ページでは、学生時代に国語が苦手だった筆者が、この順番で学べば古典文法が分かり、一気に得意科目にできた経験をもとに、25年以上の指導において実際に受講生に好評だった「理解しやすい学ぶ手順」を紹介していきます。今回は文学史のまとめです。「古典三大随筆」について学習していきましょう!
- 『枕草子』の冒頭文の内容が分かる
- 『枕草子』のよく出題される文学史的内容がわかる
- 『方丈記』の冒頭文の内容が分かる
- 『方丈記』のよく出題される文学史的内容がわかる
- 『徒然草』の冒頭文の内容が分かる
- 『徒然草』のよく出題される文学史的内容がわかる
- 定期テストや大学入試でよく問われる文学史の問題が解けるようになる。
はじめに

「古典三大随筆」って『枕草子』と『徒然草』と・・・
もう一つは何でしたか。



『方丈記』だね。『枕草子』と『徒然草』は中学校でも習うけど、『方丈記』は基本的には高校に入ってから学ぶから、思い出せない人も多いね。今回はこの古典三大随筆を大まかに学習して、それぞれの文章に移っていこう!
「古典三大随筆」とは
まず、「随筆」とは何かを考えていきます。「随筆」とは、自分の体験や感想を気の向くままに記した文章です。「日記」と異なるのは、「それがいつの話か」という日時の制約がないことです。それが仮名文字で書かれ始めた平安時代から鎌倉時代にかけて、現代にも残る有名な「随筆」の三作品を「古典三大随筆」と言っています。
「古典三大随筆」とは、一般的に『枕草子』『方丈記』『徒然草』の3つを指します。『枕草子』は清少納言の、『方丈記』は鴨長明の、『徒然草』は兼好法師の作品です。ただ、この3つは成立時代がそれぞれ異なり、『枕草子』は平安時代中期、『方丈記』は鎌倉時代前期、『徒然草』は鎌倉時代末期の作品です。ですので、それぞれの作者は生きている時代が全く異なるのです。


それぞれの特徴を簡単に示します。
『枕草子』は11世紀初頭(1001ころ)の成立で、作者は清少納言です。一条天皇の中宮定子を中心とする後宮サロンに仕えた作者が機知に富んだふるまいで周囲を盛り上げた様子を描いています。
『方丈記』は13世紀前半(1212)の成立で、作者は鴨長明です。鴨長明は後鳥羽院の保護のもとに和歌所の寄人(よりうど)にもなった歌人でしたが、50歳を過ぎてから出家します。鎌倉初期の動乱の世を逃れて山野に隠棲し、仏教的無常観を基盤としたこの作品を書いています。
『徒然草』は14世紀前半(1331ころ)の成立で、作者は兼好法師です。兼好は出家前、高位の貴族との関係が深かったようです。出家後は武家方との交渉もあり、無常観を抱きながらも鴨長明とは対照的に戦乱の世を自在に生きる様子がこの作品からもうかがえます。ちなみに出家前の本名を「卜部兼好(うらべかねよし)」と言います。数十年前ですが、大学受験で選択させる問題が出題されました。
『枕草子』について
では、古典三大随筆をひとつずつ見ていきましょう。「冒頭文の確認」「文学史的整理」をそれぞれ行っていきます。まずは『枕草子』からです。
冒頭文の確認




春はあけぼの。やうやう白くなりゆく、山ぎはすこしあかりて、紫だちたる雲のほそくたなびきたる。
夏は夜。月のころはさらなり、闇もなほ、蛍の多く飛びちがひたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りてゆくもをかし。雨など降るもをかし。
秋は夕暮れ。夕日のさして山の端いと近うなりたるに、烏の寝所へ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど飛び急ぐさへあはれなり。まいて雁などの連ねたるが、いと小さく見ゆるは、いとをかし。日入り果てて、風の音、虫の音など、はたいふべきにあらず。
冬はつとめて。雪の降りたるはいふべきにもあらず、霜のいと白きも、またさらでも、いと寒きに、火など急ぎおこして、炭もて渡るもいとつきづきし。昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、火桶の火も白き灰がちになりてわろし。(『枕草子』より)
(訳)はこちら(タップで表示)
春は夜明け(が趣深い)。だんだんと(空が)白くなっていくうち、山際(=山と接する空のあたり)が少し明るくなって、紫がかっている雲が細く横になびいているさま(が趣深い)。
夏は夜(が趣深い)。月(夜)の頃は言うまでもないが、闇(夜)もやはり、蛍が多く飛び交っているさま(が趣深い)。また、ほんの一つ二つなどが、ぼんやり光っていくのも趣がある。雨などが降るのも趣がある。
秋は夕暮れ(が趣深い)。夕日が照って山の端(=空と接する山のあたりに)たいそう近づいた時に、烏がねぐらへ帰るというので、三羽四羽、二羽三羽などと急いで飛んでいくのまでもがしみじみとした趣がある。まして雁などが連なって列をなしているのが、たいそう小さく見えるのは、とても趣がある。日がすっかり沈んで、(そのあと)風の音や、虫の声(がするの)などは、また言うまでもない(しみじみとした趣がある)。
冬は早朝(が趣深い)。雪が降っているのは言うまでもないが、霜がたいそう白いのも、またそうでなくても、とても寒い朝に、火などを急いでおこして、炭を持って(部屋から部屋へと)移動するのもたいそう(冬に)似つかわしい。昼になって、次第に暖かくなって寒さがゆるんでいくと(きまって)、丸火鉢の火も白い灰の部分が目立つようになってよくない。
「春はあけぼの」と題されることの多いこの文章は、『枕草子』の代表的な文章で、後で説明する「随想的章段」の一つと言われます。自然の情趣や人事の機微をとらえた、作者清少納言の鋭い観察眼がよく見られる文章です。また、この文章の「秋は夕暮れ」の段落に見られる「いとをかし」という表現は、古文をあまり学習していない人でも、なぜか記憶に残る一節です。古文と言えば「いとをかし」しか覚えていない、という人もいるくらいインパクトのある表現だとも言えます。1000年以上も前に書かれた文章で、それだけ人々の記憶に残る一言が書ける清少納言はやはり天才だったのだろうと、筆者はこの文章に触れるたびに思います。
文学作品としての『枕草子』


