《会員限定》「東路の道の果て」『更級日記』読解のコツ&テスト対策 第2回

 このページでは、学生時代に国語が苦手だった筆者が、この順番で学べば文章の内容が分かるようになり、一気に得意科目にできたという経験をもとに、25年以上の指導において実際に受講生に好評だった「これなら古文が理解できる!」という学ぶ手順を具体的に紹介していきます。読んでいくだけで、文章の内容が分かるようになります。また、テスト前に学習すると、これだけ覚えておいたらある程度の点数は取れるという「テスト対策」にも多くの分量を割いて説明します。

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ブログの性質上、理解していくためにはどうしても文章を「自分で」「丁寧に」読んで行く必要があります。「自分一人で文章を読む」よりも、きちんと先生に文章の内容を説明をしてほしい、先生に読解を伴走してほしいという人は、以下の個別指導塾をオススメします。まずは資料請求をして、自分に合うかどうかを確認してみましょう。詳しくは下のバナーをタップ!

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目次

はじめに

今回は『更級日記』の冒頭「東路の道の果て」の第2回です。『更級日記』については第1回の「『更級日記』について」で説明していますので、詳細は下のボタンをクリックしてご覧ください。

前回は「作者の姉や継母に物語を話してもらったけど、全部は分からないからもどかしい気持ちでいた」というところまでだったね。

前回の復習

簡単にまとめると以下のとおりです。

  • 作者は少女時代に常陸の国よりもさらに奥の上総の国に住んでいる田舎者だった
  • 世の中にある物語というものをなんとかして読みたいと思う
  • 姉や継母が様々な物語を聞かせてくれるが、すべてを語ってくれるわけではない
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「東路の道の果て」読解のコツ 第2回

 古文を読解する4つのコツをお話しましょう。以下の順に確認していくと以前よりも飛躍的に古文が読めるようになるはずです。

STEP
本文を読む

何度も本文を読んでみて(できれば声に出して)、自分なりに文章の内容を想像してみます。特に初めて読むときは、分からない言葉があっても意味調べなどせずに読みます。分からない言葉がある中でも文章の中に「誰がいるか」「どのようなことを言っているか」「どのような行動をしているか」を考えていきます。

STEP
内容を大まかに把握し、説明する

簡単でもよいので、誰かに「こんなお話」だと説明できる状態にします。ここでは、合っているかどうかは関係ありません。今の段階で、こんな話じゃないかなと考えられることが大切なのです。考えられたら、実際にこの項目をみてください。自分との違いを確認してみましょう。

STEP
理解しにくい箇所の解説を見る

古文を読んでいると、どうしても自力では分からない所がでてきます。ちなみに、教科書などでは注釈がありますが、注釈があるところは注釈で理解して構いません。それ以外のところで、多くの人が詰まるところがありますが、丁寧に解説しているので見てみてください。

STEP
改めて本文を解釈する

step3とstep4は並行して行います。きっと、随分と読めるようになっているはずです。

今回は自分のことが中心なので、登場人物の確認は行わないよ。本文には物語を話してくれる「姉」「継母」が出てくるけど、この人間関係は第1回の「④姉、継母などやうの人々」で詳しく解説しているから見てみてね。

本文を読む

 何度も本文を読んでみて、自分なりに文章の内容を想像してみましょう。特に初めて読むときは、分からない言葉があっても意味調べなどせずに読みます。分からない言葉がある中でも文章の中に「誰がいるか」、「どのようなことを言っているか」、「どのような行動をしているか」を考えていきます。今回は2回目なので、前半部の内容を思い出しながら読んでみましょう。

