完了・用)けれ(過去・已)ば、みな人、乾飯の上に涙落として、ほとび(完了・用)けり(過去・終)。 

おわりに

「東下り」の第1回、「八橋」での和歌を中心にお話しました。和歌の説明は読むだけでも非常に大変でしたね。もちろん、こんなすごい和歌があったのだと思うだけでもいいのですが、せっかくなので今回は初見でどのように対応していくかということを主眼として解説をしてみました。次は、さらに東に向かいます。また第2回でお会いしましょう。

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