助動詞「る」「らる」

文法 助動詞1

はじめに

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上記の項目を約10分で説明しています。以下の動画をご覧ください。動画はライブ感を重視したものになっています。

助動詞「る」「らる」について

助動詞「る」「らる」は、助動詞を学ぶ際にも割と早めに出てきます。その理由は「現代語に近い」からです。現代語の「れる」「られる」が分かっていたらスムーズに理解できます。まずは、現代語の「れる」「られる」を整理して、そこから古文文法の「る」「らる」を詳しく見ていきましょう。

現代語との共通点と相違点

まず、現代語の「れる」「られる」を理解するために、以下の例文を見てください。

・「友達に笑われる」は「友達」という対象に「笑う」という行為を「される」と理解すればようでしょう。つまり「誰かに〜される」ということです。自分の意志ではなく他者から何かを受けるという意味でこれを「受身」といいます。文法用語では送り仮名は表記せず「受身」と書きます。

・「先生が話される」は主語である「先生」が目上の人なので、その先生を敬うものとして「れる」が使われています。これを文法用語で「尊敬」と読んでいます。ついでにいうと、我々は目上の者は敬うのが習慣となっていますので、自分の意志というよりは、自然とそのようなことを行っています

・「子供のことが案じられる」は「子供のことを思わず心配してしまう」という意味で、自分の意志ではなく自然とその気持ちが出てしまうことを表します。これを文法用語で「自発」といいます。

・「忙しくて行かれない」は「忙しいので行くことができない」と、「ない」を含めて「不可能」の意味を表しています。「ない」を除くと、「れ」は「可能」の意味を持っていると言えます。よって、これを「可能」と表現します。実は、これも「忙しい」という環境によって、自分の意志ではなく「行く」という行為ができないということを表しています。

つまり、「れる」「られる」に4つも意味がありますが、もともとはすべて「自分の意志ではなく〜である」ということが派生したものなのです。これは覚える必要もないことですが、多くの意味を持つ助動詞は、「もとの大きな意味」を知っておくと、読解で大きく外さなくなるので、一応ここに書いておきました。

以上から、「れる」「られる」には、「受身」「尊敬」「自発」「可能」の4つの意味を持っているということがわかればよいでしょう。

実は、古文文法の「る」「らる」もほぼ同じで、「れる」「られる」が下一段活用をするのに対し、「る」「らる」が下二段活用をするという違いがある他は、原則同じものとして理解しておいて構いません。

接続・活用表・意味

次に、古文の例文を4つ見ていきましょう。

  1. ありがたきもの、舅にほめらるる婿。(めったにないもの、舅に褒められる婿)
  2. 上人、馬をひき返して逃げられけり。(上人は、馬を引き返してお逃げになった)
  3. 人知れずうち泣かぬ。(人知れず(思わず)泣いてしまった)
  4. 変はりゆくありさま目もあてられず。(変わりゆく様子は目も当てることができない)

1〜4の例文は現代語の「れる」「られる」の説明でも行った通り、4つの意味があることに従うならば、1が「受身」、2が「尊敬」、3が「自発」、4が「可能」になると考えられます。

「る」「らる」の文法的意味
 「受身」(ーー(さ)れる)
 「尊敬」(おーーになる/ーーなさる)
 「自発」(自然と(思わず)ーーする)
 「可能」(ーーできる)

次に、「接続」を考えます。接続とは「直前の活用語が何形になるか」を考えればよかったですね。例文を見ると、1,2,4は助動詞「らる」が活用したもの、3が助動詞「る」の活用したものになっています。後で説明しますが、接続は「る」で考えたほうが分かりやすいので、3を中心に見ていきます。

「泣かれぬ」の「泣か」はカ行四段活用の動詞で、未然形になっています。つまり、「る」未然形に接続することが分かります。同じ意味を表す「らる」も同じように未然形接続です。では、両者の違いは何なのでしょうか。

実は、「る」は四段活用・ナ行変格活用・ラ行変格活用にしか接続しません。この3つに共通する点は分かりますか。
答えは、未然形が「ア段」であるということです。つまり、「る」は直前が「ア段」のものしか接続しないのです。未然形が「ア段」ではない他の活用が来た時は、直前を無理やり「ア段」にするため、「る」の手前に「ら」をつける、つまり「らる」にするということになります。

