はじめに
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先生、「めり」「なり」って推定の助動詞って聞いたのですが、推量と推定ってどう違うのですか?
どちらも不確かなことを推測するってことには変わりがないのだけど、「推定」は「根拠をもった推量」ともいって、確信度合いが「推量」よりも高いんだね。今回はそんな、「推定」の助動詞を見ていこう!
はじめに、今回学習することの要点を示します。
【助動詞「めり」】
【伝聞推定の助動詞「なり」】
【撥音便の無表記】
推定の助動詞「めり」「なり」について
今回は「推定」の助動詞です。推定の助動詞は、これまで学んだ推量の助動詞よりも、自分なりに確信の度合いが高いという時に使われます。なぜ確信の度合いが高いのかというと、それぞれ「根拠」をもって推測しているからです。では、「めり」と「なり」はどのような「根拠」をもった助動詞なのか、ここから見ていくことにします。
助動詞「めり」「なり」の基本的な考え方
助動詞「めり」はもともと「見あり」(目あり)がつづまったものと考えられています。つまり、「目で見たことを根拠に推測」している助動詞と考えるわけです。一方、「なり」は「音あり」がつづまったものと考えられ、「耳で聞いたことを根拠に推測」している助動詞となります。
接続、活用表、意味
それでは例文を使って、それぞれの助動詞の意味や働きを確認していきます。
「めり」
(例文1)すだれ少し上げて、花奉るめり。
「めり」は「目で見たことを根拠に推測」していると考えます。「すだれを上げている」ことや「花をお供えしている」ことを実際に見て判断しているのでしょう。ただ、実際には遠目に見ているので「断定」はできず、推定の助動詞「めり」を使用しているのだと考えられます。まとめると、この助動詞「めり」の文法的意味は「推定」で、「ーーようだ」と訳すと覚えておけばよいでしょう。ただし、文法書によっては「推量」と書かれていたり「婉曲推定」と書かれているものもあります。ですから、文中に「めり」がある時は、「む」などと同じように「婉曲」と解釈することもあります。
次に活用です。「り」で終わる助動詞は原則としてラ変型です。ただし、未然形、連用形、命令形はありません。そして、接続ですが、(例文1)の「奉る」では、ラ行四段活用動詞なので終止形か連体形か分かりません。これは別の例文で考えましょう。練習問題の問一(3)を使います。
(例文2)あゆみ来めるは、兵衛佐なめりと思へば、
「来」はカ行変格活用動詞の終止形であることから分かるように、「めり」の接続は終止形です。ただし、終止形接続の助動詞はどれもラ変型は連体形です。このことについて、詳しくは助動詞「らむ」の接続をご覧ください。以上をまとめると、下記のようになります。
「めり」の接続
=終止形(ラ変型は連体形)
「めり」の活用=ラ変型
「めり」の文法的意味
1推定(ーーようだ)
2婉曲(ーーような)
「めり」は「見あり(目あり)」がつづまったものなので、視覚推定ということもあるけど、文法問題でこれが問われることはないから、「見あり」だけ知っていたらいいよ。
「なり」
(例文3)秋の野に人まつ虫の声すなり
(例文4)奥山に猫またといふものありて、人を食ふなる。
「なり」は「耳で聞いたことを根拠に推測する」助動詞です。(例文3)では実際に「虫の声」を耳にして、「マツムシ(現代の鈴虫)」が鳴いていると推測しています。ちなみに、これは和歌の一部で掛詞にもなっています(「人を待つ」と「マツムシ」)。この「なり」を推定と呼び、「ーーようだ」と訳します。ここでは、「マツムシの声がするようだ」となります。
一方、(例文4)では、文中に何か音を表すような表現はありません。その場合は、「人から聞いた」ことを根拠にします。この「なり」は伝聞と呼び、「ーーそうだ/とかいう」などと訳します。ここでは、「人を食うそうだ/人を食うとかいう」となります。
以上のように、助動詞「なり」は「推定」と「伝聞」の2つがあり、音による根拠がはっきりする場合は「推定」、根拠がない場合は「伝聞」となります。一般的にはこの助動詞が「伝聞・推定」と呼ばれるのはこのためです。「伝聞」と「推定」の見分けが出題されることもありますので、どちらの意味になりそうかは文章を読んで判断してください。判断の基準は「音による根拠」があるかどうかです。
この次の回で学習する、断定の助動詞「なり」とも間違えやすいので、「なり」の理解は慎重に行いましょう!
