はじめに
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先生、「言はず」と「言はじ」ってどう違うのですか?ちょっと訛っただけに見えるのですが…
「ず」は単純な打消だけど、「じ」はそこに「推量」の意味が加わるんだよ。だから「打消推量」と言われるんだ。では、今回はその助動詞「じ」ともうひとつ「まじ」について見ていこう!
はじめに、今回学習することの要点を示します。
【助動詞「じ」】
【助動詞「まじ」】
打消推量の助動詞「じ」「まじ」について
今回は助動詞「じ」「まじ」です。どちらも「打消推量」と言われる助動詞です。この助動詞を理解するには、まず「打消の助動詞」と「推量の助動詞」について知る必要があります。まずはそれぞれを先に理解してください。では、始めていきましょう。
推量の助動詞「む」「べし」との関係性
簡単にいうと、助動詞「じ」は、助動詞「む」を打ち消したもの、助動詞「まじ」は助動詞「べし」を打ち消したものです。ですので、助動詞「じ」「まじ」を知るためには、助動詞「む」「べし」の理解が欠かせません。先に意味だけでも理解しておきましょう。
助動詞「む」も「べし」も多くの意味を持っていますから、必然的に助動詞「じ」「まじ」も多くの意味を持つことになります。ただ、これらの助動詞は多くが「推量」の打消(〜ないだろう)と「意志」の打消(〜つもりはない)のいずれかになります。ですので、まずは「打消推量」「打消意志」の2つを覚えておくとよいでしょう。それに加えて助動詞「まじ」は、「当然」の打消(〜はずはない/べきでない)と「可能」の打消(=不可能、〜できそうにない)を知っておくと読解で困ることはないでしょう。
接続、活用表、意味
それでは、助動詞「じ」と「まじ」について、例文を用いてそれぞれ説明していきます。
「じ」の接続・活用表・意味
(例文1)月ばかりおもしろきものはあらじ。
(例文2)(私は)京にはあらじ。
助動詞「じ」は助動詞「む」を打ち消したものですから、まずは「推量」の打ち消しか、「意志」の打ち消しかを考えます。(例文1)の主語は「おもしろきもの」ですから、「意志」とは考えにくいですね。ですので、「推量」の打ち消しであると考えます。そうすると、「月ほど趣深いものはないだろう」と意味も通じます。これを「打消推量」と呼ぶことにします。次に(例文2)を見ると、主語は「私」ですので、「意志」の打消、つまり「打消意志」となります。訳すと「都にいるつもりはない」となり、意味も通じますね。というわけで、助動詞「じ」の文法的意味は「打消推量」「打消意志」の2つをまず覚えておきましょう。さらに、助動詞「む」の持つ意味「適当」の打ち消しである「不適当」も加えて覚えておくとよいでしょう。
「じ」の文法的意味
1打消推量(ーーないだろう)
2打消意志(ーーないつもりだ/つもりはない)
3不適当(ーーないほうがよい/のはよくない)
次に接続と活用です。(例文1)の助動詞「じ」の直前を見ると「あら」になっているので、助動詞「じ」の接続は未然形ということが分かります。また、助動詞「じ」は活用はするのですが、形が変わりません。つまり、終止形でも連体形でも已然形でも「じ」となります。これを無変化型(特殊型の1つ)といいます。
「じ」の接続=未然形
「じ」の活用=無変化型
「まじ」の接続・活用表・意味
(例文3)(〜こそ)秋にはをさをさ劣るまじけれ。
(例文4)ただ今は見るまじとて、…
(例文5)えとどむまじければ、……。