まとめると、以下の通りです。

「る」「らる」の接続
 「る」は四段活用・ナ行変格活用・ラ行変格活用(未然形がア段)の未然形に接続する
 「らる」は上記以外(未然形がイ段・エ段・オ段)の未然形に接続する

活用表を見ていきます。助動詞の活用を学ぶ時には、用言の活用がとても役に立ちます。それは、多くの助動詞が用言と同じ活用をするからです。ですので、用言の知識がまだ不十分だと思われる人はぜひ用言をもう一度学習してみてください。こちらから詳しく学ぶことができます。

「る」「らる」の活用形は動詞の下二段活用と同じです。これを「下二段型の助動詞」といいますので、こちらも理解しておいてください。

「る」「らる」の活用=下二段型

意味の見分け方の目安

助動詞「る」「らる」は割と初期に学びますが、意味の判別は難しいです。文章の前後を読んで、ここで使われている意味を推測していかなけらばならないからです。つまり、読む力がつかないと意味の識別はままならないというわけです。とはいえ、多少なりとも識別する目安というものはありますので、ここから説明していきます。繰り返しますが、これで100%識別できるというものではないことに注意していください。

まず、「受身」の可能性を探る際は、受身の対象があるか、つまり「誰かに」があるかを考えます。もちろん省略されている場合もありますので、その際は自分で補います。

「尊敬」は、「受身」「自発」「可能」の可能性を考えた後に行います。

「自発」は、以下の動詞を伴っている場合が多いです。つまり、以下の動詞に「る」(「らる」)がついていたら、可能の可能性が高いということです。

「思ふ」「泣く」「嘆く」「待つ」+「る」(らる)は「自発」になりやすい

4つの動詞が特に多いので挙げましたが、つまり感情を表す動詞に「る」(らる)がつくと自発になりやすいということです。

「可能」は原則として下に打ち消し語(「ず」など)を伴います。ということは、「〜ことができない」でしか「る」「らる」の「可能」は使用されないということです。ただ、平安時代の古典文法ではそれで十分見分けられるのですが、鎌倉時代以降はだんだんとそのルールもうやむやになってきます。

最後に、「尊敬」です。尊敬は、原則として主語が「貴人」(身分の高い者)かを考えます。会話文のときはそうでないこともあります。さらに、尊敬の動詞とともに使用されて、二重尊敬を作ることもよくあります。これで出てくるのは圧倒的に「仰せらる」が多いです。あと、補足事項ですが、「〜(ら)れ給ふ」など、「る」「らる」に尊敬語を伴うとき、「る」「らる」は尊敬にはなりません

以上が見分け方の目安です。繰り返しますが、この目安はあくまで原則論としてとらえ、実際は文章の中で意味を判断してください。以上をまとめたものが、次の板書です。

「る」「らる」の説明は以上です、次にどれだけ分かったか、簡単な問題をやってみましょう。

練習問題

助動詞「る」「らる」について理解ができたか、実際の問題を通して確認していきましょう。

接続・活用の問題

問一 次の括弧に、後に示した助動詞を、適当に活用させていれなさい。
(例)人に思は( れ )むほど〔る〕
(1)狐に食は( )。〔る〕
(2)涙もとどめ( )ず。〔らる〕
(3)心劣りせ( )ことあり〔らる〕 
(4)あまたたび遣らは( )ど〔る〕
(5)つゆまどろま( )ず。〔る〕
(6)涼しからむ所求め( )!〔らる〕

【解答】(1)る(2)られ(3)らるる(4)るれ(5)れ(6)られよ

【解説】
今回の問題は「る」「らる」のどちらを入れるかは指定されているので、活用形が分かれば解答することができます。活用形は直後の語を見て判断します。
(1)狐に食は(  )。〔る〕
 直後が「。」なので終止形。「る」の終止形は「る」
(2)涙もとどめ(  )ず。〔らる〕
 直後が「ず」なので未然形。「らる」の未然形は「られ」
(3)心劣りせ(  )ことあり。〔らる〕 
 直後が「こと」で体言なので連体形。「らる」の連体形は「らるる」
(4)あまたたび遣らは(  )ど〔る〕
 直後が「ど」なので終止形。「る」の已然形は「るれ」
(5)つゆまどろま(  )ず。〔る〕
 直後が「ず」なので未然形。「る」の未然形は「れ」
(6)涼しからむ所求め(  )!〔らる〕
 直後が「!」なので命令形。「らる」の命令形は「られよ」