「なり」の文法的意味
1伝聞(ーーとかいう/そうだ)
2推定(ーーそうだ/らしい)
これも、「視覚推定」って聞かれることはまずないよ。音による根拠の推定って分かっていれば十分だよ。
次に、接続と活用をまとめてお話します。
助動詞「なり」は「めり」と同じ接続と活用です。(例文3)からわかるように終止形接続(ラ変型は連体形)で、活用はラ変型です。ただし、「めり」と同じく未然形、連用形、命令形はありません。
「なり」の接続
=終止形(ラ変型は連体形)
「なり」の活用=ラ変型
以上で助動詞「めり」「なり」の解説は終わりなのですが、練習問題に移る前に「撥音便の無表記」というものについて、学習していきます。
撥音便の無表記について
音便について
まず初めに、音便について学習しておきます。音便というのは、簡単に言うと、単語中の音が発音しやすく変化することで、全部で四種類あります。例えば、以下のようなものです。
例1)書きて→書いて 差して→差いて 急ぎて→急いで
例2)思ひて→思うて 頼みて→頼うで 呼びて→呼うで
例3)飲みて→飲んで 飛びて→飛んで あるめり→あんめり
例4)立ちて→立つて 戦ひて→戦つて ありて→あつて
例1)のような「い」に変化するものを「イ音便」、例2)のような「う」に変化するものを「ウ音便」、例3)のような「ん」に変化するものを「撥音便」、例4)のような「つ」に変化するものを「促音便」と呼びます。
1 書きて→書いて【イ音便】
2 思ひて→思うて【ウ音便】
3 飛びて→飛んで【撥音便】
4 ありて→あつて【促音便】
「ん」が「はつおんびん」、「つ」が「そくおんびん」。意外と逆にしてしまうので気をつけよう!
撥音便の無表記
先ほど、「ん」に変化するものを「撥音便」と呼ぶということは学びましたが、終止形接続をする助動詞「なり」「めり」「べし」の直前にラ変型(ラ変動詞・形容詞・形容動詞・ラ変型の助動詞・助動詞「ず」)が接続した場合は、そのラ変型の言葉が連体形になりますが、そのとき特殊な形で登場することがあります。以下の2つの例文を使って説明します。
(例文5)いまいまも、さこそは侍るべかんめれ。
(例文6)あゆみ来めるは、兵衛佐なめりと思へば、
(例文5)の「べかんめれ」は、「べかん」が助動詞「べし」の連体形です。もともとは「べかる」ですが、撥音便化しています。このように、助動詞「めり」(「べし」「なり」)にラ変型の言葉が接続する場合は発音しやすいように、「る」音が「ん」に変わって撥音便化することが多くあります。
一方、(例文6)の「なめり」は断定の助動詞「なり」に推定の助動詞「めり」が続いている形です。ここでは「なめり」となっていますが、実際には「なるめり」であり、「る」が消えてしまっています。実はこれも、撥音便化が起こっていて、「なるめり」が発音しやすいように「なんめり」となったものです。しかし、撥音の「ん」は、特に平安時代の作品では表記されないことが多く、表記上は(例文6)のように「なめり」となってしまうのです。これを「撥音便の無表記」といいます。ただし、「なめり」と表記してあっても「なんめり」と読みます。
次は、「撥音便の無表記」が、実際に文章で出てきた時にどのように対処すればよいかについてお話します。助動詞「べし」「めり」「なり」は終止形接続で、ラ変型は連体形接続あるというのはもう分かりますね。これはつまり、通常「べし」「めり」「なり」の直前はウ段であることを指しています。撥音便の無表記が起こるときは、「べし」「めり」「なり」の直前がア段になっているので、読んでいると違和感を覚えます。例えば以下の例文を見てください。
(例文7)願はしかるべきこととこそ多かめれ。
