はじめに
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今回は『伊勢物語』第六段です。多くの教科書が「芥川」という題名で載せています。多くの人がこの文章で初めて「伊勢物語」に触れるでしょうから、まずは、「伊勢物語」について、簡単に説明しておきましょう。
「伊勢物語」は、ジャンルとしては「歌物語」に位置づけされます。「歌物語」というのは、文字通りお話の中に「和歌」が含まれるものということですが、「作り物語」と異なるのは「和歌」を中心としてお話が作られていることが特徴だということです。つまり、前後の文章はすべて「和歌」のために存在すると言っても過言ではありません。そのため、作り物語以上に和歌の解釈が大切になります。
では、具体的に「伊勢物語」についてですが、実は作者も詳しい成立年代も分かっていません。平安時代に成立し、「竹取物語」よりはやや新しいのではないかと言われています。
文章は一つ一つのお話が短く、「昔、男〜」で始まることが多いのが特徴です。この「男」は在原業平がモデルであると考えられ、この男の人生を描いたような形をとっています。他の作品に「在五中将の日記」「在五が物語」などと書かれています。「在五」とは在原業平のことを指すので、在原業平がモデルだと言われるのです。在原業平は色男で有名なので、『伊勢物語』は色恋沙汰の話が多いと思っていたらよいでしょう。
読解には、それくらいの知識があれば大丈夫でしょう。「歌物語」と言われると、大きく3つの作品がありますので、ついでに見ておいてもらえればと思います。
「芥川」『伊勢物語』予習・解説 第1回
では、始めましょう!することは以下の3つです。
1本文を読む
2登場人物の確認
3内容を簡単に理解
本文を読む
電車やバスの中では難しいですが、自宅で読んでいる時はぜひ声に出して読んでみてください。そうすると、読みにくい箇所が分かると思います。何度も本文を読んでみて、内容を想像してみるのが予習の最も大事なことです。その際、意味調べなどしないことがポイントです。
昔、男ありけり。女のえ得まじかりけるを、年を経てよばひわたりけるを、からうじて盗み出でて、いと暗きに来けり。芥川といふ川を率て行きければ、草の上に置きたりける露を、「かれは何ぞ。」となむ男に問ひける。行く先多く、夜も更けにければ、鬼ある所とも知らで、神さへいといみじう鳴り、雨もいたう降りければ、あばらなる蔵に、女をば奥に押し入れて、男、弓・胡籙を負ひて戸口に居り。はや夜も明けなむと思ひつつ居たりけるに、鬼はや一口に食ひてけり。「あなや。」と言ひけれど、神鳴る騒ぎにえ聞かざりけり。やうやう夜も明けゆくに、見れば、率て来し女もなし。足ずりをして泣けどもかひなし。
白玉か何ぞと人の問ひしとき露と答へて消えなましものを
登場人物の確認
男 女 (堀河の大臣 太郎国経の大納言)
基本的には「男」と「女」の二人です。「堀河の大臣」「太郎国経の大納言」は、上記の文の後に出てきます。
お話を簡単に理解
・男が簡単には自分のものにできそうにない女を長年求婚し続ける
・男は女を家から連れ出す
・芥川という川のほとりで、女は草の上に置く露を「何か」と尋ねる
ーーーー(ここから第2回)ーーーー
・夜になって雷も鳴り雨も強く降るので、女を蔵に入れて男は玄関を守る
・蔵に鬼が出て、女を一口で食べてしまうが、男は雷の音で気づかない
・夜が明けて蔵の中をのぞくと女はいなくなっており、男は嘆き悲しんで和歌を詠む
今回は物語なので人物の動きや展開を把握することが大事になります。ある程度古文が読めるようになっても、ところどころ訳しにくい場所がありますので、そのあたりは飛ばして全体的に内容が分かるという状態にしていきましょう。
理解しにくい箇所の解説を見る
以下の3箇所を詳しく見ていきます。特に最初の2文がわからないと、話の内容がまったくつかめないので、丁寧に解説していきます。
- 昔、男ありけり
- 女のえ得まじかりけるを
- 年を経てよばひわたりけるを
①昔、男ありけり
