「和泉式部、保昌が妻にて」(大江山)『十訓抄』解説・テスト対策 第2回

説話
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はじめに

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生徒
生徒

先生、前回で和歌の内容は分かりましたが、この和歌は何がすごいんですか?

そうだね。この和歌がどう素晴らしいのか、それを説明していくよ。

前回の復習

前回の内容を板書で確認してください。第1回の詳しい説明は以下をご覧ください。

「和泉式部、保昌が妻にて」(大江山)予習・解説編 第2回

今回は「大江山」の第2回です。前回の内容を思い出しながら進んでください。
することは「本文を読む」「人物の確認」「お話の理解」の3つです。その後、理解しにくい箇所の解説に進みましょう。

本文を読む

 前回の範囲の内容をしっかり思い出しながら、本文をじっくり読んでみましょう。

前回は「大江山」の和歌まで読んだね。

 和泉いづみしきやすまさにてたんくだりけるほどに、きやううたあはせありけるに、しきぶのないうたみにとられてみけるを、さだよりのちゆうごんたはぶれて、しきぶのないありけるに、「たんつかはしけるひとまゐりたりや。いかにこころもとなくおぼすらむ。」とひて、つぼねまへぎられけるを、よりなからばかりでて、わづかに直衣なほしそでをひかへて、
  おほやまいくののみちとほければまだふみもあまはしだて
みかけけり。
ーーーー(ここから第2回)ーーーー
おもはずに、あさましくて、「こはいかに。かかるやうやはある。」とばかりひて、へんにもおよばず、そではなちて、げられけり。しき、これよりうたみのにおぼえにけり。
 これはうちまかせてのうんのことなれども、かのきやうこころには、これほどのうた、ただいまだすべしとはられざりけるにや。

登場人物の確認(再度)

和泉式部  (藤原)保昌  
小式部内侍  定頼中納言

(藤原)保昌は最初に名前が出るだけであとは全く出てきません。和泉式部も都から遠く離れた丹後地方にいるので、直接的には出てきません。話の中心は小式部内侍と定頼中納言のやり取りになります。

今回は完全に「小式部内侍」と「定頼中納言」の2人だけだね。

お話を簡単に理解

第一段落
・和泉式部は藤原保昌の妻で、今は丹後に下っている
・その時、都で「歌合うたあはせ」が開かれるが、和泉式部の娘の小式部内侍が歌よみに選ばれる
・定頼中納言が、小式部内侍の局の前を通るときに「母の手紙はまだか」と言う
・小式部内侍は、定頼中納言の袖を引っ張りながら歌を詠む
ーーーー(ここから第二回)ーーーー
・定頼中納言は歌の内容に驚き、返歌もせずに逃げていく
第二段落
・このエピソードにより、小式部は歌よみの世界で評判になる
第三段落
・作者の感想 定頼中納言は、小式部の実力を知らなかったのであろうか

理解しにくい箇所の解説

 以下の4箇所が分かれば、後半部の文章はおおよそが理解できるでしょう。

  • (おも)はずに、あさましくて
  • かかるやうやはある
  • おぼえ()()にけり
  • 最終段落(第三段落)について

④までのあらすじです。
袖を引っ張られて、和歌を詠まれた定頼中納言は次のようになります。

④思はずに、あさましくて

→(訳)(定頼中納言は)思いがけずに、驚きあきれて

「思はず(に)」は「思いがけず(に)」と訳すとうまくいくことが多いです。
「あさまし」は重要古文単語で「(意外なことに)驚きあきれる」でしたね。詳しくは「絵仏師良秀」第1回の③をご覧ください。

定頼中納言が「思いがけず驚きあきれた」のはなぜでしょう?

小式部内侍がすばらしい和歌を詠んだから!

正解!でも、どのような点がすばらしいのかまで答えたいね。


より深めていきましょう。どのような点がすばらしいのでしょうか、3点に分けて答えてみてください。

掛詞をいっぱい使っているからかな?他には・・・。
思いつかないなあ。

答えのポイントは板書を見てください。

ポイントは、1️⃣即興性、2️⃣技巧性、3️⃣内容の3点です。
それぞれのどのような点が優れているのかは、板書のとおりですが、1️⃣の「即興性」というのも、とても大事な要素であることを知っておいてください。お題が出されてから、何日も経ってから詠むのと、すぐに詠むのとでは同じ内容ならどちらが優れているか、言うまでもありませんね。
というわけで、定頼の嫌味に対して、小式部内侍はすぐにすばらしい和歌で返したわけです。これだけの歌を自分で詠めるなら、やはり「歌詠み」に選ばれたのも納得です。ちなみに、この歌は百人一首にも選ばれていますので、馴染がある人も多いのではないでしょうか。

⑤かかるやうやはある

→(訳)このようなことがあるか、いや、あっていいはずがない。

「かかる」は、もともと「かく」+「ある」ですが、下の名詞にかかる連体詞としての働きをしています。「かく」は「このように」を表す指示副詞ですので、これは「このような」と訳せばよいことになります。「やう」は「様」なので、「さま/こと」でよいですね。まとめると「このようなこと」ですが、これは先程の「小式部内侍が、(自力で)すばらしい和歌を詠んだこと」を指すのでしょう。

