助動詞「す」「さす」「しむ」

文法 助動詞1

はじめに

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上記の項目を約10分で説明しています。以下の動画をご覧ください。動画はライブ感を重視したものになっています。

助動詞「す」「さす」「しむ」について

これから学んでいく助動詞「す」「さす」「しむ」は、現代語でいうと「せる」「させる」です。「誰かを使って(指示、命令して)何かをさせる」という意味を持ちます。これを使役しえきといいます。今回はその「使役」の意味を持つ助動詞について説明していきます。

接続、活用表、意味

まず、例文を使って「す」という助動詞を理解していきます。

(例文)(かぐや姫を)おうなに預けて養は

現代語に改めると、「かぐや姫を妻のおばあさんに預けて、姫を養わせる」となります。この「〜(さ)せる」というのを、文法的には「使役」といいます。

「す」についている動詞を確認すると、「養は」とハ行四段活用の未然形になっていますので、接続は未然形であることが分かります。

これらをもとに、助動詞「す」「さす」「しむ」を整理していきます。

先程の例文からも分かった通り、「す」(「さす」「しむ」)の接続は未然形です。では、「す」「さす」「しむ」の使い分けを考えます。まず、「す」と「さす」の違いですが、これは「る」「らる」と考え方は同じです。直前が「ア段」であるものは「す」、それ以外は「さす」、文法的に説明すると、「す」は「四段活用・ナ行変格活用・ラ行変格活用」の未然形に接続し、「さす」はそれ以外の未然形に接続します。また、「しむ」はそのような違いはなく、すべての動詞の未然形に接続しますが、漢文訓読調の文章(漢文の書き下し文のような文章)でしか表れませんので、読解ではあまり見ることがありません。

「す」「さす」「しむ」の接続
 「す」は「未然形がア段(四段活用・ナ行変格活用・ラ行変格活用)」の未然形に接続する
 「さす」は「未然形がイ段・エ段・オ段」の未然形に接続する
 「しむ」はすべての未然形に接続する

次に、活用です。これも「る」「らる」と同じで、動詞の下二段活用と同じ活用をする下二段型の助動詞です。

「す」「さす」「しむ」の活用=下二段型

「す」「さす」「しむ」は使役の助動詞ですが、直後に「給ふ」などの尊敬の補助動詞が来ると、尊敬の意味を持つことが多くなります。高貴な人が自分で行動したり、身分の低い者と話したりすることはほとんど無く、常にお付の者を通して行いますが、それを高貴な人自身の行動として表現するからです。このような、「尊敬の助動詞+尊敬の補助動詞(〜(さ)せ給ふ)」の形を最高敬語と言います。これは、敬語の項目で詳しくお話します。

「す」「さす」の文法的意味
 「使役」(ーー(さ)せる)
 「尊敬」(おーーになる/ーーなさる)

「使役」、「尊敬」の使い分けの目安

「す」「さす」「しむ」は使役の助動詞です。ですので、ほとんとが「使役」になるのですが、先程も述べました通り、直後に「給ふ」や「おはす」などの尊敬の補助動詞があると、「尊敬」になることが多いです。ですので、「使役」か「尊敬」を見分ける際は、下に「給ふ」や「おはす」などがあるかを考えればよいわけです。あった場合はほぼ尊敬です。ただし、これは必ず「尊敬」というわけではなく、内容的に「使役」で考えざるを得ない場合もありますので、注意しましょう。

「せ」+給ふ「させ」+給ふ「しめ」+給ふは、ほぼ「尊敬」

このように理解しておいて、例外のときはその時に考えるというスタンスでいいと思います。

練習問題

助動詞「す」「さす」「しむ」について理解ができたか、実際の問題を通して確認していきましょう。

接続・活用の問題

問一 次の括弧に、下に示した助動詞を、適当に活用させて入れなさい。 
(例)降り( させ )て…←〔さす〕
(1)伝へ(  )ど…←〔さす〕  
(2)食は(  )事なし。 ←〔す〕
(3)受け(  )むと… ←〔さす〕  
(4)笑は(  )給ふ。←〔す〕
(5)習は(  )む。←〔しむ〕  
(6)我に得(  )!←〔しむ〕