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 (あづま)()(みち)()てよりもなほ(おく)つかたに()()でたる(ひと)、いかばかりかはあやしかりけむを、いかに(おも)(はじ)めけることにか、()(なか)(もの)(がたり)といふもののあんなるをいかで()ばやと(おも)ひつつ、つれづれなる(ひる)()(よひ)()などに、(あね)(まま)(はは)などやうの(ひと)(びと)の、その(もの)(がたり)、かの(もの)(がたり)(ひかる)(げん)()のあるやうなど、ところどころ(かた)るを()くに、いとどゆかしさまされど、わが(おも)ふままに、そらにいかでかおぼえ(かた)らむ。いみじく(こころ)もとなきままに、(とう)(しん)(やく)()(ぼとけ)(つく)りて、()(あら)ひなどして、(ひと)まにみそかに()りつつ、「(きやう)にとく()(たま)ひて、(もの)(がたり)(おほ)(さぶら)ふなる、ある(かぎ)()(たま)へ。」と、()()てて(ぬか)をつき、(いの)(まう)すほどに、(じふ)(さん)になる(とし)(のぼ)らむとて、九月(ながつき)三日(みか)(かど)()して、いまたちといふ(ところ)(うつ)る。
 (とし)ごろ(あそ)()れつる(ところ)をあらはにこほち()らして、()(さわ)ぎて、()()(ぎは)のいとすごく()りわたりたるに、(くるま)()るとてうち()やりたれば、(ひと)まには(まゐ)りつつ(ぬか)をつきし(やく)()(ぼとけ)()(たま)へるを、()()(たてまつ)る、かなしくて、(ひと)()れずうち()かれぬ。

内容を簡単に理解

  • 作者は少女時代に常陸の国よりもさらに奥の上総の国に住んでいる田舎者だった
  • 世の中にある物語というものをなんとかして読みたいと思う
  • 姉や継母が様々な物語を聞かせてくれるが、すべてを語ってくれるわけではない
  • ーーー(ここから第2回)ーーー
  • 等身大の薬師仏を作って、上京して物語が読めるように祈り続ける
  • 十三歳のときに、念願かなって京都に戻ることになる
  • 出発時、長年過ごした家や遊び場、置いていく薬師仏を見ると、悲しくて人知れず涙を流す

理解しにくい箇所の解説を見る

 本文を読んで自分で内容を考えていったときに、おそらく以下の箇所が理解しにくいと感じたでしょう。その部分を詳しく説明します。解説を読んで、理解ができたら改めて本文を解釈してみてください。

  • ⑦いみじく心もとなきままに
  • ⑧日の入り際のいとすごく霧りわたりたるに
  • ⑨人知れずうち泣かれぬ

⑦いみじく心もとなきままに

(訳)はこちら(タップして表示)

たいそうじれったいので

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「作者が読みたい物語を、姉や継母が語って聞かせてくれるが、すべてを語ってくれるわけではない」という趣旨の文章からの流れです。欲しい情報が手に入らない作者の思いが現れています。ここを理解するためには、「いみじく」「心もとなき」「ままに」のそれぞれの語の意味が分かる必要があります。「いみじ」「程度が甚だしい」ことを表す語で、下に形容詞が続いているので、「たいそう/非常に」という意味でよいでしょう。また、「ままに」は第1回で詳しくお話したので、ここでは、「〜ので」という意味になることだけ示しておきます。ここで覚えておいてほしいのは「心もとなし」という単語です。

「こころもとなし」(形・ク活)
 1じれったい/待ち遠しい
 2不安だ/気がかりだ
 3ぼんやりしている/はっきりしない

「心許なし」と漢字で書きます。現代語は2の「不安だ」という意味が最もよく使われます。
(例)この成績ではA大学の合格は心もとない。
ですが、もともと「心がやたらに動きまわって落ち着かない感じ」を表す語なので、「待ち遠しくて心がいらだつ」という意味の「じれったい」が第一にきます。そこから2や3の意味も出てきます。ここでは、「物語の続きが知りたいけど、それを手に入れられずにじれったい」という意味になります。

また、「こころもとなし」とよく似た意味の語があります。それは「おぼつかなし」と言う語です。こちらは「対象がぼんやりしていてつかみどころがない感じ」を表すので、第一の意味は「はっきりしない/ぼんやりしている」です。そこから「気がかりだ」「待ち遠しい」等の意味が出てきます。結果的にこの2語は同じような意味の語になるのです。

「おぼつかなし」(形・ク活)
 1はっきりしない
 2気がかりだ/不安だ
 3待ち遠しい

以上をまとめると、次のような訳になります。

(訳)たいそうじれったいので

そこで、作者(女の子)は等身大の薬師仏を作って、その仏様にお祈りをします。祈るのはもちろん、「物語を見させてほしい」という内容です。ただ、この常陸の国には物語がないので、「物語があるという京都に自分たちを戻してほしい」とお願いをしているのです。

そのお祈りは仏様に通じたのですか?