(例文7)の「めれ」(「めり」の已然形)の直前が「多か」とア段になっていることに気づきます。このように「ア+めり」の形になっている時は「ア段」の下に「ん」が省略されていると考えて、「アんめり」と読みます。(例文7)では「多かんめれ」と読むわけです。そして、もともと「アめり」は「アるめり」だったということも理解しておきましょう。つまり、(例文7)は、もともと「多かるめれ」だったと理解しながら読むことが必要になるというわけです。
以上、「撥音便の無表記」についてお話しました。「ア+べし」「ア+めり」「ア+なり」が文章で出てきた時に、「撥音便の無表記」が起こっていると気がつけるようになりましょう。
練習問題
助動詞「めり」「なり(伝聞推定)」について理解ができたか、実際の問題を通して確認していきましょう。
「めり」に関する問題
問一 各文中の「めり」を抜き出し、その活用形を書きなさい。
(1)花やすすき、君がかたにぞなびくめる。
(2)いまいまも、さこそは侍るべかんめれ。
(3)あゆみ来めるは、兵衛佐なめりと思へば、
【解答】
問一(1)「める」連体形(2)「めれ」已然形(3)「める」連体形「めり」終止形
【解説】助動詞「めり」を見つけるのは容易です。活用形も終止形が「めり」、連体形が「める」、已然形が「めれ」なので、形で判断することもできます。むしろ、(2)は「めれ」の直前が撥音便化されていることに気づきたいですね。
「なり」(伝聞推定)に関する問題
問二 各文中の「なり」(伝聞推定)を抜き出し、文法的意味・活用形を書きなさい。
(1)唐詩に「日望めば都遠し」などいふなる言のさまを聞きて、
(2)この十五日になむ月の都よりかぐや姫を迎へにまうで来なる。
(3)秋の野に人まつ虫の声すなり。
【解答】
問二(1)「なる」伝聞・連体形(2)「なる」伝聞・連体形(3)「なり」推定・終止形
【解説】助動詞「なり」も見つけるのは容易です。活用形も終止形が「なり」、連体形が「なる」、已然形が「なれ」なので、形で判断できます。問題は、「伝聞」なのか「推定」なのかを判断することです。(1)は直後に「言のさまを聞きて」とあるので、「伝聞」です。(2)は特に音による根拠がないので、これも「伝聞」です。(3)は(例文3)でお話した通り、「マツムシの声」という音による根拠があるので「推定」です。
助動詞「らし」について
実は、推定の助動詞には「なり」「めり」の他に「らし」という助動詞もあります。この「らし」は、主に和歌に用いられ、平安時代はすでに古い言葉とされていました。しかし、現代で推定の助動詞となったのは「らしい」だというのは皮肉なものですね。 さて、これも例文で見ておきましょう。
(例文8) 春過ぎて夏来たるらし白たへの衣ほしたり天の香久山
初めの2句は「春が過ぎて夏が来たようだ。」と訳します。この「らし」も根拠のある推定ですが、その根拠は「白たへの衣ほしたり天の香久山」にあります。「真っ白な衣を干している(のが見える)天の香久山」を見て、「夏が来たようだ」と推測しているわけです。それでは、「らし」について、以下にまとめておきます。
助動詞「らし」
・接続=終止形 (ラ変型は連体形)
・活用表 ○/○/らし/らし/らし/○
特殊型(無変化型)
・意味=推定(――らしい、――に違いない)
おわりに
今回は助動詞「めり」「なり」についてお話しました。「なり」は伝聞・推定の助動詞と言われますが、意味を見分けることもできるようになりたいですね。次回は断定の助動詞「なり」です。今回の伝聞・推定の助動詞「なり」とは異なる助動詞です。これで、助動詞もあと2項目です。最後まで走り抜きましょう!
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