【解答】問一(1)さすれ(2)する(3)させ(4)せ(5)しめ(6)しめよ

【解説】
今回の問題は「す」「さす」「しむ」のどれを入れるかが指定されているので、活用形が分かれば解答することができます。活用形は直後の語を見て判断します。
(1)伝へ(   )ど・・・。←〔さす〕 
 直後が「ど」なので已然形。「さす」の已然形は「さすれ」
(2)食は(   )事なし。 ←〔す〕
 直後が「事」(体言)なので連体形。「す」の連体形は「する」
(3)受け(   )むと・・・ ←〔さす〕
 直後が「む」なので未然形。「さす」の未然形は「させ」
(4)笑は(   )給ふ。←〔す〕
 直後が「給ふ」(用言)なので連用形。「す」の連用形は「せ」
(5)習は(   )む。←〔しむ〕
 直後が「む」なので未然形。「しむ」の未然形は「しめ」
(6)我に得(   )!←〔しむ〕
 直後が「!」なので命令形。「しむ」の命令形は「しめよ」

接続・活用表・意味の問題

問二 次の文中の括弧の中に助動詞「す」または「さす」を活用させて入れ、さらにその意味を書きなさい。
(1)月の都の人まうで来ば、捕らへ(  )む。
(2)いと、こまやかに、ありさまを問は(  )給ふ。
(3)大井の土民におほせて、水車を造ら(  )られけり。

【解答】問二(1)させ・使役(2)せ・尊敬(3)せ・使役

【解説】
今回は、「す」または「さす」のどちらが入るかも考える必要があります。( )の直前を見て、ア段ならば「す」それ以外なら「さす」と判断すればよいでしょう。
(1)月の都の人まうで来ば、捕らへ(  )む。
直前は「へ(エ段)」ですので「さす」です。直後が「む」なので未然形になります。「さす」の未然形は「させ」です。意味は原則通り「使役」と考えて訳してみると、「捕まえさせよう」と意味も通じます。
(2)いと、こまやかに、ありさまを問は(  )給ふ。
直前は「は(ア段)」ですので「す」です。直後が「給ふ」なので連用形になります。「す」の連用形は「せ」です。直後に「給ふ」があるので、まずは「尊敬」と考えます。訳してみると、「ありさまを尋ねなさる」で通じるので、「せ」は「尊敬」でよいでしょう。
(3)大井の土民におほせて、水車を造ら(  )られけり。
直前は「ら(ア段)」ですので「す」です。直後が「られ(らる)」なので未然形になります。「す」の未然形は「せ」です。文法的意味は難しいです。まず「られ」の意味を確認する必要があるからです。前にある「大井の土民に仰せて」は、「大井の土地の者にご命令になって」という意味なので、この文の主語は「貴人」であることが分かります。そうすると、「造らせられけり」の「られ」は「尊敬」の可能性が高くなります。「せ」の直後に「尊敬」があるので、「せ」も尊敬である可能性を探る必要があります。しかし、内容から考えて「水車を造らせ(なさっ)た」と考える方が自然ですので、結果としては、この「せ」は使役となります。

おわりに

以上で、「す」「さす」「しむ」は終わりです。この助動詞は原則「使役」で、後に尊敬語を伴う時に「尊敬」かどうかを検討するというものなので、「る」「らる」よりは分かりやすいと思います。次回からは、過去・完了の助動詞です。現代語ではすべて「〜た」になってしまったものが、古文では6つもあります。一つずつ整理していきたいと思います。次回も頑張りましょう。

これまでの内容を動画で確認したい方は以下をご覧ください。

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