はじめに
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先生、今回のテスト範囲は「筒井筒」なんです。文章が長いんですけど、どの部分に力を入れて学習したらいいですか。
「筒井筒」は文章が長くて、内容としては3つに分けられるけれど、多くは1つ目と2つ目の話がよく出題されるかな。でも、せっかくなので1つずつ説明していこう!
1つ目は、男女が結ばれる話、2つ目は男が生活のために別の女のもとへ通う話でしたね。しっかり復習していきます!
今回は文章が長く、内容が大きく3つに分かれていますので、3つのパートに分けて行います。ただし、文法問題は一番最後でまとめてやります。
3つのパートに分けて解説しているので、まず最初に全文を掲載します。解説をしている箇所にはリンクを貼っているので、そこから移動してもらってもかまいません。
昔、田舎わたらひしける人の子ども、井のもとに出でて遊びけるを、大人になりにければ、男も女も、恥ぢかはしてありけれど、男はこの女をこそ得めと思ふ。女はこの男をと思ひつつ、親のあはすれども、聞かでなむありける。さて、この隣の男のもとより、かくなむ。
筒井筒井筒にかけしまろがたけ過ぎにけらしな妹見ざるまに
女、返し、
くらべこし振り分け髪も肩過ぎぬ君ならずしてたれか上ぐべき
など言ひ言ひて、つひに本意のごとくあひにけり。
さて、年ごろ経るほどに、女、親なく、頼りなくなるままに、もろともにいふかひなくてあらむやはとて、河内の国、高安の郡に、行き通ふ所出で来にけり。さりけれど、このもとの女、悪しと思へるけしきもなくて、出だしやりければ、男、異心ありてかかるにやあらむと思ひ疑ひて、前栽の中に隠れゐて、河内へいぬる顔にて見れば、この女、いとよう化粧じて、うちながめて、
風吹けば沖つ白波たつた山夜半や君がひとり越ゆらむ
とよみけるを聞きて、限りなくかなしと思ひて、河内へも行かずなりにけり。
まれまれかの高安に来て見れば、はじめこそ心にくくもつくりけれ、今はうちとけて、手づからいひがひ取りて、けこのうつは物に盛りけるを見て、心うがりて行かずなりにけり。さりければ、かの女、大和の方を見やりて、
君があたり見つつを居らむ生駒山雲なかくしそ雨は降るとも
と言ひて見出だすに、からうじて、大和人「来む。」と言へり。よろこびて待つに、たびたび過ぎぬれば、
君来むと言ひし夜ごとに過ぎぬれば頼まぬものの恋ひつつぞふる
と言ひけれど、男住まずなりにけり。
「筒井筒」『伊勢物語』その1
それでは始めていきましょう。その1は、男女が結ばれるところまでです。
本文を読む
テスト直前でもすべきことの基本は、「本文を読むこと」です。
子どもたちは大人になってどうなった?男の気持ちは?手紙をもらった女の気持ちは?そんなことを思い出しながら読んでみてください。
昔、田舎わたらひしける人の子ども、井のもとに出でて遊びけるを、大人になりにければ、男も女も、恥ぢかはしてありけれど、男はこの女をこそ得めと思ふ。女はこの男をと思ひつつ、親のあはすれども、聞かでなむありける。さて、この隣の男のもとより、かくなむ。
筒井筒井筒にかけしまろがたけ過ぎにけらしな妹見ざるまに
女、返し、
くらべこし振り分け髪も肩過ぎぬ君ならずしてたれか上ぐべき
など言ひ言ひて、つひに本意のごとくあひにけり。
読みで問われやすい語
「妹」「本意」です。「いも」「ほい」と答えるのが無難でしょう。「本意」は撥音便の無表記と考えて「ほんい」と読んでもよいのですが、出題者によっては不可とする危険性もあります。
あらすじの確認
・昔、田舎暮らしをしていた人の子どもたちが井戸の近くで遊んでいた
・その中の男の子と女の子が成人した後に、お互いに結婚したいと思っている
・二人は大人になって、遊ばなくなったが思いは変わらない
・女の親は、別の男と結婚させようとするが、女は言うことを聞かない
・男のもとから女のもとへ和歌が送られる
・女も男へ返歌する
・二人は結ばれる
以下の部分が訳せるか確認
以下の項目が何も見ずに訳すことができるか確認してください。
①親のあはすれども、聞かでなむありける
《出題ポイント!》
「あはす」の意味
「聞かでなむありける」の訳出と、何を「聞かで」なのか?
