はじめに
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推量の助動詞「らむ」「けむ」について
今回は助動詞「らむ」「けむ」について学んでいきましょう。「らむ」「けむ」を知るには、まず助動詞「む」について知っておくことが前提になります。「む」について理解した後で、こちらを読み進めてください。
「らむ」「けむ」の基本的な考え方について
一言でいうと、助動詞「らむ」は「現在を推量するもの」、「けむ」は「過去を推量するもの」です。助動詞「む」が、「これから先に起こること」を推測するものだったのに対し、時間の感覚が「現在」や「未来」に変わっているということをまず知っておくとよいでしょう。「現在の推量」は、通常今目に見えていないことに対して使われます。「過去の推量」は、自分が体験しなかったこと、以前は思いもつかなかったことに対して思いを馳せるときなどに使われます。今回は、助動詞「らむ」・「けむ」それぞれ別項目として説明をしていきます。
「らむ」の接続、活用表、意味
まず、例文を使って「らむ」という助動詞を理解していきます。
(例文)憶良らは今はまからむ、子泣くらむ
例文前半の「まからむ」の「む」は、主語が「(私)憶良めは」となっていますので、「退出しましょう(帰りましょう)」と意志を表しています。現在まだ、憶良は立ち去っていないので、この先のこと(未来)の出来事の説明として助動詞「む」を用いています。一方、後半の「子泣くらむ」は、自分がいないところで、現在子どもが泣いているだろうと推測していることを表現しています。つまり、助動詞「らむ」は現在を推量する助動詞であることがわかります。
「子泣くらむ」についてもう少し分析していきます。助動詞「らむ」には「泣く」が接続しています。これはカ行四段活用の動詞ですが、終止形か連体形かは分かりません。そこで、練習問題の問三(1)の文を見ると「龍田山、夜半にや君が、ひとり越ゆらむ。」となっています。「越ゆらむ」の「越ゆ」はヤ行下二段活用の終止形なので、接続は終止形だとわかります。ただし、終止形接続の助動詞は、ラ行変格活用動詞、またはそれと同じ活用をする助動詞(これを「ラ変型」といいます)が接続するときは連体形になりますので、注意してください。
次に活用です。活用は「む」と同じ四段型です。助動詞「む」が「ん」となるのと同じように「らん」となることがあります。
「らむ」の接続
=終止形(ラ変型は連体形)
「らむ」の活用=四段型
※ただし、音便(「ん」)に注意
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「らむ」は現在起こっている状況を推測する助動詞(現在推量の助動詞)ですが、それは、原則として目に見えていないことに対して行います。(例文)でも、いまその場にいない子が、(自宅で)泣いていることを推測しているわけです。一方で目の前で起こっていることを推測することもあります。その時は、その現象が起こっている原因や理由を推測することが多いです。そのような原因・理由を推測することを「原因推量」といいます。例えば、「子泣くらむ」とあっても、目の前で子どもが泣いていると、「なぜこの子は泣いているのだろう」や「転んだから泣いているのだろう」と泣いている原因や理由を推量することになります。
また、助動詞「む」と同じように文中に「らむ」がある場合は「(現在の)婉曲」になる場合が多いです。「〜ているような」と訳すとよいでしょう。また、婉曲の派生で「〜とかいっている」「〜と聞く」という「伝聞」になることもあります。
「らむ」の文法的意味
1現在推量(今ごろーーているだろう)
2(現在の)原因推量
(どうしてーーているのだろう)
(ーーので・・・ているのだろう)
3(現在の)婉曲、伝聞
(ーーているような)
(ーーとか言っている)
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「けむ」の接続、活用表、意味
助動詞「けむ」も例文から理解していきます。
(例文)あれは、ただ人にこそありけめ
「けむ」は過去にあった出来事等を推測する助動詞ですから、「(今は異なるが以前は)普通の(身分の)人であったのだろう」と解釈すればよいのでしょう。「けむ」は「過去推量」の助動詞です。
例文では、「こそありけめ」となっています。助動詞「けむ」の接続は「あり」なので、連用形か終止形か分かりません。そこで、練習問題の問三(3)の文を見ると「いかがしけむ」となっています。「し」はサ行変格活用の連用形ですから、「けむ」の接続は連用形となります。改めて整理すると、過去・完了を表す助動詞は原則(「り」を除いて)連用形接続になっていることに気がつきますね。
次に活用です。例文では係り結びの法則によって已然形「らめ」になっています。活用は「む」と同じ四段型です。助動詞「む」「らむ」が「ん」「らん」となるのと同じように「けん」となることがあります。
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「けむ」の接続=連用形
「けむ」の活用=四段型
※ただし、音便(「ん」)に注意
「けむ」は過去に起こってた状況を推測する助動詞(過去推量の助動詞)です。また、当時その現象が起こった原因や理由を推測することがもあります。そのようなものを「原因推量」といいましたが、「らむ」よりは用例が少ないです。
また、助動詞「む」と同じように文中に「けむ」がある場合は「(過去の)婉曲」になる場合が多いです。「〜たような」と訳すとよいでしょう。また、婉曲の派生で「〜たとかいう」「〜たと聞く」という「伝聞」になることもあります。
「けむ」の文法的意味
1過去推量(ーーただろう)
2(過去の)原因推量
(どうしてーーたのだろう)
(ーーので・・・たのだろう)
3(現在の)婉曲、伝聞