「はじめに」でも書きましたが、「昔、男」は『伊勢物語』の特徴的な書き出しです。例えば古文の問題集や模擬試験を見た時に、この書き出しであれば『伊勢物語』ではないかと思えるかそうでないかで、他の人とは大きく差が開きます。さらに、「男」は「在原業平」がモデルであるということを知っていれば、「恋多き男の色恋沙汰の話」の可能性が高いと話の予想が立てやすくなり、本文を読むのが一段と早くなりますよ。
②女のえ得まじかりけるを
→(訳)女で(あって)、(とても)自分の妻にできそうになかった女を
ポイントは2つ。一つは「同格の『の』」、もう一つは「え〜【打消】」です。
同格の「の」ですが、これは「の」の上の部分と下の部分が同じものを指すということを表すものです。例えば、「白き鳥の脚の赤きがあり」は「白き鳥」と「脚の赤き(鳥)」が同じ「鳥」を表しているということです。このとき、「赤き」は連体形ですが、形としてはやや不自然になっています。それは体言(名詞)が省略されているからです。なので、読むときには「脚の赤き」の後に「の」の手前にある名詞である「鳥」を補う必要が出てくるのです。そして、訳すときには「の」を「で」と置き換えて「白い鳥で、脚の赤い鳥がいる」とします。特にテストではこのように訳すことで、「私は同格の『の』を知っている」と出題者にアピールできるのです。ただ、美しい訳ではないので、気持ち悪いと思う人は「の」の前と後ろを入れ替えて「脚の赤い白い鳥」としてもかまいません。まとめると、②の文では「女で、『え得まじかりける』女を」と訳すことになります。「え得まじかりける」の訳は次に説明します。
次に「え〜【打消】」です。この「え」は、実は現代語にも残っていて、主に関西地方で使われる「ようせんわ」の「よう」です。ですが、さすがにテストでそんな訳もしにくいので、「〜できない」と不可能表現で訳します。「え」は呼応の副詞と呼ばれていて、必ず「打消」表現が後に出てきます。その多くが「ず」なのですが、今回は「まじ」と打消推量の助動詞になっています。この「まじ」もやや訳しにくいのですが、「え」に呼応して「〜できそうにない」と訳すとうまくいきます。また、「ける」は過去の助動詞「けり」連体形です。この連体形の後に「女」を補って訳します。最後に、「得」は「手に入れる」でもよいですが、もう少し文章にあった形にしてもよいかもしれません。
③年を経てよばひわたりけるを
→(訳)何年もの間求婚し続けていたが
ここは重要単語が2つ出てきます。「よばふ」と「わたる」です。
よばふ
「よばふ」(動・ハ四)
1何度も呼ぶ 2言い寄る/求婚する
「よばふ」は現代語では「夜這う」ですが、もともとは「呼ばふ」です。「ふ」は奈良時代の助動詞で、反復・継続を表します。ですから、「何度も呼ぶ」が第一義になります。「男」が何を呼ぶのかを考えると、当然答えは「女」となり、「女」を呼ぶのは、自分のものにするため、つまり求婚するためと考えられるので、「求婚する」という意味が出てくるのです。ここでは、「求婚する」でいいと思います。
次に「わたる」です。もともとは「ある場所からある場所に移動する」という意味ですが、動詞に続くと以下の意味になります。
わたる
「――わたる」(動・ハ四)
ずっと――する 一面に――する
「年を経て」は「何年も経過して」という意味ですから、ここでは「何年もの間」くらいに解釈したらよいでしょう。「ける」は過去の助動詞、「を」は接続助詞で「〜が」と訳してみましょう。
以降の展開は、上の板書を見てください。女を連れ出した男は、日が暮れるまで逃げますが、夜には女をボロ家に入れて、玄関を守ります。夜も移動したらよいのですが、天気が荒れたので移動できなかったのです。ちなみに、この時に通った川が「芥川」で、その川が現在のどこなのかは分かっていません。お話の題名になっているのに、なにも分からない「芥川」なのでした(笑)。
また、最後の和歌に行くとき、男に背負われている女が草の上に置く露を見て「あれはなあに」と聞いています。深窓の女性(=箱入り娘)の世間知らずな様子に、思わずにっこりしてしまう「男」を想像してみるとより読解が深まりますね。
今回はここまでだよ。2人は幸せに過ごしたのかな?さあ、次はテスト対策だ!