『枕草子』は清少納言が平安時代中期(1001年ころ)に書いた約300の章段からなる随筆です。
作者清少納言は、『後撰和歌集』の撰者である「梨壺の五人」と呼ばれる人々の一人である清原元輔を父に持ち、正暦4(993)年に関白藤原道隆の長女で、一条天皇の中宮であった定子のもとに出仕します。この宮仕えの中で特に作者の心に映り、感じたことを『枕草子』の中で書き綴っています。
また、この作品の文学理念は「をかし」という語に集約されており、明朗で知的な感覚美の世界を表現しています。この作者の独特な感覚美と、王朝生活についてのこまやかな記録が、後世の随筆(主に『徒然草』)に大きな影響を与えました。
内容的には「類聚的章段」「随想的章段」「日記的章段」の三種類に分けられています。
(1)類聚(類集)的章段
「木の花は」「鳥は」などの「〜は型」の文と、「すさまじきもの」「にくきもの」などの「〜もの型」がありますが、特に「ものづくし」と言われたりもします。自然や人事を特色によって集めて表現したものです。題材や主題を最初に明示して、次々に連想される事柄を書き綴っているのが特徴です。この連想の豊かさが読者を惹きつけます。
(2)随想的章段
「春はあけぼの」や「月のいとあかきに」など、自然や人事の美的世界を描いたものです。いずれも作者の鋭い観察眼が光っています。
(3)日記的章段(回想的章段)
「宮にはじめて参りたるころ」「中納言参り給ひて」など、作者の宮中での体験が最もよく描き出されている章段です。いずれも中宮定子と作者清少納言の心の交流や中宮定子の素晴らしい人柄、それを慕ってやまない作者の姿が生き生きと描き出されています。
「読解のコツ」&現代語訳
「スマホで学ぶ古文」で解説している『枕草子』の文章をここで挙げておきます。
「すさまじきもの」『枕草子』読解のコツ&現代語訳|スマホで学ぶ古文


「中納言参り給ひて」『枕草子』読解のコツ&現代語訳|スマホで学ぶ古文


「雪のいと高う降りたるを」『枕草子』読解のコツ&現代語訳|スマホで学ぶ古文


「テスト対策」&練習問題
「中納言参り給ひて」『枕草子』テスト対策&練習問題|スマホで学ぶ古文


「雪のいと高う降りたるを」『枕草子』テスト対策&練習問題|スマホで学ぶ古文


『枕草子』は初見では非常に難しいので、「ビギナーズ・クラシックス」などで多くの文章に触れておきたいですね。他にも、『桃尻語訳・枕草子』などもおもしろいです。興味があれば読んでみてください。
『方丈記』について
冒頭文の確認


