助動詞「む」「むず」

助動詞
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はじめに

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生徒
生徒

今回から推量の助動詞ですね。あまりにいっぱいありすぎて分からないですけど。

先生
先生

そうだね、一度に理解するのは難しいから、順番に少しずつ学んでいこう。今回は「む」「むず」だよ。大きく意味を捉えていってね。

はじめに、今回学習することの要点を示します。

助動詞「む」「むず」について

今回から推量の助動詞について学習していきます。推量の助動詞は28語の助動詞のうち、半分近くを占めるので、助動詞の学習の後半はすべて推量の助動詞となります。(実際に、この「スマホで学ぶ古文」でも7項目あります。)また、推量の助動詞は助動詞一つ一つに多くの意味がありますので、混乱しやすい内容でもあります。ですから、語の持つ基本的な意味を理解して、そこから派生する意味を確認していくという流れでそれぞれの意味を理解していきましょう。

助動詞「む」の基本的な考え方

助動詞「む」は「これから先に起こること」を推測する時に対して使われる助動詞です。ですから、基本的には「明日は晴れるだろう」と「推量」の意味を持つ助動詞だということになります。ただ、この助動詞は誰に対して使われるかで意味が変わってきます。例えば、自分のことに対してであれば、「明日からもまじめに勉強しよう」と「意志」の意味を持ちますし、相手のことに対してであれば、「あなたは勉強をした方がよい」と「適当」「勧誘」の意味を持ちます。助動詞「む」は他にも多くの意味を持つ助動詞ですが、まずは「これから先に起こる」というポイントをしっかりつかんでおくことが大事です。その上で、接続や活用などを覚えていくとよいでしょう。

「むず」とはどういうものか、間違えやすいポイント

助動詞「むず」は鎌倉時代以降によく使われるようになった助動詞です。助動詞「む」を強調したもので、「むとす」が語源だと言われています。例えば以下の文を見てください。

(例文1)足の向きたらむ方へ往なむず

「むず」という助動詞があることを知らないと、推量の助動詞「む」に打消の助動詞「ず」がついたものだと勘違いしてしまいます。特に、助動詞「むず」は音便化して「んず」や「うず」になることもあるので、そのときはより見間違えやすくなります。

接続・活用表・意味

まず、例文を使って「む」という助動詞を理解していきます。

(例文2)人より先に聞か

助動詞「む」(「むず」)は「これから先に起こること」を推測して使う助動詞でした。この例文は、現代語訳すると「人より先に聞こう」とするのが一般的だと思いますが、ここでは「自分(私)が」という主語を前提としています。一方、主語を「あの子は」と変えてみたらどうでしょうか。「人より先に聞くだろう」という解釈になります。さらに、主語を「あなたは」に変えてみると、「人より先に聞いた方がよい/人より先に聞きましょう」となります。つまり、助動詞「む」(「むず」)は対象によって様々な解釈を可能にする助動詞なのです。では、文法的意味は後で整理することにして、まずは接続と活用を先に片付けてしまいます。

接続・活用表

(例文2)を改めて確認すると、助動詞「む」の直前の動詞「聞か」は、カ行四段活用の未然形です。ですから、助動詞「む」の接続は未然形です。「ア段」に接続するものは未然形接続だと覚えておきましょう。また、助動詞「むず」は「むとす」がつづまったものだと考えると、直前は変わりませんから、同じく「むず」も未然形接続です。

「む」「むず」の接続=未然形

次に活用です。助動詞「む」はマ行四段活用動詞と同じ活用をします。また、助動詞「むず」は「むとす」の「す」に注目すると、サ行変格活用動詞と同じ活用をすることがわかります。よって、「む」は四段型の活用、「むず」はサ変型の活用をする助動詞となります。また、「む」は音便化しやすい言葉で、「ん」や「う」になることもあります。現代語でも、もともとは「書か」だったものが「書こ」になっていますよね。この「う」は助動詞「む」の名残です。「ん」や「う」については、後で問題を解いてみて確認してください。

「む」の活用=四段型
「むず」の活用=サ変型
※ただし、音便(「ん」「う」)に注意

文法的意味

結論を先に挙げます。その理由を以下で解説します。

「む」「むず」の文法的意味(4,5は主に「む」)
 1意志(ーーよう/つもりだ/たい)
 2推量(ーーだろう)
 3適当・勧誘(ーーたほうがよい/ようよ/ませんか)
 4仮定(もしーーば)
 5婉曲(ーーのような/訳さない