テスト対策 第1回
本文の確認
テスト直前でもすべきことの基本は、「本文を読むこと」です。今回は重要古語が少ないので、話の内容を想像しながら読んでみてください。「テスト対策」はあえてふりがなをつけていません。不安な場合は、このページの上部「本文を読む」で確認してください。
昔、男ありけり。女のえ得まじかりけるを、年を経てよばひわたりけるを、からうじて盗み出でて、いと暗きに来けり。芥川といふ川を率て行きければ、草の上に置きたりける露を、「かれは何ぞ。」となむ男に問ひける。
読みで問われやすい語
「得」「経」「率」は動詞で、ここではそれぞれ「う」「へ」「ゐ」と読みます。
あらすじの確認
・男が簡単には自分のものにできそうにない女を長年求婚し続ける
・男は女を家から連れ出す
・芥川という川のほとりで、女は草の上に置く露を「何か」と尋ねる
出題ポイント
以下の項目が何も見ずに訳すことができるか確認してください。
- 昔、男ありけり
- 女のえ得まじかりけるを
- 年を経てよばひわたりけるを
昔、男ありけり
《出題ポイント!》
「男」とは誰がモデルか
「昔、男」は『伊勢物語』の特徴的な書き出しです。さらに、「男」は「在原業平」がモデルです。この男は恋多き男として有名で、「恋多き男の色恋沙汰の話」なのだと予想がつきます。
女のえ得まじかりけるを
《出題ポイント!》
「の」の役割
「え得まじかりけるを」の訳出
→(訳)女で(あって)、(とても)自分の妻にできそうになかった女を
「女の」の「の」は、同格の「の」ですが、これは「の」の上の部分と下の部分が同じものを指すということを表すものです。「ける」が連体形ですが、名詞「女」が省略されているわけです。訳すときには「の」を「で」と置き換えて「女で、『え得まじかりける』女を」と訳すことになります。
次に「え〜【打消】」です。この「え」は、呼応の副詞と呼ばれていて、必ず「打消」表現が後に出てきます。その多くが「ず」なのですが、今回は「まじ」と打消推量の助動詞になっています。この「まじ」も訳しにくいのですが、「え」に呼応して「〜できそうにない」と訳すとうまくいきます。また、「ける」は過去の助動詞「けり」連体形です。この連体形の後に「女」を補って訳します。よって、「え得まじかりけるを」は、「手に入れることができそうにない女を」となり、「手に入れる」を文章に合うように「自分の妻にする」と言い換えて、「自分の妻にできそうにない女を」と訳すとよいわけです。
年を経てよばひわたりけるを
《出題ポイント!》
「よばふ」の意味
全体の訳出
→(訳)何年もの間求婚し続けていたが
「年を経て」は「何年も経って」という意味です。「よばひわたる」につなげるには、「何年もの間」としてもよいかもしれません。
次に、「よばひわたる」ですが、「よばひ」の終止形「よばふ」も「わたる」も重要古語です。「よばふ」は「1何度も呼ぶ」「2言い寄る/求婚する」の2つの意味があります。「よばふ」は現代語では「夜這う」ですが、もともとは「呼ばふ」です。「ふ」は奈良時代の助動詞で、反復・継続を表します。ですから、「何度も呼ぶ」が第一義になります。「男」が何を呼ぶのかを考えると、当然答えは「女」となり、「女」を呼ぶのは、自分のものにするため、つまり求婚するためと考えられるので、「求婚する」という意味が出てくるのです。ここでは、「求婚する」でいいと思います。
次に「わたる」です。もともとは「ある場所からある場所に移動する」という意味ですが、動詞に続くと「ずっと――する/一面に――する」という意味になります。
「年を経て」は「何年も経過して」という意味ですから、ここでは「何年もの間」くらいに解釈したらよいでしょう。「ける」は過去の助動詞、「を」は接続助詞で「〜が」と訳してみましょう。以上をまとめると、「何年もの間求婚し続けていたが」と訳せるのです。
文学作品・文学史の確認