願いは通じて、作者が13歳のときに父の任期が終わり、一家は京都へ帰ることになるよ。9月3日に常陸の国を出発します。

では、⑧までの本文を一気に解釈してみましょう。

いみじく心もとなきままに、等身に(やく)(し)(ぼとけ)を造りて、手洗ひなどして、人まにみそかに入りつつ、「京にとく上げ給ひて、物語の多く(さぶら)ふなる、ある限り見せ給へ。」と、身を捨てて(ぬか)をつき、祈り申すほどに、十三になる年、上らむとて、九月三日門出して、いまたちといふ所に移る。
 年ごろ遊び慣れつる所をあらはにこほち散らして、立ち騒ぎて、

(訳)はこちら(タップで表示)

たいそうじれったいので、等身大に薬師仏を造って、手を洗い清めたりなどして、人のいないときにこっそり(仏間に)入っては、「都にはやく(私を)上京させなさって、(都には)物語がたくさんあるそうなのを、ある限りお見せください。」と、身を投げ出して額を(床に)つけて、お祈り申し上げるうちに、十三になる年、(父の任期が終わって一家は)上京しようといって、九月三日に出発をして、いまたちという所に移る。  
 長年遊びなれた所を外から丸見えになる状態に簾や几帳などを乱雑に取り外して、(人々は)大騒ぎをして、

のいとすごくりわたりたるに

(訳)はこちら(タップして表示)

太陽が沈もうとするころで、たいそうもの寂しく霧が一面に立ちこめているころに

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作者(女の子)が、常陸の国の住んでいた場所を出て、京都に戻るときの外の様子を表しています。「日の入り際」とあるので、「日が沈むころ」つまり夕方6時くらいでしょうか。「入り際の」の「の」は同格を表す格助詞「の」です。同格の「の」は以下で詳しく説明しています。

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ここは、「日の入り際」と「いとすごく霧りわたりたる」が同じ内容を表していますので、「わたりたる」の後に「際」を補って、「日の入り際で、とても「すごく霧りわた」っている際」とまずは理解します。そうすると、「すごく」「霧りわたり」の意味を次に知る必要がありそうです。「すごし」「わたる」は重要古語です。

「すごし」(形・ク活)
 1もの寂しい恐ろしい
 2恐ろしいくらいすぐれている

「すごし」は現代語でもよく使います。現代語の「すごい」は「程度が甚だしい」ことをどのような場面でも使いますが、もともとこの語は「はなはだしい衝撃を与えるほどのぞっとするような感じ」を表します。ですので、「ぞっとするほど」どうなのかを考えます。第一に覚えておくのは「もの寂しい」です。ここでもその意味で通じます。

「わたる」(動・ラ四)
1過ぎる 通る 行く 来る 移る
2年月が過ぎる 年月を送る

3(動詞の連用形の下に付いて)

 ずっと…続ける 一面に…(する)

「わたる」は「ある一定の空間・時間をこえて他に及ぶ」という意味の語です。現代語とそれほど大きな差はないので、文章で出てきてもなんとなく意味は理解できそうな語です。ただ、動詞について、「〜わたる」となったときには、「ずっと〜(し)続ける」「一面に〜(する)」という意味を持つので、こちらは覚えておいた方がよいでしょう。今回もこの「一面に〜(する)」という意味になり、「すごく霧りわたりたる」は「もの寂しく霧が一面に立ちこめている」と解釈できます。

そんなもの寂しい雰囲気の中で作者一行は常陸の国をあとにします。
ふと住んでいた家の方を見ると、以前お祈りし続けた薬師仏がそのままの状態で残っています。薬師仏をそのまま置いて京都に帰ることが悲しくて・・・

では、⑨までの本文を解釈してみましょう。

日の(い)り際のいとすごく(き)りわたりたるに、車に乗るとてうち見やりたれば、人まには参りつつ額をつきし薬師仏の立ち給へるを、見捨て奉る、かなしくて、

(訳)はこちら(タップで表示)

日没も間際で、とても物寂しく霧が一面に立ちこめているときに、車(牛車)に乗ろうとして(住み慣れた家の方を)ちょっと見やったところ、人のいないときにお参りしては額をつけ(てお祈りし)た薬師仏がお立ちになっているのを、お見捨て申し上げることが、悲しくて、

人知れずうちかれぬ

(訳)はこちら(タップして表示)