(ーーたような)
(ーーたとか言っている)
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以上が「らむ」「けむ」の説明になります。大きく捉えると、「む」が未来を、「らむ」が現在を、「けむ」が過去を推量していると考えれば、分かりやすいと思います。では、実際に問題を解いて、助動詞「らむ」「けむ」の理解を深めていきましょう。
練習問題
助動詞「らむ」「けむ」について理解ができたか、実際の問題を通して確認していきましょう。
接続の問題
問一 空欄に、(1)~(6)の動詞を、適当な活用形に改めなさい。ただし(6)はひらがなで答えること。
(1)書く
( )む ( )らむ ( )けむ
(2)見る
( )む ( )らむ ( )けむ
(3)助く
( )む ( )らむ ( )けむ
(4)往ぬ
( )む ( )らむ ( )けむ
(5)あり
( )む ( )らむ ( )けむ
(6)来
( )む ( )らむ ( )けむ
「む」の直前は未然形、「らむ」の直前は終止形(ラ変型は連体形)、「けむ」の直前は連用形です。動詞の活用の種類が分からないと解けません。自身のない人はこちらで確認してください。
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【解答】
問一(1)書かむ 書くらむ 書きけむ
(2)見む 見るらむ 見けむ
(3)助けむ 助くらむ 助けけむ
(4)往なむ 往ぬらむ 往にけむ
(5)あらむ あるらむ ありけむ
(6)こむ くらむ きけむ
文の中から「らむ」「けむ」を見つけ出す問題
問二 各文中の助動詞「む」「らむ」「けむ」をすべて抜き出し、その文法的意味と活用形を書きなさい。
(1)向かひゐたりけんありさま、さこそ異様なりけめ。
(2)「まかりなむ」とばかりこそ、いふらめ。
(3)なにごと思ひたまふぞ。思すらむこと、なにごとぞ。
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【解答】問二(1)「けん」過去推量(過去の婉曲)・連体形「けめ」過去推量・已然形
(2)「む」意志・終止形「らめ」現在推量・已然形
(3)「らむ」現在推量(現在の婉曲)・連体形
【解説】
(1)向かひゐたりけんありさま、さこそ異様なりけめ。
2つあります。1つは「向かひたりけん」の「けん」です。直後が「ありさま」と名詞になっているので、「過去の婉曲」か、単純に「過去推量」と取っても構いません。もちろん「けん」は連体形です。
もう1つは、「異様なりけめ」の「けめ」です。文末であり、特に疑問詞もないので、「過去推量」です。「こそ」の結びになっているので、「けめ」は已然形です。
(2)「まかりなむ」とばかりこそ、いふらめ。
これも2つあります。1つは、「まかりなむ」の「む」です。「まかる」は「退出する」(「帰る」の謙譲語)という意味なので、「(私は)退出しましょう」と意志でとったらよいでしょう。文末なので終止形です。また、「まかりなむ」の「な」は強意(完了)の助動詞です。
もう1つは、「いふらめ」の「らめ」です。文末であり、特に疑問詞もないので、「現在推量」です。「こそ」の結びになっているので、「らめ」は已然形です。
(3)なにごと思ひたまふぞ。思すらむこと、なにごとぞ。
「思すらむこと」の「らむ」です。直後が「こと」と名詞になっているので、「現在の婉曲」か、単純に「現在推量」と取っても構いません。もちろん「らん」は連体形です。
文法的意味・現代語訳の問題
問三 傍線部分を、助動詞「らむ」「けむ」に注意して、現代語訳しなさい。
(1)龍田山、夜半にや君が、ひとり越ゆらむ。
(訳)龍田山をこの夜ふけに、あなたひとりで〔 〕。
(2)今日こそは、神代のことを思ひいづらめ。
(訳)今日こそは、神代の昔のことを〔 〕。
(3)いかがしけむ、疾き風吹きて、舟を吹きてもてありく。
(訳)〔 〕、早い風が吹いて、舟を吹いて持ってまわる。
(4)家の中出で初めけむほどは、さこそはおぼえけめ。
(訳)(みんな)家から宮仕えに出始めたころは、そのように〔 〕。
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【解答】
問三(1)越えているのだろうか(2)思い出しているだろう
【解説】(1)(2)ともに「現在推量」の助動詞「らむ」です。(1)「夜半にや」と疑問詞を伴うので、文末は「越えているのだろうか」と疑問の形にすることが必要です。
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【解答】
問三(3)どうしたのだろうか(4)思われたのであろう
【解説】(3)(4)ともに「過去推量」の助動詞「けむ」です。(3)「いかが」と疑問詞を伴うので、文末は「どうしたのだろうか」と疑問の形にすることが必要です。
おわりに
今回は助動詞「らむ」「けむ」でした。文法的意味が四字になった(「現在推量」「過去推量」)ので、面食らった人もいたのではないでしょうか。本文によく出てくる助動詞は二字のものが多いですが(例 過去)、学習が進んでくると、四文字以上の文法的意味を持つものが出てきます。といっても、今回は助動詞「む」の親戚みたいなものだったので、比較的分かりやすかったのではないでしょうか。
次回は助動詞「べし」です。助動詞の中で最も文法的意味の数が多い助動詞ですが(昔は16個も覚えさせられたらしいです・・・)、「む」と同じでもとは1つで、それが様々な意味に派生していくわけです。次回も大きく1つの意味から様々な意味に広げていく学習をしていきたいと思います。では、またお会いしましょう!
これまでの内容を動画で確認したい方は以下をご覧ください。
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