→(訳)(女の)親が(別の男と)結婚させようとするけれども、(女は)聞かないでいた
「親の」の「の」は主格を表す格助詞で、「〜が」と訳せばよいです。文の主語が「女は」とあるので、この親は「女の親」だとわかります。
「あはす」は、「あふ」に使役の助動詞「す」がついたものですが、通常一語として考えます。「あふ」で、古文で大事になるのは「契る/結婚する」という意味です。ですので、ここでは「結婚させる」という意味にとるとよいでしょう。「女の親」が結婚させるのは、「別の男」となります。
「聞かで」の「で」は、打消の接続助詞で、「〜ないで」と訳します。また、「なむありける」の「なむ」は係り結びを作る助詞(係助詞)で、文末を連体形にします。そのため、過去の助動詞「けり」は連体形になっているわけです。よって、「聞かでなむありける」は「聞かないでいた」と解釈できるわけです。親の申し出(=他の男と結婚すること)を「聞かないでいた」わけですね。
②筒井筒井筒かけしまろがたけ過ぎにけらしな妹見ざるまに
《出題ポイント!》
「まろがたけ」の訳出とそれを比べあった場所
「過ぎにけらしな」の文法的解釈
「妹見ざるまに」の訳出
結局この和歌で男は何を言いたいのか
→(歌訳)円い枠をつけた井戸の囲いで高さを比べあって遊んだ私の背丈も、きっと井筒を越すほどに大きく成長しているらしいよ。あなたを見ないうちに。
「筒井筒」は、教科書によっては「筒井つの」になっているものもありますが、この場合の「つ」は実はよくわかっていません。「筒井」は教科書に注があると思いますが、円い枠をつけた井戸のことです。「井筒」は井戸の囲いのことですが、これも注があるでしょう。ここまでで、「円い枠をつけた井戸の囲い」となります。
次に、この場面の「かく(掛く)」は「比べる」という意味になりますが、これもかなり難易度が高いので、多くの教科書には注があります。「かけし」の「し」は過去の助動詞「き」の連体形です。何を比べたかというと、後ろにある「まろがたけ」がヒントになります。「まろ」は一人称の代名詞(=私)で、くだけた場面で使われる言葉です。この「が」は連体修飾恪の格助詞で、「〜の」と訳すものです。また、「たけ」は漢字で「丈」と表し、「背丈(=身長)」のことを表します。これで「まろがたけ」は「私の背丈」ということがわかりました。以上から、「小さな男女が井戸の囲いで背丈を比べあった私の背丈も」と訳出すればよいわけです。
「過ぎにけらしな」に移ります。「過ぎにけらし」は「過ぎにけるらし」がつづまった形です。ここの「に」「ける」「らし」がそれぞれ助動詞であることに気がつきたいですね。「に」は完了の助動詞「ぬ」の連用形、「ける」は過去の助動詞「けり」の連体形、「らし」は推定の助動詞「らし」の終止形です。また、「な」は詠嘆を表す終助詞で、「〜(こと)よ」と理解しておけばよいでしょう。あとは、何が何に「過ぎ」てしまったのかということが分かればよいのですが、これは「まろがたけ」が「井筒」に「過ぎ」たということで、「私の身長は井筒を越えるほどに成長した(らしいよ)」と訴えている場面であると分かります。
ここでは、もうひとつ注目すべきところがあって、「過ぎにけらしな」は言葉がここで一度完結しています。つまり、四句切れの和歌であるということになります。
最後に、「妹見ざるまに」です。「妹」は重要古語です。「いも」と読みます。通常、男性が女性を親しんで呼ぶ言葉です。ここは、「男」の和歌なので、「女」を呼ぶ言葉になります。
「見ざる」の「ざる」は打消の助動詞「ず」の連体形、「ま」は「間」です。これらをまとめると、「あなたを見ない間に」となります。
この和歌は恋の歌で、「私は成長して大人になりましたよ。だからあなたと結婚したい」ということを「男」が「女」に伝えているのです。
