助動詞「べし」

助動詞
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はじめに

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生徒
生徒

助動詞「べし」って、今でいう「べきだ」ですよね。でも、ものすごくたくさんの意味があるって聞きました。

先生
先生

そうなんだよね。「べし」は文法書を見ると助動詞の中で最も多くの意味があるんだ。でも、これも元の意味を理解すれば、すべてがそこから派生しているってことが分かるよ。順番に理解していこう!

はじめに、今回学習することの要点を示します。

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助動詞「べし」について

助動詞「べし」の基本的な考え方

助動詞「べし」は自分の意思や能力を越えた事象、つまり、道理や義務などを表すときに使われる助動詞です。ですので、もとの意味は「当然(義務)」だと考えられます。実際に文章を読んで「べし」の意味を確認してみると、そのほとんどが「〜べきだ/〜はずだ」のいずれかで訳してみると、意味が通じてしまいます(多少無理がある場合もありますが…)。「当然(義務)」を基本として、場面に応じて様々な解釈ができます。例えば、自分が「〜(す)べきだ」となれば、「(強い)意志」を表し、「〜べきだ」を強調したら「〜しなさい」と「命令」になり、「〜べきだ」を少し弱めると「〜(し)た方がよい」と「適当(勧誘)」なります。また、「〜はずだ」を少し弱めると「〜だろう」と「推量」になりますし、例えば、「今はできないけど努力すればできるはずだ」となれば、「〜できる(はずだ)」と「可能」の意味を持つことだってあるわけです。さらには、「意志」の中でも「自分の意思を越えた事象」に着目すると、自分だけでなく他の人も含めた「意志」である「予定」(〜ことになっている)と解釈することもできます。このように、「べし」は様々な意味を持つ助動詞だということが分かります。

この説明を図にしたのが以下の板書だよ

接続・活用表・意味

いつもどおり、例文を使って、「べし」という助動詞を理解していきますが、先ほども述べましたように「べし」は様々な意味を持つ助動詞なので、多くの例文を並べて確認していきます。

上の板書の「例」を並べて、確認してみましょう

(例1)この一矢に定むべし
(例2)風吹きぬべし
(例3)濁れる酒を飲むべくあるらし。
(例4)いふべき事ありて文をやる。
(例5)よく見て参るべきよし
(例6)羽なければ、空をも飛ぶべからず。

まず、接続です。「べし」の直前を見て確認します。これではっきりと分かるのは(例2)です。直前の「ぬ」は完了(強意)の助動詞です。助動詞「ぬ」はナ変型の活用をしますので、「ぬ」は終止形だと言えます。よって、「べし」の接続は終止形です。ただし、終止形接続の助動詞は、「あり」などラ変型のものは連体形に接続します。詳しくは助動詞「らむ」の接続をご覧ください。

「べし」の接続
 =終止形(ラ変型は連体形)

次に活用です。例文を見比べてみましょう。(例1・2)は終止形、(例3)は連用形、(例4・5)は連体形、(例6)は未然形です。そうすると、なんとなく形容詞の活用に近いのではないかと見えてきませんか。そうです。形容詞のク活用と同じ活用をしています。助動詞「べし」は形容詞型の活用をする助動詞となります

「べし」の活用=形容詞型

次に、文法的意味の確認です。文法的意味は「助動詞「べし」の基本的な考え方」で説明した通り、非常に多く存在します。ですが、まず基本は「当然(義務)」(〜べきだ/はずだ)だと考え、それではしっくり行かない時に、他の意味を検討するという順番でよいと思います。少なくとも本文を読み進めるという点においては、これで十分です。でも、その前に、まずよく用いられる文法的意味を挙げます。この結論をもとに、以下で例文を見ながら解説をしていきます。

「べし」の文法的意味
 1意志(ーーよう/つもりだ)
 2推量(ーーだろう)
 3適当(勧誘)(ーーたほうがよい)
 4当然(義務)(ーーはずだ/べきだ)
 5命令(ーーせよ/なさい)
 6可能(ーーできる)

では、以下に例文を6種類挙げて、1つずつ説明をしていきます。

(例1)この一矢に定むべし
(例2)風吹きぬべし
(例3)濁れる酒を飲むべくあるらし。
(例4)いふべき事ありて文をやる。
(例5)よく見て参るべきよし
(例6)羽なければ、空をも飛ぶべからず。

(例1)は「この矢一本で決めよう(決めたい)」という自分の意志が強く表れているので、「意志」ととります。(例2)は「ぬべし」の形になっている場合で、多くは「きっと〜だろう」と訳します。この場合は「推量」となります。(例3)は例文だけでは判断しにくいですが、「酒を飲んだ方がよい」となる「適当」です。(例4)は「言わなければならないこと」となるので「当然」または「義務」となります。(例5)は、「よし」(=旨)という意味の言葉ですが、この語の直前は一般的に「命令」になります。「よく見て参りなさいということを」と解釈するわけです。(例6)は前の「羽がないので」から考えて「飛ぶことができない」という「可能」だと考えるのが一般的だということになります。

でも、結局どれも「当然・義務」から派生していっているんだね。

以上のように、文法的意味を解説しましたが、結局(例1)〜(例6)まで、すべて「〜べきだ」または「〜はずだ」のいずれかで訳しても違和感もそれほどありません。そのくらい「べし」の意味は非常に微妙な仕分けであるというわけです。ですので、文法問題として出題される時以外はあまり深く考えすぎない方がよいと私は考えています。文法問題として出題された場合は、仕方なくこの6種類(+α)から、どれがよいかを検討してください。