人知れず思わず泣いてしまった。

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 「人知れず」は現代語でも用いますが、「知れ」はラ行下二段活用動詞「知る」の未然形です。四段活用ではないことに注意です。本来四段活用の動詞が下二段化することはいくつかあります。下二段化すると、「受身」のような意味を持ち、「知られる」と訳すことになります。例えば、「かづく(被く)」は四段活用では「褒美をもらう」ですが、下二段活用では「褒美をもらわれる」つまり「褒美を与える」となります。よって、「人知れず」は「人に知られず」となります。
 古文を読んでいるとよく「うち〜」というのが出てきます。これは語の調子を整えたり、強調したりする語です。筆者はよく(  )でくくるように指示します。訳さなくても文意は通じるので、急いで読むときは無視しても問題ありません。あえて訳すなら直後の「泣く」を少し強調して「思わず」などとしておけばよいでしょう。
 次に「泣かれぬ」です。これは「れ」と「ぬ」の助動詞の意味が問題になります。結論からいうと、「れ」は自発を表す助動詞「る」の連用形、「ぬ」は完了の助動詞「ぬ」の終止形です。助動詞「る」は現代語の「れる」(られる)で、受身・尊敬・自発・可能を表す語です。この4つの意味は文章の流れからどれかを選択する必要があるのですが、直前が「泣く」のときは「自発」になる可能性が高いです。それは、「泣く」という動作が強い意志によるものではなく、自然と出てくるものだからです。また、「ぬ」は終止形であり、場面から考えても打消は考えにくい(「泣かなかった」では場面に合わない)ので、完了の助動詞「ぬ」だと考えてよいでしょう。「思わず泣いてしまった」と訳せることがわかります。

作者(女の子)が泣いているのはどのような心情からくるのでしょうか。
例えばこのようなことが考えられます。

  • 仏を置いていかねばならない悲しさ
  • 住み慣れた土地を離れる寂しさ

など、作者に涙を流させるような感情が込み上げてきているのでしょう。京都に帰って物語が読める期待よりも、いまは別れの悲しさ・寂しさが強くなっているのですね。やはりどんなにこの先に明るい未来が待っていようとも、別れというのはつらいものです。そんなことを改めて教えてくれる文章でした。

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「東路の道の果て」テスト対策 第2回

『東路の道の果て』の後半部において、テストに出そうな内容にできるだけ絞ってお話しましょう。テスト対策は次のような流れで行うとよいでしょう。このサイトは下記の流れで解説をしています。

STEP
本文を確認する

テスト直前でもすべきことの基本は、「本文を読むこと」です。これまで学習した内容をしっかり思い出しながら読みましょう。

STEP
読みで問われやすい語を確認する

古文の問一は「よみ」の問題であることが多いですね。出題されるものは決まっているので、ここで落とさないように、しっかり確認しておくことです。

STEP
あらすじを確認する

「どのような話」か、簡単に説明できる状態にしましょう。

STEP
出題ポイントを確認する

ここでのメインになります。古文はどうしても「知識」を問う必要があるので、問われる箇所は決まってきます。それならば、「よく問われる」出題ポイントに絞って学習すれば、大きな失点は防げそうですね。このサイトでは「よく問われる」箇所のみを説明していますので、じっくり読んでみてください。

STEP
出典について確認する

いわゆる「文学史」の問題です。テスト対策としては、それほど大きな点数にはならないので、時間がない場合は飛ばしてもよいかもしれません。

STEP
古典文法で狙われそうな箇所を復習する

古典文法の問題は必ず出題されます。それは、直接「動詞の活用」や「助動詞の意味」を問うような問題だけでなく、現代語訳や解釈の問題などでも出題されます。必ず問題を解いて、できるようになっておきましょう。このサイトは文法事項の説明も充実しているので、詳しく知りたいときは、ぜひそれぞれの項目に進んで学習してみてください。

本文の確認

テスト直前でもすべきことの基本は、「本文を読むこと」です。これまで学習した内容をしっかり思い出しながら読みましょう。「テスト対策」はあえてふりがなをつけていません。不安な場合は、「読解のコツ」の「本文を読む」で確認してみてください。