次に「やは」です。これは疑問、反語を表す係助詞である「や」に同じく係助詞の「は」が付いたものですが、意味は「や」と変わらず多くが疑問、反語となります。しかし、「や」は疑問か反語の可能性がほぼ半々であるのに対し、「やは」になるとそのほとんどが「反語」になることは知っておいたほうがよいでしょう。ここでも反語(〜か、いや〜ない)になります

こういって、定頼中納言は返歌をすることもなく、逃げ去ってしまいます。当時は歌を送られたら歌で返すというのは常識だったようですが、小式部内侍の歌があまりに上手すぎて、返歌できなかったのでしょうね。定頼中納言はとんだ恥をかいてしまいました。

やはり小式部内侍の実力は本物だったんだね。その後、歌詠みの世界で小式部内侍の評判は瞬く間に広がります。

⑥おぼえ出で来にけり

→(訳)(小式部内侍は歌の)評判が出てきた

「おぼえ」は動詞の「おぼゆ」が名詞化されたものです。ここで、二語とも覚えてしましましょう。

おぼゆ(動詞)おぼえ(名詞)

「おぼゆ」(動詞・ヤ下二)←「ゆ」は自発・受身を表す
 1思われる/思い出される  
 2わかる  3似る

「おぼえ」(名詞)(世間に)覚えられること/評判、名声

「出で来にけり」の「に」は完了の助動詞「ぬ」の連用形、「けり」は過去の助動詞「けり」の終止形です。訳は2つ合わせて「〜た」で問題ありません。

このエピソードが広まり、小式部内侍は歌詠みの世界で評判になったということです。

⑦最終段落(第三段落)について

この文章は「十訓抄」の一節です。「十訓抄」は文字通り「十種類の教訓を伝えたお話」で、そもそもが子ども向けに書かれた文章です。子ども向けの教訓話なので、比較的読みやすいということで入試問題にもよく出題されています。教訓話である以上、最後に教訓めいた話が出てくることが多いです。そして、これは「十訓抄」に限らずですが、説話(集)や随筆(特に「徒然草」)などは、あるお話(エピソード)があって、それに基づく作者の感想や主張が書かれるという構成が非常に多く見られます。ですので、このような出典のときは、最後を見逃すことがないようにしてください。

「説話の最後は教訓や作者の意見が書かれる」これは覚えておこう!

この文章は「人を馬鹿にしてはならない」という教訓が書かれている話の一つなのですが、最後の段落では「このようなことはごく普通のことであるが、定頼中納言は小式部内侍が(すぐに)このようなすばらしい歌を詠むとは分からなかったのであろうか」と締めくくっています。定頼中納言は小式部内侍を馬鹿にした結果、とんだ恥をかいてしまったという話であったことから、作者が言いたいのはまさに「人を馬鹿にしてはならない」ということになりますね。定頼がどのような意図で小式部内侍をからかったのかについては諸説あるのですが、今回みたいな話に仕上げると、教訓話としてはもってこいのネタになりますね。

以上が、「大江山」の解説になります。次はテスト対策です。

テスト対策 第2回

「大江山」の第1回のテスト対策は以下をご覧ください。

本文の確認

テスト直前でもすべきことの基本は、「本文を読むこと」です。これまで学習した内容をしっかり思い出しながら読みましょう。「テスト対策」はあえてふりがなをつけていません。不安な場合は、このページの上部「本文を読む」で確認してください。

思はずに、あさましくて、「こはいかに。かかるやうやはある。」とばかり言ひて、返歌にも及ばず、袖を引き放ちて、逃げられけり。小式部、これより歌詠みの世におぼえ出で来にけり。
 これはうちまかせての理運のことなれども、かの卿の心には、これほどの歌、ただいま詠み出だすべしとは知られざりけるにや。

あらすじの確認

・定頼中納言は歌の内容に驚き、返歌もせずに逃げていく
・このエピソードにより、小式部は歌よみの世界で評判になる
・作者の感想 定頼中納言は、小式部の実力を知らなかったのであろうか

出題ポイント

以下の3項目が何も見ずに訳すことができるか確認してください。だだし、今回は最後に説明を加えています。

  • 思はずに、あさましくて
  • かかるやうやはある
  • おぼえ出でにけり

思はずに、あさましくて

《出題ポイント!》
「あさまし」の意味
定頼中納言が「あさましく」思った理由

→(訳)(定頼中納言は)思いがけずに、驚きあきれて

思はず(に)」は「思いがけず(に)」と訳すとうまくいくことが多いです。
「あさまし」は重要古文単語で「(意外なことに)驚きあきれる」でしたね。では、定頼中納言が「思いがけず驚きあきれた」のはなぜでしょう?