文法的意味を説明していきます。先ほども述べましたが、助動詞「む」「むず」は「これから先に起こること」という不確定なものを推測するものなので、「推量」の助動詞と言われます。文章の中でも、文末に使われるものとして、最も多いのがこの「推量」です。次に多いのが、主語を一人称(「私」「自分」)にしたものです。これは「不確定な未来のことだけれど、自分はそのことをやってみようと思う」という意志が含まれます。このような「〜しよう」という意味を持つ時、文法的意味を「意志」といいます。また、主語を二人称(「あなた」「お前」)にすると「あなたはそのことをした方がよい」や「してみませんか」などという意味を持ちます。前者を「適当」、後者を「勧誘」といいます。また、助動詞「む」は、文中でも用いられることが多いです(「むず」の用例は多くありません)。不確定なことを表すので、文中で用いられると結果的にはその動作をぼかした表現になります。これを「婉曲」といい、その時「〜ような」と訳したり、全く訳さずに読み進めたりします。最後に、主に「むに」「むは」などの形で文をつなげていくときには、不確定なことだと仮定して話を進めていくことになります。これは「仮定」と呼び、「もし〜ならば」と訳しておきます。以上をまとめると、下の板書(順番は異なっています)のようになります。

意味の見分け方

先ほどの「文法的意味」の項目で、助動詞「む」「むず」に出てくる多くの意味は、それぞれどのように発生してきたのかを説明しました。ということは、それらの内容が分かっていれば、意味の見分けはできるということです。では、具体的に意味の見分けをやっていきましょう。まず、「む」「むず」が「文末」で用いられているのか、「文中」で用いられているのかを考えます

①「文末」で用いられているとき
主語で考えてみます。主語が一人称(私、自分)ならば原則「意志」、二人称ならば原則「適当・勧誘」です。それ以外は「推量」と考えます。あとは、迷ったら推量にしておくと読み進めていくことはできます。ただし、「適当・勧誘」というのは表現は柔らかいですが、ほとんど命令に近いものです。ということは、相手に強く要求していることと同じです。ですので、強調の言葉が一緒に用いられることが多いです。具体的には「こそーーめ/こそーーむずれ/ーーなむ/ーーてむ」などです。

②「文中」で用いられているとき
文中の「む」は原則として「婉曲」で考えるとよいです。「むに」「むは」などの形になっている時は、「もし〜ば」と訳してみてうまくいくときは「仮定」、そうでないときは「婉曲」で訳すとよいでしょう。ただ、正直なところ、文章の読解では「婉曲」で訳したらうまくいってしまうことが多いです。

文末なら「主語の人称」で考える、文中なら原則「婉曲」これでバッチリ!

この見分け方をもとに、助動詞「む」の文法的意味をまとめて覚えるために、語呂合わせとして「むかえてすいか」というのをお知らせしておきます。『「」は(文中では)「(仮定)(婉曲)」(文末では)「(適当)(推量)(意志)(勧誘)」』とまとめて覚えられるのですが、いかがでしょう?頭に「む」がついているので、他の助動詞(「べし」)と間違えないようにもなります。

「む・かえ・てすいか」なんだね。「かえ」は文中・「てすいか」は文末か。「すいかかえて」って覚えるより間違えにくいかも!

以上が助動詞「む」「むず」の説明になります。何度も言いますが、助動詞「む」「むず」は、「これから先に起こること」を推測して使う助動詞ですから、「推量」の意味が最初にあって、あとは場面に応じて意味を使い分けていくことが必要です。意味の仕分けは次の練習問題で確認していきましょう。

練習問題

助動詞「む」「むず」について理解ができたか、実際の問題を通して確認していきましょう。

文の中から「む」「むず」を見つけ出す問題

問一 各文中の、助動詞「む」「むず」を抜き出し、その活用形を書きなさい。
(1)なぞの犬の、かく久しう鳴くにかあらむ。  
(2)いづちもいづちも、足の向きたらむ方へ往なむず。
(3)命ながくとこそ、思ひ念ぜめ。
(4)ただいま、客人の来うずるぞ。
(5)わ殿ばらは、重忠がやうなるものにこそ助けられんずれ。

「むず」を打消の助動詞「ず」と見間違えないようにしないとね!あと、音便にも注意しよう!