③くらべこし振分け髪も肩過ぎぬ君ならずしてたれか上ぐべき
《出題ポイント!》
「くらべこし」の文法的解釈
「肩過ぎぬ」の「ぬ」の文法的意味
「君ならずしてたれか上ぐべき」とはどういうことか
結局この返歌で女は何を言いたいのか
「くらべこし」の「こし」ですが、「こ」はカ行変格活用動詞「来」の未然形、「し」は過去の助動詞「き」の連体形です。「こし」について、「来」が未然形になることに関しては、こちらで説明しています。ここでは「くらべてきた」という意味になりそうです。
「振分け髪」は左右に分けて方に垂らしたままの子どもの髪型を指します。その髪が「肩(を)過ぎぬ」と言っているわけですが。「過ぎぬ」の意味が分かりますか。これは2通り考えられます。
1つめは打消の助動詞「ず」の連体形(髪も肩を過ぎないあなた)
2つめは完了の助動詞「ぬ」の終止形(髪も肩を過ぎた。)
つまり、「ぬ」の識別問題です。どちらがここでの解釈にふさわしいでしょうか。じつは文法で考えることはできません。ここでは、解釈で考える必要があります。
この歌は②の和歌の返歌だということを考えれば、内容としては「私も大人になった」という内容になるはずです。ということは「私の髪も肩を過ぎるほど伸びた」ということを言いたいはずです。よって、「過ぎぬ」の「ぬ」は完了の助動詞「ぬ」の終止形だということがわかります。また、終止形なので意味もここで切れています。三句切れの和歌だということになりますね。ここまでを解釈すると、「あなた(長さを)比べあった私の振り分け髪も、肩を過ぎるほど伸びた。」となります。
後半の2句が②の和歌の答えになる箇所です。「君ならずして」の「なり」は断定の助動詞「なり」の未然形、「ず」は打消の助動詞「ず」の連用形です。「ず」が「して」につながって「ずして」の形になるのは現代語でも見られます。「〜なくて」と訳すことが多いですね。「たれ」は「誰」です。古文や漢文では「たれ」と読みます。「誰か」の「か」は反語で取ると意味が通じやすいでしょう。「上ぐべき」の「上ぐ」は「上げる」ですが、「髪を結い上げ(て成人の女性にな)る」という意味で使われています。「べし」は推量の助動詞としてとっておくと訳しやすいですね。以上をまとめると、「あなたのためではなくて、誰のために髪を結い上げましょうか。(いいえ、あなたのために髪を結い上げるのです。)」となります。
女性の返事は「私はあなた以外とは結婚しない」ということになります。相思相愛の仲だったということが分かりますね。
④本意のごとくあひにけり
《出題ポイント!》
「本意のごとく」の意味
「あひにけり」の訳出
「本意」の意味は「本来の意志/かねてからの望み」です。
「本意のごとく」の「ごとく」は比況の助動詞「ごとし」の連用形です。助動詞「ごとし」は「〜ようだ/ように」と訳します。
「本意のごとく」は「かねてからの望みのように」つまり、「かねてからの望みどおり」と解釈すればいいわけです。
「あひにけり」ですが、「あひ」は「あふ」の連用形です。これは①「親のあはすれども」で説明した通り「結婚する」でいいでしょう。「にけり」の「に」は完了の助動詞「ぬ」の連用形、「けり」は過去の助動詞「けり」の終止形です。特に「〜にけり」はよく出てくるので、この「に」が完了の助動詞「ぬ」であることを確実に理解しておきましょう。定期テストでもよく出題されます。ここはもちろん、「二人は結婚した」でいいわけです。
僕も、子どもだった大人になって二人が結婚できたことがよく分かったよ。また、本文を読んで最終確認しておこうね。
以上で、その1のテスト対策を終わります。
「筒井筒」『伊勢物語』その2
「その2」は、男が生活のために他の女のもとへ通う話です。
本文を読む
男はなぜ高安の女のもとへ行ったの?送り出されたときの男の気持ちは?
