はじめに
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先生、よく問題で「誰から誰への敬意か」って出てくるんですけど、全然わからなくて・・・。どうしたらいいですか?
敬語の問題で一番問われるところだね。今回は敬意の方向について学んでいこうか。
はじめに、今回学習することの要点を示します。
敬意の方向
今回は、尊敬語・謙譲語・丁寧語のそれぞれが「誰が」「誰に」敬意を払っているのかを確認していきます。実は、第2回で尊敬語・謙譲語・丁寧語の定義を話しているときに、このことはすでに伝えています。それを今回は図にして、より分かるように説明していきます。
イメージを知る
第2回でお伝えした、尊敬語・謙譲語・丁寧語の定義を改めて示します。
尊敬語
話し手(書き手)が話題の中の動作をする人に敬意を表す。
謙譲語
話し手(書き手)が話題の中の動作を受ける人(動作をされる人)に敬意を表す。
丁寧語
話し手が聞き手に敬意を表す。
(書き手が読み手に敬意を表す)
これをまず思い出した上で、次の項目に進んでください。
地の文
まず、「地の文」からです。「地の文」とは「会話文(心中文)でない文」、通常の文章に使われている文のことです。私達は古文を読んでいくわけですから、ほとんどが地の文ということになります。地の文では、敬意を払おうと考えている人が「書き手」つまり、文章の「作者」ということになります。それでは、下の図を見てください。
この図は、「書き手」が何かお話を書いている場面です。そのお話は、「『ある人』(A)が『別のある人』(B)に手紙を送った」という内容です。このときの『ある人』(A)が手紙を送る人、つまり「動作をする人」、『別のある人』(B)が手紙をもらう人、つまり「動作を受ける人(される人)」になります。
次に、「誰が」敬意を払っているかを考えます。先程も述べた通り、敬意を払おうとする人は「書き手」つまり、文章の「作者」です。つまり、敬意の方向は「書き手」(作者)から出発すると考えればよいわけです。「誰が(誰から)」は「作者」、これをまず覚えてください。
【地の文】敬意の方向①
誰が(誰から)は「作者」
いよいよ、「誰に対する」敬意かを考えましょう。「敬意の方向」は「誰から誰への敬意」を考えるものですが、誰からはすべて「作者」だということは分かりました。そこで、改めて尊敬語・謙譲語・丁寧語がどういうものか見てみます。
尊敬語
話し手(書き手)が話題の中の動作をする人に敬意を表す。
謙譲語
話し手(書き手)が話題の中の動作を受ける人(動作をされる人)に敬意を表す。
丁寧語
話し手が聞き手に敬意を表す。
(書き手が読み手に敬意を表す)
尊敬語は「話題の中の動作をする人」への敬意です。ということは、下の図で言えば「↑」に向かいます。謙譲語は「話題の中の動作を受ける人」への敬意です。ということは、下の図で言えば「↗」に向かいます。また、丁寧語は、地の文では「読み手」への敬意です。ということは、下の図で言えば「→」に向かうことになります。この図をイメージできると、「敬意の方向」は非常に簡単になります。
では、実際に(例文)を使って練習してみましょう。太字の敬語動詞は誰から誰に対する敬意を表しているでしょうか。
(例文1)男が、女にのたまふ。
(例文2)児が、翁に申す。
どちらも地の文です。(例文1)の「のたまふ」は「言ふ」の尊敬語です。尊敬語は「作者から動作をする人への敬意」でした。男が「動作をする人」、女が「動作を受ける人」なので、上の図に合わせて考えてみると、「作者から男への敬意」ということが分かります。
次に(例文2)です。「申す」は「言ふ」の謙譲語です。謙譲語は「作者から動作を受ける人への敬意」でした。児が「動作をする人」、翁が「動作を受ける人」なので、上の図に合わせて考えてみると、「作者から翁への敬意」ということが分かります。
【地の文】敬意の方向②
尊敬語:「作者」から「動作をする人」への敬意
謙譲語:「作者」から「動作を受ける人」への敬意
丁寧語:「作者」から「読者」への敬意
会話文
