はじめに
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先生、動詞や助動詞もだいぶ分かるようになったのですが、敬語が出てくるとさっぱりわからなくなります。どうしたらいいですか。
敬語は、古文文法の学習でもかなり大きな分野になるんだけど、分からないっていう人も多いよね。じゃあ、今回から5回にわたって「古文文法の敬語」について学んでいこう。
ただし、この5回で理屈はわかるようになると思うけど、動詞や助動詞以上に実際の文章でのトレーニングが必要になります。ここで知識を入れて、あとは実際にたくさんの文章に触れてくださいね。
はじめに、今回学習することの要点を示します。
敬語とはどのようなものか
まずはじめに、敬語は誰に対して使うものですか?「偉い人」に対してですよね。では、誰が使うのですか?改めて考えるとちょっとわからなくなります。まずは「話をしている人」と言えたらOKです。ということは「話をしている人が偉い人に対して」使う言葉が敬語だということです。
ただ、それは会話の中での話です。文章であればどうなりますか。「偉い人」に対して使うことは同じですが、誰が使うかというと、それは「文章を書いている人」になります。つまり、「文章を書いている人が偉い人に対して」使う言葉でもあるということです。
では、次に「偉い人」はどこに出てくるかを考えましょう。会話の中で考えると、話の中に出てくる人物になりますね。例えばこんな例文があったとしましょう。
(例文1)(太郎)「この前、先生が僕の家にいらっしゃった。」
これは、話をしている「太郎」が、話題に出てきた「先生」を敬うために「来る」を「いらっしゃる」と言い換えているわけです。先ほどから言っている「偉い人」とはこの文の「先生」のことです。
つまり、「話し手」(=太郎)が話題の中の人物(=先生)に対して敬意を払うために敬語が使われているということです。これが敬語の最も基本になる考え方です。
そして、これは文章であっても考え方は変わりません。「話し手」が「(文章の)書き手」に変わるだけです。さらに、敬語は「話し手」が「聞き手」に(「書き手」が「読み手」に)敬意を払う場合もあります。これは「丁寧語」と言われるものです。
以上をまとめると、このようになります。
敬語とは
話し手(書き手)が話題の中の人物や聞き手(読み手)に対して敬う気持ちを表すときに使われるもの。
敬語の表し方(尊敬語)
それでは、実際に敬語の表し方を考えてみましょう。
(例文2)山田先生が酒を飲む。
この、「飲む」という言葉を敬語(尊敬語)に改めると、以下のような文になります。
「尊敬語」は第2回で詳しく説明するよ
- 酒を召し上がる。
- 酒を飲まれる。
- 酒を飲みなさる。(お飲みになる)
このように3種類の表し方があります。原則的に意味は同じです(微妙なニュアンスは異なりますが、今回は置いておきます)。また、話をわかりやすくするために、尊敬語に限ってお話します。尊敬語については、第2回で詳しくお話します。
1は「飲む」という動詞を別の動詞「召し上がる」に置き換えたもの、2は「飲む」という動詞に、尊敬を表す助動詞「れる」を付け加えたもの、3は「飲む」という動詞に、尊敬を表す「なさる」という別の動詞を付け加えたものです。特に3が厄介で、この「なさる」は本来の「する」という意味は失って、ただ尊敬の意味を表す働きを持つだけの動詞となっています。このような働きをするものを補助動詞と呼びます。
次に、古文の場合を考えます。古文も現代の文と表し方は同じです。
- 酒を召す。
- 酒を飲まる。
- 酒を飲み給ふ。
現代語と少し異なりますが、1は「飲む」という動詞を別の動詞「召す」に置き換えたもの、2は「飲む」という動詞に、尊敬を表す助動詞「る」を付け加えたもの、3は「飲む」という動詞に、尊敬を表す補助動詞「給ふ」を付け加えたものです。
つまり、現代の文でも古文でも、敬語の表し方は変わりません。1.別の動詞に置き換える、2.助動詞を付け加える、3.補助動詞を付け加える、の3種類です。また、1の「動詞」は3の「補助動詞」と比較して「本動詞」と呼ぶこともあります。
今回は、敬語の表し方についてお話しました。
1.別の動詞に置き換える、
2.助動詞を付け加える、
3.補助動詞を付け加える、
の3つが分かればOKです。ただ、今回は「動詞」についてのみ説明しましたが、実際は「御」という尊敬を表す接頭語を付けたり、「宮」など名詞そのものがすでに敬う言葉である場合もあります。それは実際に文章を読みながら確認していってもらえたらと思います。
練習問題
では、敬語の表し方が理解できたか、実際に問題を解いて確認してみましょう。特に、本動詞(動詞)と補助動詞の違いが分かるかを中心に解いてみてください。
問一 青太字A~Iの尊敬語は、次のどれにあてはまるか答えなさい。
ア 動詞 イ 補助動詞 ウ 助動詞 エ 名詞
(1)帰りて、A宮に、入らBせC給ひぬ。
(2)D帝、鳥飼の院にEおはしましにけり。
(3)FおほせGられければ、すなはち詠みて奉りける。
(4)いとかしこく賞でH給うて、かづけものI給ふ。
【解答】
問一 Aエ Bウ Cイ Dエ Eア Fア Gウ Hイ Iア
【解説】
A・Dは名詞です。「宮」「帝」は名詞ですが、その言葉自体が敬語になっています。C・Hは直前が動詞(助動詞)なので補助動詞です。動詞の後にくるのが補助動詞だと理解してください。同じ「給ふ」でも、Iは動詞ですので間違えないように。また、尊敬を表す助動詞は「る」「らる」の他に「す」「さす」「しむ」がありましたね。思い出せなかった場合は、それぞれ助動詞の項目で確認しておきましょう。
問二 青太字A~Iの敬語は、次のどれにあてはまるか答えなさい。
ア 動詞 イ 補助動詞 ウ 助動詞
今は昔、和泉式部がもとに、帥宮通はAせBたまひけるころ、久しく音せCさせDたまはざりけるに、その宮にEさぶらふ童の来りけるに、御文もなし。帰りまゐるに、待たましもかばかりこそはあらましか思ひもかけぬ今日の夕暮れ 持てFまゐりて、Gまゐらせたりければ、「まことに久しくなりにけり」と心ぐるしくて、やがてHおはしましけり。女も、月を眺めて、端に居たりけり。前栽の露、きらきらと置きたるに、「人は草葉の露なれや」とIのたまはするさま、優にめでたし。
【解答】
問二 Aウ Bイ Cウ Dイ Eア Fア Gア Hア Iア
【解説】
B・Dが補助動詞です。どちらも動詞(助動詞)の後にあります。あとは、A・Cの助動詞を除いてすべて動詞になります。
おわりに
以上で敬語の第1回を終わります。今回は表し方だけでしたので易しかったでしょうか。それでも敬語の基本になる項目なので、確実に理解しておきたいものです。次回は、尊敬語・謙譲語・丁寧語の3種類の敬語と、それぞれの補助動詞について詳しく学んでいきます。では、またお会いしましょう。
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