そんなことを考えながら、読んでみてください。
さて、年ごろ経るほどに、女、親なく、頼りなくなるままに、もろともにいふかひなくてあらむやはとて、河内の国、高安の郡に、行き通ふ所出で来にけり。さりけれど、このもとの女、悪しと思へるけしきもなくて、出だしやりければ、男、異ありてかかるにやあらむと思ひ疑ひて、前栽の中に隠れゐて、河内へいぬる顔にて見れば、この女、いとよう化粧じて、うちながめて、
風吹けば沖つ白波たつた山夜半や君がひとり越ゆらむ
とよみけるを聞きて、限りなくかなしと思ひて、河内へも行かずなりにけり。
読みで問われやすい語
「郡」「異心」「前栽」「夜半」です。現代仮名遣いで書くと、「こおり」「ことごころ」「せんざい」「よわ」です。特に、「前栽」は必出です!
あらすじの確認
・結婚後何年か経った後、妻の親が亡くなり、生活が苦しくなる
・共倒れになるわけにはいかず、男は河内の国の高安の女のもとへ通う
・妻は夫を送り出すときに嫌な素振りを見せない
・夫は妻の浮気を疑って、妻の様子をうかがう
・妻は夫の旅路を心配する和歌を詠む
・夫は妻が愛しくなり、河内の女のもとへ通わなくなる
以下の部分が訳せるか確認
以下の項目が何も見ずに訳すことができるか確認してください。
⑤親なく、頼りなくなるままに
《出題ポイント!》
「頼り」の意味
なぜ「頼りなくなる」のか
→(訳)女は、親が亡くなって生活のよりどころがなくなるにつれて
その1の話で、「親のあはすれども」とあったので、女の親は存在していたはずですが、結婚して数年後、「親なく」とあるとおり、女の親は亡くなっているようです。そのため「頼りなくなる」わけですが、この意味は「頼り」という言葉を知っておく必要がありそうです。
「頼り(便り)」は語源が「手寄り」とされ、「思わず自分の手が寄っていくもの」というところから考えます。例えば、宝くじなど眼の前に数千万円が当たる機会があれば思わす手が寄っていきますよね。そこから、「機会」という意味が出てききます。また、自分の持ち金がなくなったら思わず親のもとへ手が寄っていきます。よって、「拠り所」という意味が出てくるわけです。さらに、相手につながる機会ということで、「おたより」つまり「手紙」という意味も現れます。ここの「頼り」は「拠り所」という意味で、全体で「生活の拠り所がなくなる」と解釈します。
ここで一つ疑問が生まれます。なぜ妻の親が亡くなると、生活の拠り所がなくなるのでしょうか。
これは、当時の結婚の仕方が関係します。当時の貴族の結婚は「通い婚」といって、夫が妻の家に通う形式をとっていました。そうすると、夫の世話をするのは「妻の家」、つまり経済的援助は「妻の父」がすることになるわけです。その「妻の父」が亡くなっているので、経済的に不安定な状態になっているということをここで表しているのです。
⑥もろともにいふかひなくてあらむやは
《出題ポイント!》
「いふかひなく」の意味
「いふかひなくてあらむやは」の解釈
→(訳)男女ともどうしようもない状態で生きていくのがよいだろうか、いや、よくはないだろう。
「もろともに」は、漢字で「諸共に」で「どちらも/いっしょに」などという意味になります。ここでは「男女両方とも」でよいでしょう。次に「いふかひなく」ですが、これは重要古語です。
「いふかひなし」は漢字で「言ふ甲斐無し」と書きます。そうすると、「言っても仕方がない」という意味だと分かります。あとは、「言っても仕方がないくらい」どうなのかという意味にもなります。たとえば、「どうにもならない」や「価値がない」、「みっともない」などです。ここでは、「どうにもならない/どうしようもない」という意味です。
次に「あらむやは」です。「あらむ」の「む」は推量の助動詞です。「やは」は、「や」「か」よりも反語の可能性が大きく高まります。ここでも反語で解釈しましょう。そうすると、「男女ともにどうしようもなくてあるだろうか、いやないだろう」というのが直訳です。「ある」を「存在する/生きる」と解釈し、多少言葉を補って整った訳にすると、以下のようになります。
→(訳)男女ともどうしようもない状態で生きていくのがよいだろうか、いや、よくはないだろう。
⑦異心ありてかかるにやあらむ
