助動詞「き」「けり」

助動詞

はじめに

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生徒
生徒

先生、今回は「〜(し)た」という助動詞ですよね。「過去」でいいですよね。

先生
先生

実は、「〜た」というのは様々な意味があるんだよ。まずは、そのあたりの理解を深めてから、「過去」の助動詞に迫っていこう!

はじめに、今回学習することの要点を示します。

過去・完了の助動詞について

今回から3回は、過去や完了の助動詞について学んでいきます。現代語ではすべて「〜た」と表現されるものです。以下の例文を見てください。

  1. 昨日、学校で文化祭が開催され
  2. やっと今日の課題が終わっ
  3. 壁にかかっ時計。

いずれも「〜た」ですが、少しずつ意味が異なります。1は、以前に起こったこと、現在から見て過去のある一点起こったことを表します。これを文法的には「過去」と言います。2は、その出来事がたった今終了したことを表します。これを文法的には「完了」と言います。3は、現在もその状況が続いていることを表しています。これを文法的には「存続」と言います。

このように、同じ「〜た」でも少しずつ意味が異なっているのです。それらを昔は明確に区別していましたが、時代の流れとともに、大きな違いではないので同じ言葉で表現してしまおうとなっていき、今では「〜た」のみが残ってるいというわけです。

この現代語の「〜た」で表現できる助動詞は、古文では6つあります。「き」「けり」「つ」「ぬ」「たり」「り」です。大まかにいうと、「き」「けり」が過去の助動詞「つ」「ぬ」が完了の助動詞「たり」「り」が存続の助動詞ということになります。今回は過去の助動詞について説明し、次回以降完了、存続の助動詞について説明していきます。

助動詞「き」について

まずは、助動詞「き」についてです。「き」は過去のある出来事を回想したものですので、人によっては「回想」ということもありますが、学校文法では「過去」とします。

接続、活用、意味

まず、例文を使って「き」という助動詞を理解していきます。

(例文)鬼のやうなるもの出で来て殺さむとし。(鬼のようなものが出てきて、殺そうとした。)

先ほども述べましたが、過去のある出来事を回想したものが「き」ですので、これは「過去」の助動詞となります。同じ過去を表す「けり」との違いは、後の「けり」の項目で述べます。
また、「しき」の「し」はサ行変格活用の連用形ですので、助動詞「き」の接続は連用形となります。

「き」の意味=過去(ーーた)
「き」の接続=連用形

次に活用表です。助動詞「き」は動詞や形容詞のような活用とは異なり、完全に独自の活用をします。これを特殊型といいますが、特殊型の助動詞はそれほど多くないので、覚えてしまったほうが早いです。「せ/◯/き/し/しか/◯」(せ・まる・き・し・しか・まる)と何度も唱えていると、自然と覚えます

「き」の活用=特殊型(せ/◯/き/し/しか/◯)

せ・まる・き・し・しか・まる♪せ・まる・き・し・しか・まる♫

「き」の特殊な接続

先ほど、助動詞「き」は連用形に接続すると言いました。しかし、連用形ではなく、別の活用形(具体的には未然形)に接続することがあります。それは、カ変動詞とサ変動詞が助動詞「き」の連体形と已然形(しか)に接続するときです。

カ行変格活用動詞(「」)が助動詞「き」の連体形「し」、已然形「しか」に接続するときは、「来」の連用形「き」と接続し、「きし」「きしか」となることもありますが、「来」の未然形「こ」と接続し、「こし」「こしか」となることの方が多いです。

一方、サ行変格活用動詞(「す」)が助動詞「き」の連体形「し」、已然形「しか」に接続するときは、必ず未然形「せ」に接続します。つまり、「せし」「せしか」になるということです。

こし・こしか/せし・せしか/と覚えておいたらいいね。

助動詞「けり」について

助動詞「けり」はもともと「来あり」がつづまったもので、「ある出来事が過去にあって、それが現在にまでやってきた。それに今気がついた。」という意味を表します。ですので、「気づきの「けり」」などと呼ぶ文法書もあります。ですが、学校文法では、「ある出来事が過去にあって」の部分を重視して、「過去」の助動詞としているのです。ですので、まずは「けり」は過去の助動詞と理解しておいたら結構です。

接続、活用、意味

まずは例文を使って「けり」という助動詞を理解していきます。

(例文)今は昔、竹取の翁といふものありけり。(今では昔の話だが、竹取の翁という人がいた。)

「けり」は、過去の助動詞として考えると先ほど言いましたので、とりあえずは「〜た」と訳しておきましょう。「き」との違いは後で説明します。また、「あり」は連用形とも終止形とも考えられますが、例えば、「文を書きけり」などという時に「書くけり」とはならないので、この「あり」は連用形となります。つまり、「けり」の接続は連用形です。また、活用はラ行変格活用動詞と同じ活用です。これをラ変型の助動詞といいます。ただし、未然形や連用形、命令形はないと考えて結構です。

