助動詞「なり」(たり)

助動詞
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はじめに

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生徒
生徒

先生、今回も助動詞「なり」ですか。前回も「なり」でしたよね。何が違うのですか?

先生
先生

見た目は「なり」で同じだけど、語源も違うし意味も異なるんだよ。今回はその違いについて学んでいこう!

はじめに、今回学習することの要点を示します。

断定の助動詞「なり」について

今回は断定の助動詞「なり」です。前回の伝聞・推定の助動詞「なり」と表記は同じですが、中身は異なります。「推定」は根拠のある推量でしたが、「断定」は確信を持って判断を下すことを表します。つまり、はっきりと言い切るのが「断定」の助動詞です。今回は、断定の助動詞「なり」について説明するので、伝聞・推定の助動詞「なり」と区別するため、「なり」(断定)または断定の助動詞なりと表記します

接続、活用表、意味

それでは、例文を使って助動詞「なり」(断定)に迫っていきます。

(例文1)父はなほ人て、母なむ藤原なりける。

「なり」断定の助動詞で、「ーーである」と訳します。ですが、この助動詞はもともと「ーーにあり」という形だったものが、つづまって「なり」になりました。そして、この「なり」は分離して「ーーに○○あり」という形でも出てきます。このとき、「ーーに」の「に」も断定の助動詞「なり」と考えます。(例文1)の「なほ人にて」の「に」は断定の助動詞「なり」の一部(訳は「ーーで」)と考えられます。また、「藤原なりける」の「なり」も断定の助動詞「なり」です。訳すと「父は普通の身分の人で、母は藤原一族であった。」となります。

それでは、接続を見ていきます。(例文1)には2つの「なり」がありますが、どちらも直前は体言(名詞)になっています。ここから分かるように、断定の助動詞「なり」は体言に接続するのですが、活用形ではどうなるのでしょうか。それは次の例文を見てみましょう。

(例文2)うつつにも、夢にも人に、あはぬなりけり。 

「あはぬなりけり」の「なり」が断定の助動詞ですが、直前の「ぬ」は打消の助動詞「ず」の連体形です。このように、断定の助動詞「なり」は連体形に接続します。その他、助詞や副詞が接続することもあります。

「なり」(断定)の接続
連体形体言、助詞、副詞

次に活用です。助動詞「なり」(断定)は「ーーにあり」がつづまったものですが、「に」と「あり」が分かれて出てくることがあります。その「に」は本来、断定の助動詞の一部なのですが、これも断定の助動詞として考えます。「に」は「あり」の直前にありますから、連用形です。そうすると、助動詞「なり」は形容動詞ナリ活用と同じ活用をすることになります。

「なり」(断定)の活用
=形容動詞型

もとの形、連用形について

先ほどから何回か述べていますが、助動詞「なり」(断定)は「ーーにあり」がつづまった形です。これを見たまま訳すと「ーーである」ではなく、「ーーにある」ですよね。特に場所を表す名詞が直前にあるとそのように訳した方がうまくいくことが多いです。次の例文を見てください。

(例文3)天の原ふりさけみれば春日なる三笠の山に出でし月かも

天の原(=広々とした大空)を振り仰いで、はるかに見渡してみると、美しい月が出ている。あの月は「春日(=奈良県、作者の故郷)なる」三笠山に出ていた月なのだなあ、という意味ですが、これを、「春日である」と訳すと違和感があります。これは「春日にある」と解釈するのが自然です。このように、「ーーにある」と解釈する「なり」を文法的意味としては「存在」と呼びます。以上をまとめると、助動詞「なり」(断定)は、「断定」の他に「存在」の意味があるということになります。

「なり」(断定)の文法的意味
断定(ーーである/だ)
存在(ーーにある/にいる)

連用形「に」の出現の仕方

助動詞「なり」(断定)は「にあり」と「に」と「あり」分離して出てくることがあることは先ほども述べました。実際には、「に」と「あり」の間に別の語が挿入されることが多いです。例えば、係り結びを作る助詞である「ぞ」「なむ」「や」「か」「こそ」がその代表です。以下の文を見てください。