《出題ポイント!》
「異心」の意味
「かかる」の指示する内容
「にやあらむ」の文法的説明
→(訳)他の男に対する浮気心があって、このようにしているのであろうか。
「異心」は文字通り「異なる心」ですが、ここでは「男への心(想い)」とは別の想い、つまり、別の男への想い(=浮気心)という意味になります。また、「かかる」は「このように」という指示語ですが、これは「女が嫌な顔一つせずに、夫を他の女のもとへ送り出すこと」を指しています。あとは、「に」が断定の助動詞「なり」の連用形、「や」が疑問で「あらむ」の「む」が推量の助動詞だとわかれば、「〜にやあらむ」が「〜であろうか」と訳すことができ、全体を解釈することができます。
⑧いとよう化粧じて、うちながめて
《出題ポイント!》
「ながめて」の意味
→(訳)きちんと化粧をして、物思いにふけながら(和歌を詠む)
男が出ていった後、いつもどおり化粧をして自分の身なりを整えている様子を描いています。
後の「うちながめて」の「うち」は次の語を強調したり、語調を整えたりするときに使う言葉なので、直接訳す必要はありません。そして、「ながめて」です。ここで重要古語の「ながむ」について考えましょう。現代語の「眺める」は、「(ぼんやりと)遠くを見る」という意味ですが、もともとは「遠くを見る理由」である「物思いにふける」というのが意味の中心でした。ここでも、「物思いにふけって」と解釈すればいいわけです。
また、「ながむ」は漢字で「詠む」と書いて「和歌を詠む」という意味にもなります。この場面での「ながむ」はどちらの意味も含んでおり、「物思いにふけって和歌を詠む」と解釈することもできます。
⑨風吹けば沖つ白波たつた山夜半にや君がひとり越ゆらむ
《出題ポイント!》
「風吹けば」の訳出
掛詞の指摘
女はどのような気持ちでこの歌を詠んだか
→(訳)風が吹くと白波が立つという竜田山を夜中にあなたは一人で越えているのでしょうか。
「風吹けば」は、「已然形+ば」に注目しましょう。ここで、「已然形+ば」についての説明はこちらをご覧ください。「風吹けば」の「ば」は後の「白波たつ」から考えると、「恒常条件」で「風が吹くといつも(沖には)白波が立つ」と解釈できます。( )にある「沖には」ですが、和歌は「沖つ白波」とありましたね。この「つ」は現代語の「の」で、連体修飾格の格助詞です。平安時代にはほとんど使われず、ほぼ和歌の中でのみ現れます。
次に、「たつた山」の「たつた」がなぜひらがななのか考えてみましょう。「竜田山」とは奈良県北西部の山で、大和の国と河内の国を隔てる山です。男はこの山を越えて河内の国高安の女のもとへ行っていたのでしょう。先程「白波たつ」で「白波が立つ」と言いました。つまり、「たつた山」は掛詞で、「(白波が)立つ」と「竜田山」を掛けているということになります。
ここまでで、「風が吹くと白波が立つという竜田山」と解釈できました。下の句の「越ゆらむ」の「らむ」は現在推量の助動詞で、「ーーているだろう」と訳せばよいものでした。「や」が疑問を表すので、「夜中にあなたが一人でこえているのだろうか」となります。
ここまでで和歌の訳はできますが、一つ疑問が出てきます。なぜ、「山に風が吹く」と「白波が立つ」のでしょうか。海なら分かりますが、ちょっと変ですよね。実は、「白波が立つ」というのは、「盗賊が出る」という意味の隠語なんです。つまり、「風が吹くと盗賊が出るという竜田山を夜中にあなたは一人で越えているのでしょうか。」と解釈でき、女が夫のことを強く心配した歌であるということが分かるのです。
⑩限りなくかなしと思ひて
《出題ポイント!》
「かなし」の意味
誰が誰を「かなし」と思ったか
→(訳)妻をこの上なくいとしいと思って
ここは「かなし」の意味です。漢字では「悲し」よりも「愛し」と書くことを覚えておいてください。この語は、人に対しては「情や愛が痛切で胸がつまる」、自然に対しては「深く心を打たれる」感じを表す語です。ここでは、「男が女を限りなくいとしいと思った」場面になります。
男は妻の愛を改めて感じて、もうどこにも行きたくないと思ったんだよね。⑤から⑩の6つのポイントを理解できたらから、テスト前にもう一度本文を読んでおくとバッチリかな!