この文章は、以下の別の記事で解説しているので、そちらをタップしてご覧ください。


文学作品としての『方丈記』


『方丈記』は鴨長明が鎌倉時代初期(1212年)に書いた随筆で、都の生活のはかなさと自分で作った庵での隠居生活を書き綴ったものです。文章での前半は作者鴨長明の体験したさまざまな天変地異を記し、後半では世の無常を痛感して出家し、日野山に方丈(約3メートル四方)の庵を作って静かな生活を楽しむ境地を描いています。実際に鴨長明は五十代で神社を継ぐ際のトラブルによって、神社を引き継ぐことができずに失意のあまり出家しています。そして六十代になって『方丈記』を執筆することになるのです。そのような鎌倉初期の動乱と天災、自身の境遇などから世の無常(無常観)を悟った中世隠者の自己凝視の文学として名高い作品がこの『方丈記』です。
文体は非常に美しく、和語に漢語を交えた和漢混淆(混交)文体で、情緒的かつ詠嘆調の文章でありながら、対句や比喩を用いた格調の高い文章である。
ところで、鴨長明は同時期に歌論書と説話集も執筆しています。歌論書が『無名抄』、説話集が『発心集』です。これらの『方丈記』『無名抄』『発心集』は、文学史の問題として出題されることが多いですので、まとめて覚えておきましょう。鴨長明の作品として適当なものを次の中から選びなさいというような問題がよく出されます。
「読解のコツ」&現代語訳
「スマホで学ぶ古文」で解説している『方丈記』の文章をここで挙げておきます。
「ゆく河の流れ」『方丈記』読解のコツ&現代語訳|スマホで学ぶ古文


「テスト対策」&練習問題
「ゆく河の流れ」『方丈記』テスト対策&練習問題|スマホで学ぶ古文


他にも『方丈記』の様々な文章に触れてみましょう。「ビギナーズ・クラシックス」で全文見ることができますよ。
『徒然草』について
冒頭文の確認


つれづれなるままに、日暮らし、硯(すずり)に向かひて、心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。(『徒然草』より)
(訳)はこちら(タップで表示)
することがなく手持ちぶさたなのに任せて、日が暮れるまで、硯に向かって、心に浮かんでは消えていくつまらないことを、とりとめもなく書きつけていると、不思議にも心が乱れるような気分になる。
これは「序段」と呼ばれ、第一段は別に存在します。この文で、作者兼好法師のこの文章を書いたきっかけやその時の心情が描かれています。
文学作品としての『徒然草』


『徒然草』は作者兼好法師が鎌倉時代末期(1331年ころ)に記した、序段と243段からなる随筆で、それぞれの段は独立。完結した形になっています。内容も多岐にわたり、『枕草子』のように分類することは難しいのですが、無常の世に生きる者のとるべき姿を明確に描く「無常観を主題とする段」や、作者の経験や交流、学問を通して得られた様々な人間の姿が描き出される説話的な章段である「人間理解を主題とする段」、今の世の中を否定して優雅な平安貴族社会や安定した鎌倉武家社会を懐かしむ「考証・懐旧を主題とする段」などがあります。特に高校の教科書では「人間理解を主題とする段」が多く掲載され、読みやすいながらも作者の考え方がよく読み取れます。まとめると、『徒然草』は作者の心に映った社会や人間生活の諸問題、自然の風物や情趣、教養や趣味、有職故実など、多方面にわたる事柄が作者独自の無常観に基づいて鋭く論評されている文章です。
「読解のコツ」&現代語訳
「丹波に出雲といふところあり」『徒然草』読解のコツ&現代語訳|スマホで学ぶ古文


「ある人、弓射ることを習ふに」『徒然草』読解のコツ&現代語訳|スマホで学ぶ古文


「花は盛りに」『徒然草』読解のコツ&現代語訳|スマホで学ぶ古文


「神無月のころ」『徒然草』読解のコツ&現代語訳|スマホで学ぶ古文


「テスト対策」&練習問題
「丹波に出雲といふところあり」『徒然草』テスト対策&練習問題|スマホで学ぶ古文


「ある人、弓射ることを習ふに」『徒然草』テスト対策&練習問題|スマホで学ぶ古文


「花は盛りに」『徒然草』テスト対策&練習問題|スマホで学ぶ古文


「神無月のころ」『徒然草』テスト対策&練習問題|スマホで学ぶ古文


『徒然草』は他にも面白い文章がたくさん出てきます。「ビギナーズ・クラシックス」などで、他の文章にも触れてもらいたいですね。
練習問題(文学史一問一答)
1『枕草子』の作者と成立時代を答えなさい。
解答(タップで表示)
清少納言・平安時代中期(1001年ころ)
2『枕草子』「春はあけぼの」(第一段)で、春以外の夏・秋・冬に作者が「趣深い」といっているものをそれぞれ答えなさい。
解答(タップで表示)
夏:夜 秋:夕暮れ 冬:つとめて(早朝)
3『方丈記』の作者と成立時代を答えなさい。
解答(タップで表示)
鴨長明・鎌倉時代初期(1212年)
4『方丈記』の作者がこれ以外に書いた作品を2つとそのジャンルをそれぞれ答えなさい。
解答(タップで表示)
『無名抄』:歌論 『発心集』:説話集
5『徒然草』の作者と成立時代を答えなさい。
解答(タップで表示)
兼好法師・鎌倉時代末期(1331年ころ)
6『徒然草』の序段を暗証しなさい。
解答(タップで表示)
つれづれなるままに、日暮らし、硯(すずり)に向かひて、心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。
おわりに
今回は、古典三大随筆をまとめてみました。改めてそれぞれの作品の特徴を確認してもらえたらと思います。そして、解説している文章のページもぜひ読んでみてくださいね。
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