このページでは、学生時代に国語が苦手だった筆者が、この順番で学べば文章の内容が分かるようになり、一気に得意科目にできたという経験をもとに、25年以上の指導において実際に受講生に好評だった「これなら古文が理解できる!」という学ぶ手順を具体的に紹介していきます。読んでいくだけで、文章の内容が分かるようになります。
はじめに
今回は『枕草子』23段「すさまじきもの」です。 『枕草子』は平安時代中期、11世紀初頭(西暦1001年ころ)に成立した、いわゆる「三大古典随筆」の一つです。『枕草子』は以下のページで詳しく解説しているので、そちらをご覧ください。

今回の「すさまじきもの」は(1)の「類聚(類集)的章段」の一節になります。「類聚(類集)的章段」は、「〜は」で始まるものと、「〜もの」ではじまるものが多く、「ものづくし」とも呼ばれます。自然や人事を特色によって集め表現したものです。今回は「すさまじきもの」をたくさん集めています。実際の文章で確認してみましょう。
「すさまじきもの」要点・あらすじ・現代語訳
古文を読解する5つのコツをお話しましょう。以下の順に確認していくと以前よりも飛躍的に古文が読めるようになるはずです。飛躍的に古文が読めるようになるはずです。
何度も本文を読んでみて(できれば声に出して)、自分なりに文章の内容を想像してみます。特に初めて読むときは、分からない言葉があっても意味調べなどせずに読みます。分からない言葉がある中でも文章の中に「誰がいるか」「どのようなことを言っているか」「どのような行動をしているか」を考えていきます。

本文にどのような人物が出てきているか、確認します。紙で文章を読むときは、鉛筆などで▢をつけるとよりよいでしょう。
簡単でもよいので、誰かに「こんなお話」だと説明できる状態にします。ここでは、合っているかどうかは関係ありません。今の段階で、こんな話じゃないかなと考えられることが大切なのです。考えられたら、実際にこの項目をみてください。自分との違いを確認してみましょう。
古文を読んでいると、どうしても自力では分からない所がでてきます。ちなみに、教科書などでは注釈がありますが、注釈があるところは注釈で理解して構いません。それ以外のところで、多くの人が詰まるところがありますが、丁寧に解説しているので見てみてください。

step4とstep5は並行して行います。きっと、随分と読めるようになっているはずです。
本文を読む
何度も本文を読んでみて、自分なりに文章の内容を想像してみましょう。特に初めて読むときは、分からない言葉があっても意味調べなどせずに読みます。分からない言葉がある中でも文章の中に「誰がいるか」、「どのようなことを言っているか」、「どのような行動をしているか」を考えていきます。


すさまじきもの、昼ほゆる犬。春の網代。三、四月の紅梅の衣。牛死にたる牛飼ひ。乳児亡くなりたる産屋。火おこさぬ炭櫃、地火炉。博士のうち続き女児生ませたる。方違へに行きたるに、あるじせぬ所。まいて節分などは、いとすさまじ。(中略)
除目に司得ぬ人の家。今年は必ずと聞きて、はやうありし者どもの、ほかほかなりつる、田舎だちたる所に住む者どもなど、みな集まり来て、出で入る車の轅もひまなく見え、物詣でする供に、我も我もと参り仕うまつり、もの食ひ、酒飲み、ののしりあへるに、果つる暁まで門たたく音もせず。あやしうなど耳立てて聞けば、前駆追ふ声々などして、上達部などみな出で給ひぬ。もの聞きに夜より寒がりわななきをりける下衆男、いともの憂げに歩み来るを見る者どもは、え問ひだにも問はず。(『枕草子』より)
登場人物の確認
通常、「ものづくし」は、自然や人事を特色によって集め表現したものなので、物語や日記とは異なり、登場人物はあまり出てくることはありません。ただ、「除目で司得ぬ人の家」には数人の登場人物が出てきますので、ここで挙げておきます。
・早うありし者どものほかほかなりつる
・田舎だちたる所に住む者ども
・上達部など
・下衆男
お話を簡単に理解(あらすじ)
・「すさまじきもの」の紹介
1 昼ほゆる犬(番犬として夜鳴くのを期待)
2 春の網代(秋から冬にかけて氷魚を捕る仕掛け)
3 三、四月の紅梅の衣(季節外れ)
4 牛死にたる牛飼ひ
5 ちご亡くなりたる産屋
6 火おこさぬ炭櫃、地火炉
7 博士うち続き女子産ませたる(博士は男のみ)
8 方違へに行きたるに、あるじせぬ所。(暗黙の了解を守らない)
9除目に司得ぬ人の家
→今年は必ず官職を得られるだろうと以前仕えていた人たちが集まってくるが、残念ながら落選してしまう。
理解しにくい箇所の解説を見る
本文を読んで自分で内容を考えていったときに、おそらく以下の箇所が理解しにくいと感じたでしょう。その部分を詳しく説明します。解説を読んで、理解ができたら改めて本文を解釈してみてください。
- すさまじきもの
- 方違へに行きたるに、あるじせぬ所
- 除目に司得ぬ人
- 早うありし者どものほかほかなりつる
- 上達部などみな出でたまひぬ
- 見る者どもはえ問ひにだにも問はず
①すさまじきもの
(訳)はこちら(タップで表示)
(不調和で)興ざめのするもの(おもしろくないもの)