いみじく心もとなきままに、等身に薬師仏を造りて、手洗ひなどして、人まにみそかに入りつつ、「京にとく上げ給ひて、物語の多く候ふなる、ある限り見せ給へ。」と、身を捨てて額をつき、祈り申すほどに、十三になる年、上らむとて、九月三日門出して、いまたちといふ所に移る。
 年ごろ遊び慣れつる所をあらはにこほち散らして、立ち騒ぎて、日の入り際のいとすごく霧りわたりたるに、車に乗るとてうち見やりたれば、人まには参りつつ額をつきし薬師仏の立ち給へるを、見捨て奉る、かなしくて、人知れずうち泣かれぬ。

読みで問われやすい語

青線部の読みができるようになっておきましょう。

  • 物語の多く候ふなる、
  • 身を捨ててをつき、
解答はこちら(タップで表示)

「候ふ」「額」はそれぞれ「さぶらう」「ぬか」と答えるのが無難でしょう。「候ふ」は女性の文章なので「そうろう」では減点される可能性が高いです。「額」は、私が出題者なら「ひらがな2字で答えよ」と書きますが、なくても「ぬか」と答えましょう。

あらすじの確認

  • 等身大の薬師仏を作って、上京して物語が読めるように祈り続ける
  • 十三歳のときに、念願かなって京都に戻ることになる
  • 出発時、長年過ごした家や遊び場、置いていく薬師仏を見ると、悲しくて人知れず涙を流す

出題ポイント

以下の3項目が何も見ずに訳すことができるか。確認してください。

  • ⑦いみじく心もとなきままに
  • ⑧日の入り際のいとすごく霧りわたりたるに
  • ⑨人知れずうち泣かれぬ

⑦いみじく心もとなきままに

(訳)はこちら(タップで表示)

「たいそうじれったいので」 

《出題ポイント》
  • 「いみじく」の意味
  •  「心もとなき」の意味
  •  「ままに」の意味
  •  上記3つをまとめて、訳出する

「作者が読みたい物語を、姉や継母が語って聞かせてくれるが、すべてを語ってくれるわけではない」という趣旨の文章からの流れです。欲しい情報が手に入らない作者の思いが現れています。ここを理解するためには、「いみじく」「心もとなき」「ままに」のそれぞれの語の意味が分かる必要があります。「いみじ」は「程度が甚だしい」ことを表す語で、下に形容詞が続いているので、「たいそう/非常に」という意味でよいでしょう
次に「心もとなし」という単語です。この語は、「1じれったい/待ち遠しい 2不安だ/気がかりだ3ぼんやりしている/はっきりしない」という意味を持ちます。もともと「心がやたらに動きまわって落ち着かない感じ」を表す語なので、「待ち遠しくて心がいらだつ」という意味の「じれったい」が第一にきます。そこから2や3の意味も出てきます。ここでは、「物語の続きが知りたいけど、それを手に入れられずにじれったい」という意味になります。また、「ままに」は第1回で詳しくお話したので、ここでは、「〜ので」という意味になることだけ示しておきます。

以上をまとめると、次のような訳になります

「たいそうじれったいので」

のいとすごくりわたりたるに

(訳)はこちら(タップで表示)

太陽が沈もうとするころで、たいそうもの寂しく霧が一面に立ちこめているころに

《出題ポイント!》
  • 「日の入り際」とは何時ころを指すか
  • 「日の入り際の」の「の」の働き
  • 「すごく」の意味
  • 「霧りわたる」の意味
  • 「すごく霧りわたりたるに」の訳出

作者(女の子)が、常陸の国の住んでいた場所を出て、京都に戻るときの外の様子を表しています。「日の入り際」は「日が沈むころ」を指します。本文に九月三日(現在の十月上旬)とあるので、夕方6時くらいでしょうか。「入り際の」の「の」は同格を表す格助詞「の」です。ここは、「日の入り際」と「いとすごく霧りわたりたる」が同じ内容を表していますので、「わたりたる」の後に「際」を補って、「日の入り際で、とても「すごく霧りわた」っている際」とまずは理解します。

次に、「すごく」「霧りわたり」の意味を次に知る必要がありそうです。「すごし」は「1もの寂しい恐ろしい 2恐ろしいくらいすぐれている」の意味を表します。現代語の「すごい」は「程度が甚だしい」ことをどのような場面でも使いますが、もともとこの語は「はなはだしい衝撃を与えるほどのぞっとするような感じ」を表します。ですので、「ぞっとするほど」どうなのかを考えます。第一に覚えておく「すごし」の意味は「もの寂しい」です。ここでもその意味で通じます。

