はじめに
自己紹介はこちら
「児のそら寝」の続きだね。児がぼたもちを食べたいけど、夜なので寝たふりをして、僧が起こしてくれるのを待っていたんだったね。今回も前半が詳しい読解で、後半はテスト対策になっているよ。
前回の復習
前回の内容を板書で確認してください。第1回の詳しい説明は以下をご覧ください。
「児のそら寝」予習・読解編 第2回
今回は「児のそら寝」の第2回です。前回の内容を思い出しながら進んでください。
することは「本文を読む」「人物の確認」「お話の理解」の3つです。その後、理解しにくい箇所の解説に進みましょう。
本文を読む
前回の範囲の内容をしっかり思い出しながら、本文をじっくり読んでみましょう。思い出せなかった人は第1回を再度見てください。
前回は「念じて寝たるほどに」まで読んだね。
今は昔、比叡の山に児ありけり。僧たち、宵のつれづれに、「いざ、かいもちひせむ。」と言ひけるを、この児、心寄せに聞きけり。さりとて、し出ださむを待ちて寝ざらむもわろかりなむと思ひて、片方に寄りて、寝たるよしにて、出で来るを待ちけるに、すでにし出だしたるさまにて、ひしめき合ひたり。
この児、さだめておどろかさむずらむと、待ちゐたるに、僧の、「もの申しさぶらはむ。おどろかせたまへ。」と言ふを、うれしとは思へども、ただ一度にいらへむも、待ちけるかともぞ思ふとて、いま一声呼ばれていらへむと、念じて寝たるほどに、
ーーーー(ここから第2回)ーーーー
「や、な起こしたてまつりそ。をさなき人は、寝入りたまひにけり。」と言ふ声のしければ、あな、わびしと思ひて、いま一度起こせかしと、思ひ寝に聞けば、ひしひしと、ただ食ひに食ふ音のしければ、すべなくて、無期ののちに、「えい。」といらへたりければ、僧たち笑ふこと限りなし。
登場人物の確認(再度)
児(ちご)、僧たち
お話を簡単に理解
第一段落
・比叡山延暦寺にある児がいた
・他の僧がぼたもちを作ると話していて、児も食べたいと思った
・でも、子供が夜に起きているのはよくないと思って寝たふりをしていた
第二段落
・僧は起こしてくれたが、一度返事するのはよくないと思い、児は返事をしない
ーーーー(ここから第2回)ーーーー
・他の僧が起こすのはかわいそうだという→児は困る
・おいしそうな食べる音を聞いて、我慢できず児はずっと後になってから返事する
・僧たちは大笑い
理解しにくい箇所の解説
以下の4箇所をマスターしよう。
- な起こしたてまつりそ
- あな、わびし
- 食ひに食ふ音のしければ、すべなくて
- 僧たち笑ふこと限りなし
まず、⑦までのあらすじです。
児を起こそうと声をかけた僧に、別の僧が声をかけます。
⑦な起こしたてまつりそ
→(訳)お起こし申し上げないでください。
ポイントは「なーーそ」と「たてまつる」です。「たてまつる」は謙譲語の補助動詞と呼ばれるものです、今は「〜申し上げる」と訳すと知っておけばよいでしょう。「なーーそ」は呼応の副詞と呼ばれるものです。意味は以下の通りです。
なーーそ
「なーーそ」
=ーーするな/しないでください
※やわらかい「禁止」を表す。
寝ているのに起こしたらかわいそうだと言われた児は、どういう思いだったのかな?
⑧あなわびし
→(訳)ああ、つらい
「あな」は感動詞で、「ああ」と訳します。「わびし」は重要古語で、思うようにはかどらずやりきれないことを表す語で、意味は以下の通りです。
わびし
「わびし」
1苦しい、つらい 2さびしい
ここでは、1の意味でよいでしょう。
もう一度起こしてほしいと児は思うけれど、僧はもう声をかけてくれません。児はつらいですね。僧たちはおいしそうにぼたもちを食べています。
⑨食ふ音のしければ、すべなくて
→(訳)食う音がしたので、どうしようもなくなって
「しければ」の「けれ」は「〜た」と過去の意味を表す助動詞です。助動詞はもう少し後になったら詳しく学習していきます。これが已然形になって、「ば」とつながっています。この「已然形+ば」は、現代語とは異なる意味を表します。ここで確認しておきましょう。
「已然形+ば」(順接確定条件)
1〜ので(原因・理由)
2〜(する)と/(した)ところ(偶然条件)
※「ば」が未然形に接続すると、順接仮定条件を表し、「もし〜ば」と訳すことなります。
「未然形」や「已然形」って何?という人はこちらをご覧ください。活用形について解説しています。
次に、「すべなくて」ですが、「すべなし」は重要古語です。
「すべなし」
「すべなし」(術無し)(形・ク活)
=なすすべがない/どうしようもない
(術無し)は「ずちなし」と読むこともあります。意味はほぼ同じです。
あ、児がいきなり返事をしたよ。
⑩僧たち笑ふことかぎりなし
→(訳)(児がずっと後になってから返事したので)僧たちは(児の考えや行動が滑稽だと思い)この上なく笑った。
「限りなし」は「この上ない」という意味になります。古文ではよく出てきますので、慣れておきましょう。