「けり」の接続=連用形
「けり」の活用=ラ変型

あらためて、「けり」の文法的意味について考えます。
最初に、「けり」は「ある出来事が過去にあって、それが現在にまでやってきた、それに今気がついた」ことを表す助動詞だと言いました。「気がついた」に焦点を当てて、なぜ「気がついた」のか考えてみると、2つの意味があることがわかります。
1つ目は、「誰かから聞いて気がついた」ということです。ですので、これを「伝聞に基づく過去」と言いますが、長いので普通は「過去」ということにしています。
2つ目は、「こんなことになっていたのかと改めて気がついた」ということです。この状態を文法的には「詠嘆」と呼んでいます。この「詠嘆」は、「自分の思い」が現れるときによく使われます。ですので、和歌や会話文中でよく出てくると考えておいたらよいでしょう。

「けり」の文法的意味
 「過去」(ーーた)
 「詠嘆」(ーーたなあ、ことだなあ)

和歌や会話文の「けり」は詠嘆!って覚えておくといいね。

助動詞「き」「けり」の意味の違い

助動詞「き」も「けり」も文法的意味としては「過去」となりますが、両者は全くといっていいほど異なるものだということが分かりました。「き」は「過去に自分が体験したことを回想する」助動詞、「けり」は「ある出来事が過去にあって、それが現在にまでやってきた、それに(人から聞いて)気がついた」ことを表す助動詞でした。そこで、両者の特徴をまとめてみると、同じ「過去」でも以下の違いがあることを覚えておいてください。

「き」=自身の直接体験に基づく過去
「けり」=伝聞に基づく過去

以上で、「き」「けり」の説明を終わります。かなり専門的なこともお話したので、難しく感じることもあったとは思いますが、「き」と「けり」の違いや、「けり」がなぜ「詠嘆」の意味を持っているかも分かったと思います。では、練習問題に取り組んでいきましょう。

練習問題

助動詞「き」「けり」について理解ができたか、実際の問題を通して確認していきましょう。

助動詞「き」の問題

問一 次の括弧に、助動詞「き」を適当な形に直して入れなさい。
(1)この所に住みはじめ【 ① 】ときは、あからさまと思ひ【 ② 】ども、今すでに五年を経たり。
(2)死に【 ③ 】子、顔よかり【 ④ 】。

助動詞「き」の活用は「せ・まる・き・し・しか・まる」だったね♪

【解答】
問一 ①し ②しか ③し ④き

【解説】
問一 原則として( )の直後を見て、活用形を考える問題です。
(1)この所に住みはじめ【 ① 】ときは、あからさまと思ひ【 ② 】ども、今すでに五年を経たり。
 ①の直後が「とき」なので連体形。「き」の連体形は「し」
 ②の直後が「ども」なので已然形。「き」の已然形はしか
(2)死に【 ③ 】子、顔よかり【 ④ 】。
 ③の直後が「子」なので連体形。「き」の連体形は「し」
 ④の直後が「。」なので終止形。「き」の終止形は

助動詞「けり」の問題

問二 次の文から助動詞「けり」を抜き出し、その意味と活用形を答えなさい。
(1)死にければ、陣の外に、引き捨てつ。
(2)人はいさ心も知らずふるさとは花ぞ昔の香に匂ひける
(3)暗けれど、主を知りて、とびつきたりけるとぞ。 

(2)は百人一首にも出てくる有名な和歌だね。作者は紀貫之だよ。

【解答】問二(1)「けれ」過去・已然形(2)「ける」詠嘆・連体形(3)「ける」過去・連体形

【解説】
問二 「けり」は、原則として終止形「けり」連体形「ける」已然形「けれ」の3つだけなので、見つけるのは容易ですが、形容詞の已然形と間違えやすいので、気をつけましょう。
(1)死にければ、陣の外に、引き捨てつ。
「死にければ」の「けれ」です。直後が「ば」なので已然形。通常の文(和歌や会話文ではない)なので、意味は過去になります。
(2)人はいさ心も知らずふるさとは花ぞ昔の香に匂ひける
「匂いける」の「ける」です。文末ですが、手前に「ぞ」があるので、係り結びの法則によって連体形になっています。全体が和歌になっているので詠嘆と考えてみます。「花が昔のように(変わらず)香っているなあ」で意味が通じるので、意味は詠嘆になります。
(3)暗けれど、主を知りて、とびつきたりけるとぞ。
「暗けれど」の「けれ」を抜き出してはいけません。この「けれ」はク活用形容詞「暗し」の已然形「暗けれ」の活用語尾です。抜き出すべきものは「とびつきたりける」の「ける」です。直後が「と」なので原則は終止形なのですが、「ける」となっているので連体形です。これはあえて連体形で終わらせることで、言葉に余韻をもたせる効果があります。「連体形止め」とも言われます。これも通常の文(和歌や会話文ではない)なので、意味は過去です。

おわりに

「き」と「けり」は同じ「過去の助動詞」と言ってはいるものの、その発生も、表している内容も実は異なるということを学びました。現在私たちが「〜た」で終わらせてしまっている助動詞にも、実は様々な世界があることをしってもらえたらうれしいです。次は「完了」の助動詞です。次回も一緒に学習していきましょう。



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