今回の文章のテーマは「すさまじきもの」です。まず、「すさまじ」の意味から確認していきましょう。
「すさまじ」(形・シク活)
1その場にそぐわずおもしろくない/興ざめだ
2寒々としている/荒涼としている/殺風景だ
「すさまじ」は、時機がずれていたり、当然備わるべきものが欠けていたり、期待が裏切られたりしたときの不調和な感じから受ける不快感や冷める気持ちを表す言葉です。現代語訳するときは「おもしろくない」や「興ざめだ」となります。
また、例えば「風吹き、雨降りて、すさまじかりける」は、現代語では「ものすごく強い風や雨が降った」というイメージになりますが、古文では「寒々とした場の雰囲気」をイメージする表現になります。
今回は、「不調和でおもしろくない」ものを数々挙げています。それぞれ現代語訳をしなくても「挙げられているもの」は分かりそうですが、なぜそれが「すさまじきもの」なのかは考えていく必要があります。
《②までの解釈と現代語訳》
では、②までの本文を解釈していきましょう。
昼ほゆる犬。春の網代。三、四月の紅梅の衣。牛死にたる牛飼ひ。乳児亡くなりたる産屋。火おこさぬ炭櫃、地火炉。博士のうち続き女児生ませたる。
(訳)はこちら(タップで表示)
昼間に吠える犬。春の網代。三、四月の(頃に着ている)紅梅襲の衣。(自分の)牛が死んでしまった牛飼。赤ん坊が死んでしまった産室。火をおこさない角火鉢や、いろり。博士が次々と女の子を産ませているの。

なぜ「すさまじ」なのかを考えましょう。犬は番犬として飼っているので夜に不審者がいたら吠えてほしい。網代は秋から冬に使う道具。紅梅の衣は一、二月に着るもの。牛がいなくては牛飼いは仕事がない。乳児がいなくては産屋は仕事がない。火をおこさないのなら、炭櫃(角火鉢)や地火炉(いろり)は無駄なもの。博士は男しかなれないので、継がせることができない。つまり、時期外れ、期待外れ、場違いなものが挙げられているのです。
②方違へに行きたるに、あるじせぬ所
(訳)はこちら(タップで表示)
方違えに行ったのに、もてなしをしないところ。


ここは「方違へ」について知っておく必要があります。
「方違へ」とは、陰陽道の考え方で、人によって行ってはならない方角があり、それを避けるために別の方角に行って一旦宿泊し、別日に改めて(最初の出発点から行く場所から方角を変えて)目的地に行くことを言います。
その「方違へ」のときに、一行は知人の家などに宿泊することになります。通常そこでは様々なもてなしを受けていたようです。また、宿泊を受ける側も丁寧にもてなすことが暗黙の了解となっていました。
また、「あるじ」は重要単語です。
「あるじ」(名)
1主人、一家の長
2(主人として)もてなすこと、ごちそうすること
「方違へ」に行ったときにもてなしを受けられないことは、この時代の人たちにとって「すさまじ」なのです。
《③までの解釈と現代語訳》
本当は③までかなり長い文章があるのですが、多くの教科書が採用しているところ以外は、このページでは省略します。よって、「あるじせぬ所」の補足までをこちらで解釈します。
まいて節分などは、いとすさまじ。
(訳)はこちら(タップで表示)
まして節分(の時の方違えにもてなしの用意がない家)などは、(するのが当然なことをしていないので)非常に興ざめだ。



「節分」は「せちぶん」と読み、立春(現在の2月3日頃)・立夏(5月5日頃)・立秋(8月7日頃)・立冬(11月7日頃)の前日の季節の変わり目となる日のことを言います。この「節分」の日に方違えをする風習があったようです。
③除目に司得ぬ人
(訳)はこちら(タップで表示)
除目の時に官職を得ることができない人の家(は興ざめだ)


「除目」は「ぢもく(現代仮名遣いでは「じもく」)」と読みます。「除」は前の官を除く、「目」は新任者を目録に記載するという意味で、「様々な官職を任命する行事」つまり、「官吏の人事異動の儀式」を指します。地方官を任命する春の「県召(あがためし)」の除目と、京および宮中の官吏を任命する秋の「司召(つかさめし)」の除目があります。ここで官職につくことができると、本人だけではなく仕える人たちにも仕事が与えられるので、除目の前には周囲の人たちも(時には本人以上に)期待するのです。
このときに、官職を得られないことが「すさまじ」だというのです。
④早うありし者どものほかほかなりつる
(訳)はこちら(タップで表示)
(この家に)以前から仕えていた者たちで、離れ離れになっていた者たち