このお話は笑い話です。文章にしたら全くおもしろくないですが、ここがこの文章のオチです。児の気持ち、行動、すべてがこの「えい」という返事でバレてしまったのですね。
テスト対策 第2回
「児のそら寝」第1回のテスト対策は以下をご覧ください。
本文の確認
テスト直前でもすべきことの基本は、「本文を読むこと」です。これまで学習した内容をしっかり思い出しながら読みましょう。「テスト対策」はあえてふりがなをつけていません。不安な場合は、このページの上部「本文を読む」で確認してください。
「や、な起こしたてまつりそ。をさなき人は、寝入りたまひにけり。」と言ふ声のしければ、あな、わびしと思ひて、いま一度起こせかしと、思ひ寝に聞けば、ひしひしと、ただ食ひに食ふ音のしければ、すべなくて、無期ののちに、「えい。」といらへたりければ、僧たち笑ふこと限りなし。
読みで問われやすい語
「無期」です。「むご」ですね。これは特に正答率が低いです。
出題ポイント
以下の4項目が何も見ずに訳すことができるか。確認してください。
- な起こしたてまつりそ
- あなわびし
- 食ふ音のしければ、すべなくて
- 僧たち笑ふことかぎりなし
な起こしたてまつりそ
《出題ポイント!》
現代語訳です。「なーーそ」「たてまつる」両方の訳出がポイントです。
→(訳)お起こし申し上げないでください。
「たてまつる」は謙譲語の補助動詞と呼ばれるものです、今は「〜申し上げる」と訳すと知っておけばよいでしょう。 「な――そ」は「――しないでください」とやわらかい「禁止」を表します。
あなわびし
《出題ポイント!》
「わびし」の語が問われやすいですが、「あな」も捨てきれません。現代語訳できたほうがよいでしょう。
→(訳)ああ、つらい
「あな」は感動詞で「ああ」と訳します。 「わびし」は、思うようにはかどらずやりきれないことを表し、「1苦しい、つらい/2さびしい(わびしい)」などと訳します。ここでは、「つらい」でよいでしょう。
食ふ音のしければ、すべなくて
《出題ポイント!》
このときの「児」の気持ちを考える。ぜひ自分で言語化してみてください!
→(訳)食う音がしたので、どうしようもなくなって
「けれ」は「〜た」と過去の意味を表す助動詞。これが已然形になって、「ば」とつながっている。これの解釈は以下の通り。 「已然形+ば」は「〜ので(原因・理由)」と「〜(する)と/(した)ところ(偶然条件)」の2つの訳しかたを覚えておきましょう。
「すべなし」(術無し)は「なすすべがない/どうしようもない」という意味です。
僧たち笑ふことかぎりなし
《出題ポイント!》
どうして、僧たちは笑ったのか。
→(訳)(児がずっと後になってから返事したので)僧たちは(児の考えや行動が滑稽だと思い)この上なく笑った。
「限りなし」は「この上ない」という意味です。児がずっと後になってから返事したので、僧たちは児の考えや行動が滑稽だと思い笑ったのです。
文法の確認
この文章は高校一年生の初期に読むことが多いでしょうから、動詞の問題として出題されることが多いと考えられます。ですので、以下の問題を解いて、動詞の問題に慣れておきましょう。
「児のそら寝」に始めの文の中で活用の種類と活用表を確認してみます。一年生の最初期としては、かなり難しく感じると思います。手に負えない場合は、ここは一旦飛ばして、動詞の学習がしっかり終わってから改めて解いてみてください。
本文中の青太字①〜㉔の動詞の活用の種類と活用形を答えなさい。
これも今は昔、比叡の山に児①ありけり。僧たち、宵のつれづれに、「いざ、かいもちひ②せむ。」と③言ひけるを、この児、心寄せに④聞きけり。さりとて、し⑤出ださむを⑥待ちて⑦寝ざらむも、わろかりなむ、と⑧思ひて、片方に⑨寄りて、⑩寝たるよしにて、⑪出で来るを待ちけるに、すでにし出だしたるさまにて、ひしめき⑫合ひたり。
この児、さだめて⑬おどろかさむずらむ、と待ち⑭ゐたるに、僧の、「もの⑮申し ⑯さぶらはむ。⑰おどろかせ⑱たまへ」と言ふを、うれしとは思へども、ただ一度に⑲いらへむも、待ちけるかともぞ思ふとて、今一声⑳呼ばれていらへむ、と㉑念じて寝たるほどに、「や、な㉒起こし㉓たてまつりそ。幼き人は㉔寝入りたまひにけり」と言ふ・・・
解答は以下のとおりです。板書で確認してください。
どうしても1年生の最初の方は動詞の活用からは逃れられないので、ここを得点源にしておくと古典(言語文化)の試験では他の人と差がつくことになり、自信もついてくると思いますよ。がんばってください。
おわりに
今回は「児のそら寝」の第2回でした。多くの高校1年生が古典学習のスタートで読む文章なので、ある程度分かりやすく、またお話として面白いものをということで「児のそら寝」が選ばれているのでしょう。とはいえ、きちんと理解するには難しい文法事項も含まれています。ある程度学習が進んでから改めて読んでみると、新しい発見があるかもしれませんよ。それでは、またお会いしましょう。
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