以上で、その2のテスト対策を終わります。
「筒井筒」『伊勢物語』その3
その3は、後日談です。男は高安の女のもとへは行かなくなったはずなのですが、ごくたまに通うことがあったようです。この場所は授業時間の関係などでカットされることが多い場面ですが、せっかくなので最後まで解説していきたいと思います。
本文を読む
高安の女の行動と男が何に幻滅したのか。そんなことを思い出しながら読んでみてください。
まれまれかの高安に来て見れば、はじめこそ心にくくもつくりけれ、今はうちとけて、手づからいひがひ取りて、けこのうつは物に盛りけるを見て、心うがりて行かずなりにけり。さりければ、かの女、大和の方を見やりて、
君があたり見つつを居らむ生駒山雲なかくしそ雨は降るとも
と言ひて見出だすに、からうじて、大和人「来む。」と言へり。よろこびて待つに、たびたび過ぎぬれば、
君来むと言ひし夜ごとに過ぎぬれば頼まぬものの恋ひつつぞふる
と言ひけれど、男住まずなりにけり。
読みで問われやすい語
「大和」「生駒」くらいです。「やまと」「いこま」ですが、地名なので出題率は低いでしょう。
あらすじの確認
・男はごくたまに高安の女のもとへ行く
・高安の女は始めこそ奥ゆかしくふるまうが、だんだんと打ち解けて、自分の手でしゃもじをとってご飯を盛る
・その様子に男はがっかりして、また通わなくなる
・そこで高安の女は大和の国を見て歌を送る
・男は「(高安の女のもとへ)行こう」というが、時間だけが過ぎる
・高安の女は改めて歌を送る
・男は通わなくなった
以下の部分が訳せるか確認
以下の項目が何も見ずに訳すことができるか確認してください。
⑪はじめこそ心にくくもつくりけれ、
《出題ポイント!》
「心にくし」の意味
全体の訳出(主語も含めて)
→(訳)(高安の妻は)始めこそ奥ゆかしくふるまったけれども、
「はじめこそ」の「こそ」は係助詞で、「つくりけれ」にかかっていきます。ただ、「つくりけれ」は「、」で続いているため、文は完結していません。このような「こそーー(已然形)、・・・」となる形は文を「逆接」でつなぎ、「ーーけれども・・・」と解釈します。
次に「心にくく」ですが、「こころにくし」は「憎らしいくらい心がひかれる」という意味の語で、「奥ゆかしい/すぐれている」という意味になります。ここでは、「奥ゆかしい」でよいでしょう。
最後に「つくりけれ」です。この「つくる」は「こしらえる」だけでなく、「する」という意味にもなります。つまり、様々な行動を「つくる」で表現できるわけです。直前が「奥ゆかしく」なので「する」でもよいですが、「ふるまう」や「取り繕う」などと訳すと自然な解釈になります。もちろん、「奥ゆかしくふるまった」のは高安の女です。また、「けれ」は過去の助動詞「けり」の已然形です。以上をまとめると、下記の訳になります。
→(訳)(高安の妻は)始めこそ奥ゆかしくふるまったけれども、
打ち解けて自らご飯を盛る高安の女に、男は幻滅してしまい、また通わなくなります。なぜ幻滅したかについては、こちらをご覧ください。少し下にスクロールすると、先生と生徒がそのことに対して議論しています。
⑫君があたり見つつを居らむ生駒山雲なかくしそ雨は降るとも
《出題ポイント!》
「雲なかくしそ」の訳出
句切れの位置
「雨」が何を表しているか
→(訳)あなたのいらっしゃるあたりをいつでも見ていましょう。雲よ生駒山を隠してくれませんように。たとえ雨が降っても。