「わたる」は「ある一定の空間・時間をこえて他に及ぶ」という意味の語です。「通る、行く、年月がすぎる」など、現代語とそれほど大きな差はないので、文章で出てきてもなんとなく意味は理解できそうな語です。ただ、動詞について、「〜わたる」となったときには、「ずっと〜(し)続ける」「一面に〜(する)」という意味を持つので、こちらは覚えておいた方がよいでしょう。今回もこの「一面に〜(する)」という意味になり、「すごく霧りわたりたるに」は「もの寂しく霧が一面に立ちこめているところに」と解釈できます。

人知れずうちかれぬ

(訳)はこちら(タップで表示)

人知れず思わず泣いてしまった。

《出題ポイント!》
  • 「れ」「ぬ」の文法的意味
  • 「うち泣かれぬ」の訳出

「人知れず」は現代語でも用いますが、「人に知られず」という意味です。現代語訳でも「人知れず」で構いません。
 古文を読んでいるとよく「うち〜」というのが出てきます。これは語の調子を整えたり、強調したりする語です。筆者はよく(  )でくくるように指示します。訳さなくても文意は通じるので、無理に訳す必要はありません
 次に「泣かれぬ」です。これは「れ」と「ぬ」の助動詞の意味が問題になります。結論からいうと、「れ」は自発を表す助動詞「る」の連用形、「ぬ」は完了の助動詞「ぬ」の終止形です。助動詞「る」は現代語の「れる」(られる)で、受身・尊敬・自発・可能を表す語です。この4つの意味は文章の流れからどれかを選択する必要があるのですが、直前が「泣く」のときは「自発」になる可能性が高いです。また、「ぬ」は終止形であり、場面から考えても打消は考えにくい(「泣かなかった」では場面に合わない)ので、完了の助動詞「ぬ」だと考えてよいでしょう。「思わず泣いてしまった」と訳せることがわかります。

この作者(女の子)が泣いているのはどのような心情からくるのでしょうか。
例えばこのようなことが考えられます。

  • 仏を置いていかねばならない悲しさ
  • 住み慣れた土地を離れる寂しさ

など、作者に涙を流させるような感情が込み上げてきているのでしょう。京都に帰って物語が読める期待よりも、いまは別れの悲しさ・寂しさが強くなっているのですね。

文学史・文学作品の確認

今回の出典である『更級日記』については、第1回をご覧ください。

文法の確認

今回は助動詞の確認です。助動詞のまとめは以下をご覧ください。

太青字の助動詞を文法的に説明しなさい。なお、文法的に説明するとは、《例》のように答えることである。
《例》過去の助動詞「き」の連体形

 いみじく心もとなきままに、等身に薬師仏を造りて、手洗ひなどして、人まにみそかに入りつつ、「京にとく上げ給ひて、物語の多く候ふ①なる、ある限り見せ給へ。」と、身を捨てて額をつき、祈り申すほどに、十三になる年、上ら②とて、九月三日門出して、いまたちといふ所に移る。
 年ごろ遊び慣れ③つる所をあらはにこほち散らして、立ち騒ぎて、日の入り際のいとすごく霧りわたり④たるに、車に乗るとてうち見やり⑤たれば、人まには参りつつ額をつき⑥薬師仏の立ち給へ⑦を、見捨て奉る、かなしくて、人知れ⑧うち泣か⑨

解答はこちら(タップで表示)

【解答】
①伝聞の助動詞「なり」の連体形
②意志の助動詞「む」の終止形
③完了の助動詞「つ」の連体形
④存続の助動詞「たり」の連体形
⑤完了(存続)の助動詞「たり」の已然形
⑥過去の助動詞「き」の連体形
⑦存続の助動詞「り」の連体形
⑧打消の助動詞「ず」の連用形
⑨自発の助動詞「る」の連用形
⑩完了の助動詞「ぬ」の終止形

おわりに

今回は「東路の道の果て」の後半部をお話しました。古文の授業では「東路の道の果て」を読んだ後に、「源氏の五十余巻」という題名で、作者が『源氏物語』を手に入れて有頂天になる話を読むことが多いです。その話はまたいつかお話しようと思います。では、また次回お会いしましょう。

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