【解答】問一(1)「む」連体形
(2)「む」連体形・「むず」終止形
(3)「め」已然形
(4)「うずる」連体形
(5)「んずれ」已然形

【解説】
「む」「むず」を見つけ出すには、まず直前の活用語が未然形になっていることと、音便に注意することの2点です。

(1)なぞの犬の、かく久しう鳴くにかあらむ。
「あらむ」の「む」です。文末なので終止形といいたいところですが、係り結びの法則を確認する必要があります。「鳴くにかあらむ」の「か」は疑問を表す係助詞で、係り結びを作ります。よって、「む」は連体形になります。
(2)いづちもいづちも、足の向きたらむ方へ往なむず。
2つあります。1つは「向きたらむ」の「む」です。「む」の後ろが名詞の「方」なので連体形です。もう1つは「往なむず」の「むず」です。これは文末で終止形です。
(3)命ながくとこそ、思ひ念ぜめ。
「思ひ念ぜめ」の「め」です。形から已然形だと分かりますが、文末なので係り結びの法則になっているのだろうと想像して前に戻ります。「こそ」があるので間違いなく「め」は已然形です。
(4)ただいま、客人の来うずるぞ。
「来うずるぞ」の「うずる」です。「むず」がウ音便化したものです。「むずる」は連体形です。文末ですが、連体形にして意味を強調しているようです。
(5)わ殿ばらは、重忠がやうなるものにこそ助けられんずれ。
「助けられんずれ」の「んずれ」です。「むず」が撥音便化したものです。途中に「こそ」があるので、係り結びの法則で已然形となっています。

文法的意味を確認する問題

問二 青太字の助動詞の文法的意味・活用形を書きなさい。
(1)をとこは、この女をこそ得、と思ふ。
(2)とくこそ、試みさせ給は
(3)いかやうなる心ざしあら人にか、あはと思す。 
(4)ただ、都の外へぞ、出だされんず

(1)(3)は自分で『 』を補ってみよう!

【解答】問二 A意志・已然形 
B適当(勧誘)・已然形 C婉曲・連体形
D意志・終止形 E推量・終止形

【解説】
(1)をとこは、この女をこそ得、と思ふ。
A:『この女をこそ得め』と『 』をつけてみてください。そうすると『 』は男自身の思いだと分かります。男が自分を主語として思いを言っているわけですから、この「む」は意志です。また、「こそ」の結びで已然形になっています。実際に訳してみると、「男は、この女を手に入れよう(手に入れたい)と思う」と意味も通じます。
(2)とくこそ、試みさせ給は
B:「とくこそ」が「早く」という意味です。「こそ」を使って「早く」を強調しています。ここから、相手に早く行動することを急かしている感じが読み取れます。ですので、この「め」は適当(勧誘)です。また、「こそ」の結びで已然形になっています。実際に訳してみると、「早く、お試しになったほうがよいです。」となり、意味も通じます。
(3)いかやうなる心ざしあら人にか、あはと思す。
C:直後が「人」と名詞になっているので婉曲です。もちろん連体形です。
D:『あはむ』と『 』をつけてみてください。内容としても「会ってみたい」というような意味なので、「(ぜひ)会おう」と意志になります。「あはむ」で一つの内容なので、「む」は終止形です。
訳すと、「どのような志があるような人であろうか、会おうとお思いになる」となります。
(4)ただ、都の外へぞ、出だされんず
E:前後がないから詳しい内容は分かりませんが、常識的に考えて「都の外に出されたい」と思う人は通常いませんから、ここは何か失態を犯して「都の外に出されてしまうだろう」というような意味だと考えるのが素直な解釈だと思います。よって、この「んず」は推量です。文末なので終止形です。

おわりに

今回は推量の助動詞「む」「むず」を学習しました。推量の助動詞に入って、文法的意味の多さに圧倒されますが、大きな意味を押さえていれば、細かい意味も次第に分かっていきますので、焦らず一つ一つ丁寧に理解を進めていってください。次回は助動詞「らむ」「けむ」です。「む」の親戚みたいなものなので、今回の内容が分かっていれば次回はかなり早く理解できると思います。それではまた、次回お会いしましょう!

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