「君があたり」は、「あなたの(住んでいる)辺り」と「住んでいる」を補うと意味が分かりやすくなります。「見つつ」の「つつ」は「継続」を表して「見続けて」と訳します。また、「居らむ」はラ変動詞「居り」の未然形と意志の助動詞「む」の終止形です。ここで意味が切れるので二句切れの和歌になります。ちなみに、「居らむ」の直前の「を」は、調子を整える働きをしている間投助詞と呼ばれるものになります。ここまでをまとめると、「あなたの住んでいる辺りを見続けていましょう」となります。
「雲な隠しそ」は、「なーーそ」が重要古語(呼応の副詞+終助詞)です。
「生駒山雲な隠しそ」は格助詞がないので一見わかりにくいですが、高安の女が河内の国(大阪府)から大和の国(奈良県)を見ている場面での歌なので、内容から考えて「雲よ生駒山を隠すな」と解釈するのが自然でしょう。生駒山のある方角に男の住む大和の国があるからです。「生駒山よ雲を隠すな」では、女が雲に想いを込めていることになってしまって、文脈に合いません。また、ここでも文が切れているので、二句・四句切れの和歌だということも分かります。
最後に「雨は降るとも」は「たとえ雨は降っても」と解釈するのは容易です。ただ、この「雨」というのは、高安の女の悲しみの涙をたとえていることは分かっておいた方がよいでしょう。
以上をまとめると、次の通りになります。
→(訳)あなたのいらっしゃるあたりをいつでも見ていましょう。雲よ生駒山を隠してくれませんように。たとえ雨が降っても。
⑬君来むと言ひし夜ごとに過ぎぬれば頼まぬものの恋ひつつぞふる
《出題ポイント!》
助動詞の確認
「頼まぬものの」の訳出
「ふる」の意味・文法的知識
→(訳)あなたが「来よう」とおっしゃったその夜が、毎夜毎夜そのたびごとにいつも(むなしく)過ぎ去っていますので、あてにはしないものの、あなたを恋しく思って過ごしています。
この歌も高安の女が歌ったものです。まずは上の句から解釈していきます。「来む」は高安の女への返事をそのまま使っています。「む」は意志の助動詞「む」の終止形です。「言ひし」の「し」は過去の助動詞「き」の連体形、「夜ごと」の「ごと」は「毎」と漢字を当てます。「過ぎぬれば」の「ぬれ」は完了の助動詞「ぬ」の已然形で、「ば」は順接確定条件の接続助詞で、「〜ので」でよいでしょう。ここまでまとめると、「あなたが『来よう』と言ったその夜が、毎夜毎夜そのたびごとに過ぎていきますので、」となります。
次に下の句です。
「頼まぬものの」の「頼む」は重要古語で、「あてにする」となります。「頼まぬものの」の「ぬ」は打消の助動詞「ず」の連体形、「ものの」は逆接の接続助詞で「…けれども/…とはいうものの」という意味で、全体として「あてにはしないものの」と訳します。
「恋ひつつぞふる」の「ふる」はハ行下二段活用動詞「経」の連体形で、意味は「過ごす」です。以上をまとめると、次のようになります。
→(訳)あなたが「来よう」とおっしゃったその夜が、毎夜毎夜そのたびごとにいつも(むなしく)過ぎ去っていますので、あてにはしないものの、あなたを恋しく思って過ごしています。
男は和歌を読んでも通うことありませんでした。理由ははっきりと書いていないのですが、自分のことを待てずに何度も和歌を送ってくる女のことしつこいと感じたのか、それとも和歌で来てくれない恨みを直接的に述べてしまったことに無風流な面を感じ取ったのか、いずれにしても高安の女に男は魅力を感じられなかったみたいですね。
以上で、その3を終わります。これで文章の解説は以上になります。次に、文学史と文法の確認を行いましょう。