次に、会話文です。「誰が敬意を払っているか」、つまり「誰の(誰から)」が地の文と異なるところです。地の文では、「作者」でしたが、「会話文(心中文)」では「話し手」となります。ただし、「話し手」は具体的に誰なのかを明らかにする必要があります。本文をしっかり読んで、「誰が話をしているのか」をつかむようにしてください。そのため、敬意の方向の問題は、会話文の方が、難易度が上がるのです。
【会話文】敬意の方向①
誰が(誰から)は「話し手」
※「話し手」は誰かを明らかにする必要あり
「誰に対する」敬意かは、基本的に地の文と同じです。ただし、丁寧語は「聞き手」への敬意となります。下の図を見て確認してみてください。
では、実際に(例文)を使って練習してみましょう。太字の敬語動詞は誰から誰に対する敬意を表しているでしょうか。
(例文3)(嫗)「男が、女のもとへおはす。」
(例文4)(侍)「児が、翁のもとへまゐる。」
(例文5)太郎が次郎に「女房が侍り」と言ふ。
どちらも会話文です。(例文3)の話し手は「嫗」、(例文4)の話し手は「侍」です。(例文3)の「おはす」は「行く・来」の尊敬語でしたね。尊敬語は「作者から動作をする人への敬意」でした。男が「動作をする人」、女が「動作を受ける人」なので、上の図に合わせて考えてみると、「嫗から男への敬意」ということが分かります。
次に(例文4)です。「申す」は「言ふ」の謙譲語でしたね。謙譲語は「作者から動作を受ける人への敬意」でした。児が「動作をする人」、翁が「動作を受ける人」なので、上の図に合わせて考えてみると、「作者から翁への敬意」ということが分かります。
(例文5)の「侍り」は「あり」の丁寧語です。会話文の丁寧語は「話し手から聞き手への敬意」です。「話し手」は「太郎」、「聞き手」は「次郎」です。よって、「太郎から次郎への敬意」になります。
【会話文】敬意の方向②
尊敬語:「話し手」から「動作をする人」への敬意
謙譲語:「話し手」から「動作を受ける人」への敬意
丁寧語:「話し手」から「聞き手」への敬意
※「話し手」「聞き手」は誰かを明らかにする必要あり
敬意の方向 一覧表
これまでの、「イメージ」のところで、敬意の方向の考え方は分かりました。これを実際に一覧表にしてみます。
地の文
一覧表にすると、以下の通りになります。
「動作をする人」「動作を受ける人」というのがもう一つわからないという人もいると思います。実際のところ、「動作をする人」というのは、その動詞(補助動詞)における主語、つまり「〜は」「〜が」にあたる人物です。例えば、先程の「(例文1)男が、女にのたまふ。」であれば、「のたまふ」の主語に注目して「男」への敬意と言えたら良いわけです。
一方、「動作を受ける人」というのは、その動詞(補助動詞)の対象語(目的語)、つまり「〜に」「〜を」にあたる人物です。「(例文2)児が、翁に申す。」であれば、「申す」の対象語(〜に)に注目して、「翁」への敬意と言えたら良いわけです。
以上をまとめると、以下のように書くこともできます。
会話文
一覧表にすると、以下の通りになります。
これも「動作をする人」というのは、その動詞(補助動詞)における主語、つまり「〜は」「〜が」にあたる人物で、「動作を受ける人」というのは、その動詞(補助動詞)の対象語(目的語)、つまり「〜に」「〜を」にあたる人物であるといえます。
ということは、以下のように書くこともできます。
(例文3)(嫗)「男が、女のもとへおはす。」
この「おはす」の主語(〜が)に注目すると、「男」への敬意だといえます。
(例文4)(侍)「児が、翁のもとへまゐる。」
この、「まゐる」の対象語(〜に、を)に注目すると、「翁」への敬意だといえます。例文では「翁のもとへ」となっていますが「翁(のもと)に」と言い換えることもできることから、このように考えられるわけです。
以上で、敬意の方向の説明を終わります。敬意の方向は、実際に何度も練習しないとマスターできませんので、多くの文章に触れて、敬語が出てくるたびに「誰から誰への敬意か」を考えていきましょう。最初は時間がかかりますが、徐々にすぐ答えられるようになりますよ。頑張りましょう!