ポイントは、1️⃣即興性、2️⃣技巧性、3️⃣内容の3点です。
1️⃣の「即興性」というのが、とても大事な要素であることを知っておいてください。お題が出されてから、何日も経ってから詠むのと、すぐに詠むのとでは同じ内容ならどちらが優れているか、言うまでもありませんね。2️⃣技巧性は掛詞や縁語を駆使して和歌を読んでいる点、3️⃣内容は定頼の揶揄に鋭く切り返した点が優れているわけです。
定頼の嫌味に対して、小式部内侍はすぐにすばらしい和歌で返したわけです。これだけの歌を自分で詠めるなら、やはり「歌詠み」に選ばれたのも納得です。

かかるやうやはある

《出題ポイント!》
「かかること」の指示内容
全体の訳出

→(訳)このようなことがあるか、いや、あっていいはずがない。

「かかる」は、もともと「かく」+「ある」ですが、下の名詞にかかる連体詞としての働きをしています。「かく」は「このように」を表す指示副詞ですので、これは「このような」と訳せばよいことになります。「やう」は「様」なので、「さま/こと」でよいですね。まとめると「このようなこと」ですが、これは先程の「小式部内侍が、(自力で)すばらしい和歌を詠んだこと」を指すのでしょう。

次に「やは」です。「や」は疑問か反語の可能性がほぼ半々であるのに対し、「やは」になるとそのほとんどが「反語」になることは知っておいたほうがよいでしょう。ここでも反語(〜か、いや〜ない)になります。

おぼえ出でにけり

《出題ポイント!》
「おぼえ」の意味
なぜ「おぼえ」が出たのか

→(訳)(小式部内侍は歌の)評判が出てきた

「おぼえ」は動詞の「おぼゆ」が名詞化されたものです。「おぼえ」の意味は(世間に)覚えられること/評判、名声」となります。ここでは、「評判」と訳しておくとよいでしょう。

「にけり」の「に」は完了の助動詞「ぬ」の連用形、「けり」は過去の助動詞「けり」の終止形です。訳は2つ合わせて「〜た」で問題ありません。

この定頼中納言とのエピソードが広まり、小式部内侍は歌詠みの世界で評判になったということです。

最終段落について

 これはうちまかせての()(うん)のことなれども、かの(きやう)(こころ)には、これほどの(うた)、ただいま()()だすべしとは()られざりけるにや。(これはありふれた当然のことであるが、あの中納言の心にはこれほどの歌をすぐに詠みだすはずだと分からなかったのであろうか)

この文章は「十訓抄」の一節です。「十訓抄」は文字通り「十種類の教訓を伝えたお話」で、子ども向けの教訓話です。教訓話である以上、最後に教訓めいた話が出てくることが多いです。

この文章は「人を馬鹿にしてはならない」という教訓が書かれている話の一つなのですが、「定頼中納言は、小式部内侍がすばらしい歌を詠むと分からなかったのか」と締めくくっています。定頼中納言は小式部内侍を馬鹿にした結果、とんだ恥をかいてしまったという話であったことから、作者が言いたいのはまさに「人を馬鹿にしてはならない」ということになりますね。

文法の確認

第2回は助動詞の確認です。特に「打消」「過去」「完了」の助動詞を中心に出題しています。助動詞の細かい説明については、以下をご覧ください。

本文中の青太字の助動詞の意味ともとの形(終止形)を答えよ。

 和泉式部、保昌が妻にて丹後に下くだり①けるほどに、京に歌合ありけるに、小式部内侍、歌詠みにとら②て詠みけるを、定頼中納言たはぶれて、小式部内侍ありけるに、「丹後へ遣はしける人は参り③たりや。いかに心もとなく思す④らむ。」と言ひて、局の前を過ぎ⑤られけるを、御簾よりなからばかり出でて、わづかに直衣の袖をひかへて、
 大江山いくのの道の遠ければまだふみも見⑥天の橋立
と詠みかけけり。思はずに、あさましくて、「こはいかに。かかるやうやはある。」とばかり言ひて、返歌にも及ばず、袖を引き放ちて、逃げ⑦られけり。小式部、これより歌詠みの世におぼえ出で来⑧けり。
 これはうちまかせての理運のことなれども、かの卿の心には、これほどの歌、ただいま詠み出だす⑨べしとは知ら⑩ざりけるや。

解答は以下のとおりです。

①過去・けり ②受身・る
③完了・たり ④現在推量・らむ
⑤尊敬・らる ⑥打消・ず
⑦尊敬・らる ⑧完了・ぬ
⑨推量・べし ⑩尊敬・る
⑪打消・ず  ⑫過去・けり
⑬断定・なり

助動詞は種類が多いので、少しずつでも覚えていきましょう。

おわりに

今回は「大江山」と題されることの多い『十訓抄』の文章を読みました。痛快な教訓話なので、読んでいて飽きないですよね。文章も短いので古文の授業では必ずといっていいほど取り扱います。ここで、ぜひ和歌を楽しむ気持ちを持ってもらえたらなと思います。では、また次の回でお会いしましょう。


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