助動詞「まじ」は、「べし」の打ち消しとして使われます。この語は現代でも残っており、「〜まい」と使用します。例えば、「手紙を書くまい」は、主語が「私」なら「意志」を打ち消す言葉(書くつもりはない)として、主語が「彼」なら「推量」を打ち消す言葉(書かないだろう)として使われますね。ですので、「当然」を打ち消すのが原則ではありますが、実際には(例文3[訳:秋には全く劣らないだろう])のように「打消推量」や、(例文4[訳:ただ今は見るまい])「打消意志」の意味を持つことが多いです。また、(例文5)のように「可能」の打ち消しとしても用いられます[訳:留めることはできそうにないので]。これは、「不可能」という意味になりますが、実際にはそこに「推量」の意味も含まれていて、「不可能推量」と言われたりもします。以上から、助動詞「まじ」には「打消推量」「打消意志」「不可能」(不可能推量)の意味が多く使われるということが分かりましたが、他にも「当然」の打ち消しである「打消当然」、「適当」の打ち消しである「不適当」、「命令」の打ち消しである「禁止」などもあります。
「まじ」の文法的意味
1打消推量(ーーないだろう)
2打消意志(ーーないつもりだ/つもりはない)
3不適当(ーーないほうがよい/のはよくない)
4打消当然(ーーはずがない/べきでない)
5禁止(ーーな/てはいけない)
6不可能(ーーできそうにない)
次に接続と活用です。どちらも助動詞「べし」と同じです。(例文5)を見ると、助動詞「まじ」は終止形に接続することが分かります。ただし、終止形接続の助動詞はラ変型は連体形に接続するのは「まじ」も同じです。また、活用は形容詞形で、形容詞のシク活用と同じ活用をします。ただし、命令形はありません。
「まじ」の接続=終止形
※(ラ変型は連体形)
「まじ」の活用=形容詞型
以上で助動詞「じ」「まじ」の説明を終わりますが、結局のところ、
助動詞「じ」は「む」の打ち消し
助動詞「まじ」は「べし」の打ち消し
これが分かっていれば、読解で困ることはないと思います。さらには、現代語の「ーーまい」であることも知っておいたら、ほぼ問題はないでしょう。あとは、実際に問題を解いて理解を深めていってください。
練習問題
助動詞「じ」「まじ」について理解ができたか、実際の問題を通して確認していきましょう。
問 各文中の、助動詞「じ」「まじ」を抜き出して、その文法的意味と活用形を書きなさい。
(1)えとどむまじければ、たださし仰ぎて、泣きをり。
(2)今は世にあらじものとや、思ふらむ。
(3)かかる折にも、あるまじき恥もこそと心遣ひして……。
(4)残しおかじと思ふ反古など、破り捨つる中に……。
【解答】(1)「まじけれ」不可能(打消推量)・已然形(2)「じ」打消推量・連体形(3)打消当然・連体形(4)「じ」打消意志・終止形
【解説】
(1)「えーーまじ」の形になっている場合は、「え」が不可能の意味を表すので「打消推量」ととってもよいのですが、一般的には「不可能」ととることが多いです。「ば」に接続していますが、活用から考えて已然形です。
(2)「じ」は基本的に「打消推量」か「打消意志」のどちらかでとるとよいです。今回は主語が「私」ではないので、「打消推量」がよいでしょう。「もの」の直前の「じ」なので連体形です。
(3)「あるまじき(名詞)」は現代語でも使いますが、「あってはならない」などという意味ですね。これは「打消当然」となります。体言の直前の「まじ」なので連体形です。
(4)(2)でも述べたとおりです。今回は「残しおかじ」に「 」をつけることができるので、主語は「私」ととることができます。よって「じ」は打消意志です。「と」につながり、係り結びはないので「じ」は終止形です。
おわりに
今回は、助動詞「じ」「まじ」について学習しました。助動詞「む」「べし」の打ち消しなので、意味の仕分けが必要ですが、「む」「べし」が分かっていればそれほど困ることはないはずです。
助動詞の解説は以上で終わりです。ここで取り上げなかった助動詞もありますが、それは読解のところで出てくるたびにお話していきます。この助動詞の項目がマスターできれば、読解はかなり楽になってきます。必要であれば何度も見返して、自分のものにしていってください。
最後までよくがんばったね。この知識をもとに多くの文章に触れていってね。
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