「伊勢物語」は、ジャンルとしては「歌物語」に位置づけされます。「歌物語」というのは、文字通りお話の中に「和歌」が含まれるものということですが、「作り物語」と異なるのは「和歌」を中心としてお話が作られていることが特徴だということです。つまり、前後の文章はすべて「和歌」のために存在すると言っても過言ではありません。そのため、作り物語以上に和歌の解釈が大切になります。
では、具体的に「伊勢物語」についてですが、実は作者も詳しい成立年代も分かっていません。平安時代に成立し、「竹取物語」よりはやや新しいのではないか(900年ころ成立)と言われています。
文章は一つ一つのお話が短く、「昔、男〜」で始まることが多いのが特徴です。この「男」は在原業平がモデルであると考えられ、この男の人生を描いたような形をとっています。他の作品に「在五中将の日記」「在五が物語」などと書かれています。「在五」とは在原業平のことを指すので、在原業平がモデルだと言われるのです。在原業平は色男で有名なので、『伊勢物語』は色恋沙汰の話が多いと思っていたらよいでしょう。
文法の確認
今回は用言を中心に行います。これまでの復習だと思って取り組んでみてください。用言にまだ自身のない人はこちらのページに移動して、苦手な分野を学習してみてください。また、一部は助動詞や助詞の知識がないと解けないものもあります。あえて出題していますが、それは学習が進んでから再確認していけばよいでしょう。活用の種類と活用形を答える問題は、様々な知識が正確に理解できていないと解けるようにはなりません。何度も練習して、自分のものにしていきましょう。
本文中の青太字の活用の種類と活用形を答えなさい。
昔、男①ありけり。女のえ②得まじかりけるを、年を③経てよばひわたりけるを、からうじて盗み出でて、いと④暗きに来けり。芥川といふ川を⑤率て行きければ、草の上に置きたりける露を、「かれは何ぞ。」となむ男に⑥問ひける。行く先多く、夜も更けにければ、鬼ある所とも知らで、神さへいと⑦いみじう鳴り、雨も⑧いたう降りければ、⑨あばらなる蔵に、女をば奥に押し入れて、男、弓・胡籙を負ひて戸口に⑩をり。はや夜も⑪明けなむと思ひつつ⑫ゐたりけるに、鬼はや一口に食ひてけり。「あなや。」と言ひけれど、神鳴る騒ぎにえ聞かざりけり。やうやう夜も明けゆくに、見れば、率て⑬来し女もなし。足ずりをして泣けども⑭かひなし。
特に②⑪⑬が難しいです。助動詞や助詞の知識が必要になるので、現段階では解答できないかもしれませんが、②⑬はふりがなを入れているので解答が可能です。また⑪は「なむ」の識別の知識が必要です。ここは「夜も明けてほしい」という意味なので「明け」は未然形になります。⑦⑧はウ音便です。どちらも連用形ですので、元の形「いみじく」「いたく」に戻して考えてみてください。
解答は以下の通りです。
①ラ行変格活用・連用形 ②ア行下二段活用・終止形 ③ハ行下二段活用・連用形 ④(形容詞)ク活用・連体形 ⑤ワ行上一段活用・連用形 ⑥ハ行下二段活用・連用形 ⑦(形容詞)シク活用・連用形 ⑧(形容詞)ク活用・連用形 ⑨(形容動詞)ナリ活用・連体形 ⑩ラ行変格活用・終止形 ⑪カ行下二段活用・未然形 ⑫ワ行神一段活用・連用形 ⑬カ行変格活用・未然形 ⑭(形容詞)ク活用・終止形
今回の用言の問題は、ある程度学習が進んでいても正答率は高くなかったのではないでしょうか。難易度が高めのものが多かったので、総復習という意味ではよかったと思います。
おわりに
今回は『伊勢物語』第六段「芥川」を復習していきました。背景知識もある程度お話しているので、直前のテストだけでなく、他の文章を読むときにも役立てるようになったらいいですね。
では、また次回お会いしましょう。
第2回はこちらをご覧ください。
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