文学作品・文学史の確認
「伊勢物語」は、十世紀(平安時代中期)に成立した、ジャンルとしては「歌物語」に位置づけされます。「歌物語」というのは、文字通りお話の中に「和歌」が含まれるものということですが、「作り物語」と異なるのは「和歌」を中心としてお話が作られていることが特徴だということです。
文章は一つ一つのお話が短く、「昔、男〜」で始まることが多いのが特徴です。この「男」は在原業平がモデルであると考えられ、この男の人生を描いたような形をとっています。他の作品に「在五中将の日記」「在五が物語」などと書かれています。「在五」とは在原業平のことを指すので、在原業平がモデルだと言われるのです。在原業平は色男で有名なので、『伊勢物語』は色恋沙汰の話が多いと思っていたらよいでしょう。ついでに、「歌物語」をまとめたものを以下に示します。
文法の確認
今回は助動詞の確認です。助動詞のまとめは以下をご覧ください。
太青字の助動詞の文法的意味と元の形(終止形)を答えなさい。
昔、田舎わたらひし①ける人の子ども、井のもとに出でて遊びけるを、大人になり②にければ、男も女も、恥ぢかはしてありけれど、男はこの女をこそ得③めと思ふ。女はこの男をと思ひつつ、親のあはすれども、聞かでなむありける。さて、この隣の男のもとより、かくなむ。
筒井筒井筒にかけしまろがたけ過ぎにけ④らしな妹見⑤ざるまに
女、返し、
くらべこ⑥し振り分け髪も肩過ぎ⑦ぬ君ならずしてたれか上ぐ⑧べき
など言ひ言ひて、つひに本意のごとくあひ⑨にけり。
さて、年ごろ経るほどに、女、親なく、頼りなくなるままに、もろともにいふかひなくてあら⑩むやはとて、河内の国、高安の郡に、行き通ふ所出で来⑪にけり。さりけれど、このもとの女、悪しと思へるけしきもなくて、出だしやりければ、男、異心ありてかかる⑫にやあら⑬むと思ひ疑ひて、前栽の中に隠れゐて、河内へいぬる顔にて見れば、この女、いとよう化粧じて、うちながめて、
風吹けば沖つ白波たつた山夜半や君がひとり越ゆ⑭らむ
とよみけるを聞きて、限りなくかなしと思ひて、河内へも行か⑮ずなりにけり。
まれまれかの高安に来て見れば、はじめこそ心にくくもつくりけれ、今はうちとけて、手づからいひがひ取りて、けこのうつは物に盛りけるを見て、心うがりて行かずなりにけり。さりければ、かの女、大和の方を見やりて、
君があたり見つつを居ら⑯む生駒山雲なかくしそ雨は降るとも
と言ひて見出だすに、からうじて、大和人「来む。」と言へ⑰り。よろこびて待つに、たびたび過ぎ⑱ぬれば、
君来⑲むと言ひ⑳し夜ごとに過ぎぬれば頼ま㉑ぬものの恋ひつつぞふる
と言ひけれど、男住まずなりにけり。
【解答】
①過去・けり ②完了・ぬ ③意志・む
④推定・らし ⑤打消・ず ⑥過去・き
⑦完了・ぬ ⑧推量・べし ⑨完了・ぬ
⑩推量・む ⑪完了・ぬ ⑫断定・なり
⑬推量・む ⑭現在推量・らむ ⑮打消・ず
⑯意志・む ⑰完了・り ⑱完了・ぬ
⑲意志・む ⑳過去・き ㉑打消・ず
おわりに
今回は「筒井筒」について復習していきました。今回もかなり長い文章なので、理解するにも時間がかかるかもしれませんが、基本的には男と二人の女のやりとりなので、誰の動作かが分かれば読みやすい部分も多いはずです。『伊勢物語』なので和歌が多いですが、5つの和歌とも丁寧に解説しているので、何度も読み返してみてください。テストでよい結果が出せることを願っています。
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