意味の問題

「る」「らる」の意味の識別は、基本的に文を読んで判断するしかありません。ですが、「意味を識別する目安」はあるので、それも考えならが検討していくとよいでしょう。

問二 青太字の助動詞「る」「らる」の文法的意味を答えなさい。
1)ありがたきもの、舅にほめらるる婿。
2)今加へたる家司に、おほせらる
3)人知れずうち泣かぬ。
4)抜かんとするに、おほかた抜かず。
5)家居にこそことざまは推し量らるれ
6)恐ろしく覚えければ、我にもあらでつい居られぬ。

(5)「らるれ」に傍線がありますが「るれ」が正しいです

【解答】問二(1)受身(2)尊敬(3)自発(4)可能(5)自発(可能)(6)自発

【解説】
1)ありがたきもの、舅にほめらるる婿。
 文の内容から、「誰かに◯◯される」という意味で通じそうです。「舅にほめられる」で問題ないので、答えは「受身」になります。
2)今加へたる家司に、おほせらる
 「おほせらる」は「おほす」(「言ふ」の尊敬語)+「らる」(尊敬)の二重尊敬を表すことがほとんどです。読解では、天皇や中宮など最高レベルの高貴な人が主語であることを確認するとよいですね。今回は主語がありませんが、「おっしゃった」で意味が問題なく通じるので、答えは「尊敬」となります。
3)人知れずうち泣かぬ。
 「思ふ・泣く・嘆く・待つ」の直後に来る「る(らる)」は自発になることが多いです。文の内容からも「思わず泣いてしまった」で通じそうです。また、「泣かれぬ」の「ぬ」は打消の「ず」ではなく完了の「ぬ」です。「ぬ」が終止形であることが根拠になります。よって、答えは「自発」です。
4)抜かんとするに、おほかた抜かず。
 「る・らる」の直後に打消表現があれば、まず「可能」を疑います。文の内容からも「抜こうとしたが全く抜けない」と意味が通じます。よって、答えは「可能」です。
5)家居にこそことざまは推し量らるれ
 「推し量らるれ」は、係り結びの法則によって文末が已然形になっています。なので「推し量らる」がもとの形です。「推し量る」は「思う」とよく似た意味の言葉なので、まず自発でいけるかどうかを検討します。「思わず推し量ってしまう」と意味が通じるので、答えは自発でよいと思います。ただ、多くの教科書や問題集では、解答は「可能」になっているはずです。「家の様子を見ると、様々なことが推測できる」と言うほうが自然だということでしょう。でも、待ってください。「可能」のときは原則下に打消が来るのではなかったでしょうか。実は、この文は『徒然草』の一節です。『徒然草』は鎌倉時代末期の作品なので、平安古典文法は現代文法に近づいていっているのです。つまり、現代語と同じように、「可能は下に原則打消が来る」ではなくなっているというわけです。説明が長くなりましたが、私はこの解答を「自発」(可能)としたいと思います。
6)恐ろしく覚えければ、我にもあらでつい居られぬ。
 「つい居られぬ」の「ぬ」に注目しましょう。文末の「ぬ」が終止形であることに気づけば、この「ぬ」は完了です。「つい」は「思わず」などと言いかえれば、「我を忘れて思わず座ってしまった」という訳が適切でしょう。ここで訳の中には出ていませんが「思わず」が「自然と」や「せずにはいられない」などという意味を含むのでこの「られ」は「自発」です。

おわりに

以上で助動詞「る」「らる」は終わりです。結局のところ「受身・尊敬・自発・可能」は文章の中で判断しなければならないので、はじめの方に学ぶ割には最後まで手こずる助動詞になります。基本を押さえたら、あとは文章の中で一つ一つ理解していくようにしていきましょう。次回は「す」「さす」「しむ」です。

これまでの内容を動画で確認したい方は以下をご覧ください。

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