練習問題
問題番号は第1回〜第3回の続きですので、問九からになります。
尊敬語の問題
問九 青太字の尊敬語は、Aだれの(だれから)、Bだれに対する、敬意を表しているか、現代語訳の人物関係を参考にして、答えなさい。
(1)急ぎ参らせて御覧ずるに、珍かなる児の御容貌なり。
(訳) 急いで(宮中へ)参上させて、(帝が)御覧になると、めったにないほど美しい赤ん坊(光君)のお顔である。
(2)大御酒給ひ、禄給はむとて、つかはさざりけり。
(訳) お酒を下さろう、ご褒美をお授けになろうとして、(親王は業平を)お帰しにならなかっ
(3)翁、「うれしくも、のたまふものかな」といふ。
(訳) 翁が、(かぐや姫に)「うれしいことを、おっしゃるものだよ」という。
(4)「たれよりもすぐれ給へり」とこそ申しけれ。
(訳)「(道長殿の人相は)誰よりもすぐれておられる」と、(人相見は)申し上げた。
【解答】
問九(1)A作者 B帝 (2)A作者 B親王 (3)A翁 Bかぐや姫 (4)A人相見 B道長
【解説】
前提として、「誰から」は地の文なら「作者」、会話文なら「話し手」でしたね。「誰へ」は尊敬語の場合、その「動作をした人」つまり、「誰がしたの?」を考えて行けば解答できます。
(1)(2)は地の文なのでAは「作者」、(3)(4)は会話文なのでAは「話し手」(3は翁、4は人相見)です。Bは、(1)「御覧ず」の主語は「帝」、(2)「給ふ」の主語は「親王」、(3)「のたまふ」の主語は「かぐや姫」、(4)「すぐれ給ふ」の主語は「道長」となります。
謙譲語の問題
問十 傍線の謙譲語は、Aだれの(だれから)、Bだれに対する、敬意を表しているか、現代語訳の人物関係を参考にして、答えなさい。
(1)御供に、公忠、さぶらひけり。
(訳) (帝の)お供として、公忠が、おそばにひかえていた。
(2)殿も上も参り給ひつつ、もてかしづき聞こえ給ふ。
(訳) 道長殿も奥方も、(若宮の所へ)参上なさって、大切にお世話申し上げなさいます。
(3)この御方の御諌をのみぞ、なほ、わづらはしう、心苦しう思ひ聞こえさせ給ひける。
(訳) このお方(お后)のご意見だけを、(帝は)やはり、めんどうなことだとも、気の毒なことだとも、思い申し上げなさった。
【解答】
問十(1)A作者 B帝 (2)A作者 B若宮 (3)A作者 Bお方
【解説】
「誰から」は地の文なら「作者」、会話文なら「話し手」です。「誰へ」は謙譲語の場合、その「動作を受ける人」つまり、「誰にしたの?」を考えて行けば解答できます。
(1)〜(3)はいずれも地の文なのでAはすべて「作者」です。Bは、(1)「さぶらふ」は、「誰に仕える」を考えると「帝」、(2)「参る」は「誰のもとに行く」と考えると「若宮」、(3)「聞こえ」は、「誰に対して思う」と考えると「お方(お后)」となります。
丁寧語の問題
問十一 傍線の丁寧語は、Aだれの(だれから)、Bだれに対する、敬意を表しているか、口語訳の人物関係を参考にして、答えなさい。
(1)「さらば、かく申し侍らむ」といひて、入りぬ。
(訳) 「それなら、そう(姫に)申しましょう」と(嫗が使者に)いって、入った。
(2)「当時、わづかに七八十騎こそ候ふらめ」と申す。
(訳) 「現在、(相手方は)わずかに七八十騎、いるようです」と、(人々が大臣に)申し上げる。
(3)徳大寺にも、いかなるゆゑか、侍りけん。
(訳) 徳大寺(の一件)にも、どんな理由が、あったのでしょうか。
【解答】
問十一(1)A嫗 B使者 (2)A人々 B大臣 (3)A作者 B読者
【解説】
丁寧語は、地の文なら「作者から読者」、会話文なら「話し手から聞き手」です。
(1)(2)は会話文です。訳を見ると「話し手」と「聞き手」が誰か分かります。(3)は地の文なので「作者から読者」です。
おわりに
以上で、敬意の方向の説明を終わります。これで敬語の5回中4回が終わりました。次回は「敬語の重複」についてです。古文では、一つの言葉に敬語が重なって出てくることが多々あります。それらを学習して、敬語の学習の基本は終わりにしたいと思います。では、またお会いしましょう!
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