以上で「べし」説明を終わります。一応「練習問題」には「文法的意味」を確認する問題も載せていますが、基本は「〜べきだ/はずだ」ということを忘れないでください。

練習問題

助動詞「べし」について理解ができたか、実際の問題を通して確認していきましょう。

接続・活用形の問題

問一 次の括弧に、助動詞「べし」を適当に活用させて入れなさい。
(1)恋しかる(   )夜半の月…
(2)聞く(   )けり。
(3)覚えぬよしを啓す(   )ど…。
(4)この海にも劣らざる(   )。
(5)風やむ(   )もあらず。
(6)堂塔をも立つ(   )ず。
(7)通ふ(   )める透垣の戸…。

「べし」は形容詞形の活用だから、( )の後が助動詞かそうでないかも重要だよ!

【解答】問一(1)べき(2)べかり
(3)べけれ(4)べし(5)べく
(6)べから(7)べかる

【解説】助動詞「べし」が形容詞型の活用をするので、直後が助動詞かどうかの確認も必要です。直後が助動詞の場合は補助活用(活用表の左側)になります。
(1)恋しかる(    )夜半の月…… 
直後が「夜半」で体言なので連体形。「べし」の連体形は「べき」    
(2)聞く(    )けり。
直後が助動詞「けり」なので連用形。直後が助動詞なので「べし」は補助活用。その連用形は「べかり」
(3)覚えぬよしを啓す(    )ど……。 
直後が「ど」なので已然形。「べし」の已然形は「べけれ」 
(4)この海にも劣らざる(   )。
直後が「。」なので終止形。「べし」の終止形は「べし」
(5)風やむ(    )もあらず。
これは「べくもあらず」で覚えた方が早いです。これがつづまって「べからず」となります。答えは「べく」       
(6)堂塔をも立つ(    )ず。
直後が助動詞「ず」なので未然形。直後が助動詞なので「べし」は補助活用をします。その未然形は「べから」
(7)通ふ(    )める透垣の戸……。
直後が助動詞「めり」なので終止形といいたいところですが、「べし」は形容詞型の活用です。これは(5)で説明した通り、「べから(ず)」は「べくもあら(ず)」がつづまったものです。つまり、助動詞「べし」の補助活用はラ変型の活用をしているともいえるわけです。「めり」の接続はラ変型の場合、連体形になります。よって、ここは補助活用の連体形を入れる必要があります。 答えは「べかる」

文法的意味の問題

問二 次の傍線部助動詞「べし」の意味を答えなさい。
(1)恐れの中に恐るべかりけるは、ただ地震なりけり。
(2)高綱、この御馬で宇治川の真先渡し候ふべし。
(3)今日は、日暮れぬ。勝負を決すべからず。  
(4)家の作りやうは、夏をむねとすべし。
(5)風波、とみにやむべくもあらず。

「意志・推量・適当・当然・命令・可能」のどれが当たるか、考えてみよう。最も美しく訳せそうなものを選んでね。

【解答】問二(1)当然(義務)
(2)意志(3)可能
(4)適当(当然)(5)推量

【解説】
(1)恐れの中に恐るべかりけるは、ただ地震なりけり。
「恐れなくてはならないものは」と解釈すればよいでしょう。答えは「当然(義務)」
(2)高綱、この御馬で宇治川の真先渡し候ふべし。
「高綱」は人名です。通常古文の世界で人名を何の敬称もなく使うことはありません。そもそも名前ではなく、「中納言殿」などと位で呼ぶことも多いですね。では、どのような時に人名を使うのかと言うと、多くは「自分自身のことを言う」時です。ですから、ここは「私高綱が」と言っているわけです。主語が一人称ですから、この「べし」は「意志」ととればよいでしょう。
(3)今日は、日暮れぬ。勝負を決すべからず。  
前に「日が暮れた」とあるので、「勝負を決められない」と解釈するのが自然です。この「べし」は「可能」でよいでしょう。
(4)家の作りやうは、夏をむねとすべし。
「家の作り方は夏を中心とするべきだ」と解釈すればよいでしょう。なので、答えは「当然(義務)」としたいところですが、一般的には「夏を中心とした方がよい」と解釈するそうです。よって答えは「適当」となりますが、どちらを用いても不自然なところがないので、私はどちらでもよいと思います。そもそも、「べし」の仕分けはそのくらい微妙なものなのです。
(5)風波、とみにやむべくもあらず。
「風や波は、急にはやむはずがない」と解釈するとよいのではないでしょうか。これも「当然(義務)」となってしまいますが、そうするとどれも「当然(義務)」になってしまいますので、他の意味も検討してみます。そうすると「急にはやまないだろう」と解釈することもできそうです。主語が自然物なので、今回は「推量」の意味で採っておこうと思います。

おわりに

今回は助動詞「べし」を学習しました。練習問題の解説でも歯切れの悪い表現が多かったように、「べし」は様々な意味を持ちますが、その違いは非常に微妙なものです。基本は「べきだ/はずだ」ということを忘れないでいると、読解で大きく困ることはありません。「べし」は「すいかとめて」(推量・意志・可能・当然・命令・適当)と教えられることも多いと思いますが、すべての意味を同列にするのは私は賛成できません。意味を知ることは大切ですが、流れも大切です。改めて「べし」を整理した図をお見せしますので、これを見ながら今回はおしまいとしたいと思います。次回は助動詞「まし」です。また変わった意味が出てきますので、一緒に学習していきましょう。

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