ここで注目するのは「者どもの」の「の」です。この「の」が何かを考えながら本文を見てみましょう。
「はやう」は「はやく」のウ音便形で副詞です。ここでは「以前」という意味です。「ありし」の「あり」は「存在する」という意味ですが、「(主人に)仕えている」と解釈しておきましょう。「し」は過去の助動詞「き」の連体形です。「ほかほかなりつる」の「ほかほかなり(外外なり)」はナリ活用形容動詞で、「よそに行っている/別々に離れている」という意味で、「つる」は完了の助動詞「つ」の連体形です。この「つる」が連体形であるということは「名詞」が省略されているとも考えられます。ここにどのような言葉が入るでしょうか。
それは「はやうありし者ども」の「者ども」です。つまり、「はやうありし者ども」と「ほかほかなりつる(者ども)」は同じ「者ども」を表しているのです。この「の」は同格の格助詞で、「〜で」と訳すものです。「同格の格助詞」についての詳しい説明は以下をご覧ください。
以上をまとめると、「以前から仕えていた者たちで、離れ離れになっていた者たち」となります。
《⑤までの解釈と現代語訳》
ここで③から⑤の手前までの文章を一気に解釈してみましょう。
除目に司得ぬ人の家。今年は必ずと聞きて、はやうありし者どもの、ほかほかなりつる、田舎だちたる所に住む者どもなど、みな集まり来て、出で入る車の轅もひまなく見え、物詣でする供に、我も我もと参り仕うまつり、もの食ひ、酒飲み、ののしりあへるに、果つる暁まで門たたく音もせず。あやしうなど耳立てて聞けば、前駆追ふ声々などして、
(訳)はこちら(タップで表示)
除目の時に官職を得ることができない人の家(は興ざめだ)。今年は必ず(任官されるだろう)、と聞いて、(この家に)以前から仕えていた者たちで、離れ離れになっていた者たちや、(京から離れた)田舎めいている所に住んでいる者たちなどが、みんな集まってきて、出入りする牛車の轅も、隙間なく見え、(任官祈願をするために)寺社詣でをする供として、我も我もと参上してお仕えし、物を食べ、酒を飲み、大声で騒ぎ合っているのに、(除目の)終わる明け方まで(任官を知らせるために)門をたたく音もしない。変だななどと耳をすまして聞くと、先払いの声などがして、
⑤上達部などみな出でたまひぬ
(訳)はこちら(タップで表示)
上達部などは(内裏から)すっかりご退出なさった。


以前仕えていた多くの人々が集まって、主人の任官が発表されるのを心待ちにしています。ですが、それを伝える人が家にやってきません。みんなおかしいなと思っています。そんなときに、除目は終了したようです。
ここでの「上達部」とは「かんだちめ」または「かんだちべ」と読み、摂政・関白・太政大臣・左右大臣・内大臣・大納言・参議およびその他の三位以上の者を表します。参議は四位でもこの中に入ります。公卿と書いてある場合もあります。要するに貴族の中でもトップクラスの人たちのことを言います。それより少し下がる四位と五位の人たち(+六位の蔵人)は、三位以上の人も含めて「殿上人(てんじょうびと)」と呼ばれます。これは「清涼殿の殿上の間に昇殿を許された人」という意味です。
「出でたまひぬ」の「たまひ」は尊敬語の補助動詞「たまふ」の連用形、「ぬ」は完了の助動詞「ぬ」の終止形で、「(宮中を)出なさった」という意味になります。
その「上達部」たちが宮中を出たのですから、それは「除目の終了」を表します。
《⑥までの解釈と現代語訳》
では、⑥までの文章を解釈してみましょう。
もの聞きに夜より寒がりわななきをりける下衆男、いともの憂げに歩み来るを見る者どもは、
(訳)はこちら(タップで表示)
様子を探る者として夜から(出かけて)寒がって震えていた下男(身分の低い男)が、とても憂鬱そうに歩いて来るのを見る者たちは
⑥見る者どもはえ問ひにだにも問はず
(訳)はこちら(タップで表示)
見る者たちは、(除目の結果を)尋ねることさえもできない。


結果を聞きに行っていた使いの者(下衆男)は悲しそうに帰ってきました。除目の結果は聞くまでもありません。
「えーーず」は「ーーできない」という不可能表現でした。「だに」は類推を表す副助詞で「〜でさえ」です。最も聞くべき選考の結果でさえ尋ねることができないという場面は想像するだけでも悲惨ですね。
おわりに
テスト対策へ
今回は、『枕草子』の「すさまじきもの」の一部についてお話しました。次はテスト対策編もご覧ください。


『枕草子』は初見では非常に難しいので、「ビギナーズ・クラシックス」などで多くの文章に触れておきたいですね。他にも、『桃尻語訳・枕草子』などもおもしろいです。興味があれば読んでみてください。
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