(例文4)何事あら

助詞の「か」が間に挟まることによって、助動詞「なり」(断定)がもとの「に」と「あり」に分かれた形です。このように、助動詞「なり」(断定)の連用形「に」は、数文字あとに「あり」を伴うことが原則です。ただし、その「あり」は省略されることもありますし、また、「あり」が敬語になって「侍り」「候ふ」(丁寧語)、「おはす」「おはします」(尊敬語)と変化している場合もあります。

「に」を「断定の助動詞「なり」の連用形」と決めるには、後に「あり」や「侍り」「おはす」などがあるかを確認することと、「で」と訳してみて意味が通じるかを確認することが必要になります。

断定の助動詞「たり」について

断定の助動詞「なり」は形容動詞のナリ活用と同じ活用をすると先ほど述べましたが、実は形容動詞のタリ活用と同じ活用をする断定の助動詞「たり」というのもあります。ただし、断定の助動詞「たり」は漢文訓読語の文章でしか現れず、和文の多い古文ではあまり出てくることはありません。以下の例文を見て確認します。

(例文4) 忠盛、備前守たりしとき、……。

断定の助動詞「たり」は体言にのみ接続し、活用は形容動詞タリ活用と同じ活用をします。形容動詞タリ活用については、こちらで確認してください。また、元の形は「とあり」なので、「たり」の「と」と「あり」が分解した形として、連用形に「と」がありますが、これはほぼ見かけることはないでしょう。以上の内容を下記にまとめておきます。

「たり」(断定)
接続=体言
活用=形容動詞型
意味=断定

以上で断定の助動詞についての説明を終わります。「なり」は断定の助動詞か、前回説明した伝聞推定の助動詞かの見分けが問題になることも多くあります。これを「なりの識別」といいます。練習問題ではこれらの見分けも必要になる問題が出てきます。確実に理解していきましょう。

練習問題

断定の助動詞「なり」について理解ができたか、実際の問題を通して確認していきましょう。また、前回の伝聞推定の助動詞「なり」との違いも確認します。

接続・活用形の問題

問一 各文中の、断定の助動詞「なり」を抜き出し、その活用形を書きなさい。
(1)うつつにも、夢にも人に、あはぬなりけり。  
(2)子になり給ふべき人なめり。
(3)人、木石にあらねば、……物に感ずること、なきにあらず。

【解答】
問一(1)「なり」連用形(2)「な」連体形(撥音便の無表記)(3)『木石に』の「に」連用形『なきに』の「に」連用形

【解説】(1)の「なり」の直前は打消の助動詞「ず」の連体形です。「ぬ」が接続する場合は断定の助動詞「なり」になります。(2)「なめり」の「な」は断定の助動詞「なり」の連用形の撥音便の無表記です。また、撥音便の無表記がおこる「なり」は断定の助動詞であることも知っておいてください。(3)は「に○○あり」の形です。助動詞「なり」の元の形ですね。2つあることにも注意を払いたいところです。

意味と識別の問題

問二 各文中の青太字の助動詞「なり」に注意して、現代語訳しなさい。
(1)誰が車ならむ。見知り給へりや。
 (訳) 誰の〔       〕。知っておられますか。
(2)物語するさまこそ、何事かあらん、尽きすまじけれ。
 (訳)(男女が)おしゃべりをしている様子は、〔       〕、つきることもなさそうだ。
(3)人々の声あまたして、来る音すなり
 (訳) 人の声がたくさんして、(みんなの)来る〔       〕。

【解答】
問二(1)車であろうか(2)何事であろうか(3)音がするようだ

【解説】
助動詞「なり」を含む全体を現代語訳する問題です。(1)の「なら」は体言に接続しているので、「断定の助動詞」ですが、その他に助動詞「む」の意味も知っておく必要があります。ここでは、文章の内容から考えて推量になります。(2)は「にやあらむ」「にかあらむ」の訳し方を知っておくと早いです。訳は「〜であろうか」ですね。(3)は断定の助動詞ではありません。「なり」の直前が「す」とサ行変格活用動詞の終止形ですから、この「なり」は伝聞推定の助動詞です。

おわりに

今回は断定の助動詞についてお話しました。ここまでで助動詞の学習は9割方終了です。ここまで理解できるようになったら、文章の理解も格段に進むことでしょう。次回は「じ」「まじ」です。解説はこれで最後になります。あと少し、頑張りましょう!

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